暁月

□act.1
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そう。あの時のフェイタンの顔は今思えばかなり面白かった。


ベランダに身を乗り出し、不意に2年前のことを思い出したノアは小さく笑った。

「どうした?」

不意に背後から声がかけられた。ノアは別段驚くこともなくその声の主に向き直る。


「帰ってたなら言ってくれれば良かったのに」


そこに立っていたのは、あの日ノアを拾ってくれた張本人。


「おかえり、クロロ」

「ああ」


珍しく疲れた様子の彼は、いつものオールバックではなく、前髪を下ろした見かけ上好青年。


「なんか、疲れてるね」

「そうか?」


飄々と言ってのけてはいるが、疲労の色は隠しきれていない。

いや、疲労というか、これは。


「クロロ……怪我、したりしてないよね?」

「…………いや?」


なんだその間は。



「絶対嘘でしょ。見せて」

「かまうな」

「わたしの能力知ってるでしょ」

「俺が教えたんだ。当たり前だろう」

「でしょ? ほら早く。よこして」

「いや……」

「いいから!」


ほぼ強引に彼の服を脱がせた瞬間、現れた裂傷の数々。


「……」

「だからかまうなと……」

「なにしたの」


特に悪びれる様子もないクロロをノアは睨みつける。

悪名高き幻影旅団。その団長である彼に、ここまで手傷を負わせられるものなど限られている。

ノアの視線に負けたのか、クロロは小さく息をつき、口を開いた。


「ゾルディックの奴らと、少しな」

「え……」


ゾルディック家といえば、有名な暗殺一家だと以前目の前の男から聞いたことがある。かなり腕が立つ、とも。


「団員が1人、殺られた」

「……そう」


助けられなかったことを、悔いているのか。


「で、これは罪滅ぼしのつもりに残しておこうってこと?」


決して軽くはないその傷を。

 
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