※精神的破屁、肉体的屁破


※生暖かい目でご覧下さい。










日常に爆弾を落としてくるのは、いつだって破天荒の方からだった。八つも年上で、いつもはクールぶってて落ち着きを見せるくせに、場を引っ掻き回すのが大好きというめんどくささを孕んだ幼さを残している。きっとハジケ組としてあのオレンジボールと長く関わっていたのが原因だろう。人のことを散々ガキ扱いしてくる破天荒だけど、この頃は『お前にだけは言われたくねぇよ』と言い返すのが常だ。





そういった部分も含めて俺は破天荒が好きで、だから四年以上もコイツと居るし、これからも居たいと思ってる。けれど、俺達はお互い男で、子供も作れなければ結婚も出来ない。世間の目は冷たくて厳しくて、付き合っていくことに対して恐怖にも似た感覚を抱いて、何度か心が折れそうになって、破天荒に別れを切り出したこともある。


でも、どんなに不安になって、俺が尻込みしても、その度に破天荒が引き戻してくれる。俺が欲しい言葉を与えてくれる。不安を消し去ってくれる。そしてその度に実感する。










俺には、破天荒が必要なんだって。






だから…。




「三十歳まで童貞だったら魔法使いになれるらしいぜ」




こんな馬鹿らしいことを平然と言ってのける三十路手前の、変態金髪野郎でも、俺は愛してる。……けども。





今日でその気持ちに終止符を打てるかもしれない(さっきまでの良い話っぽい雰囲気どこいった!)。




「………」
「おい、そんなゴミを見るような目で俺を見るなよ」
「ちゃんと俺の心中を察していただけたようで」
「なんだよなんだよ、常識じゃねぇか」





缶ビールをグイっと煽りながら、破天荒はケラケラ笑う。駄目だ、完全にって訳じゃないけど出来上がってきてる。五本目だから当たり前だろうが。そして末恐ろしいことにその前にウイスキーと日本酒も二本三本飲み干しているのだ。それだけのアルコールを摂取しておきながらほろ酔いで済むってどういうことだ。お前の肝臓はどうなってんだ?






俺は溜息をつきながら冷蔵庫から作り置きしていたキュウリのぬか漬けと、今揚げたばかりの唐揚げを持ってリビングに戻った。週に一回、次の日が休みだからと酒を浴びるように飲む破天荒のためにツマミを作るのが最早定番だ。酔い潰れることはないので手間は掛からないが、毎週毎週こんなに飲んで食べてされると食費がかさんで仕方無い。しっかり破天荒の給料から抜いてはいるけれど。





「お前魔法使いなれたらどんな魔法を使う?」
「魔法使いなんかならないから大丈夫だ」
「は? だってお前が童貞卒業とか有り得ねぇだろ」
「勝手に決めんじゃねぇよ!」





確かに俺はまだ…だけども…。でもそれは思春期真っ只中に女の子と付き合う前に破天荒と付き合うことになって、何故か俺が抱かれる側で、そのままそれが変わることなく続いてきたからで…結論、俺がまだ童貞なのは明らかに破天荒が悪い。




…今までの状態に甘んじてきた俺にも、多少は問題あるかもしれないけど。




「魔法使いまであと十年だぞー? 今のうちに考えとけよ」
「…十年の間に卒業するかもしれないじゃん」
「誰で? 嬢ちゃん?」
「なんでそこでビュティが出てくる!?」





頼むからビュティをそういう対象に見させるようなこと言わないでくれ!



……いや、あの、確かに、本当に短い間だったけど俺はビュティが好きだったし、そういうことを考えなかった訳じゃ無いんだけど…でも今はそんな感情は少しも抱いてない。誓って。ビュティは仲間だ。今も変わらず大切な、一緒に旅をして、苦楽を共にした仲間だ。





「ビュティとなんて有り得ない」
「ふーん。じゃあお前の卒業の可能性は消えたな」
「なんで選択肢がビュティ一択なんだ!」
「それ以外の女でお前がまともに接せられる奴いんのかよ」
「………」





言われてみれば確かにそうだなーと思う。俺の周りは女の人が少なすぎる。もともと敵だった人ばっかりだ。中には人外まで居るし。なんにしてもそういう対象として見るなんて有り得ないけど。




「十年後のお前が楽しみだなー」
「くっ…」





俺を存分にからかえて、破天荒はご機嫌な様子。俺は破天荒の言葉がとても的を射ているようで、なんとも言い返せなくなってしまい押し黙った。そのまま悔しさを紛らわすために唐揚げを頬張った。美味しい。なんで俺、こんなデリカシーの無い奴にこんな美味しい唐揚げ作ってやってるんだろう。ちょっと自分の抱く感情に修正をかけるべきだろうか。いやマジで。







コイツと一緒に居たいと心の底から思う時と、さっさと別れた方が自分の為になるんじゃないかと思える時の差が激しすぎる。今は後者である。揺るぎなく後者である。なんで俺はこんな奴に惚れてしまったんだろうと思うのは、大体こういう時だ。破天荒からしたらただ軽口のつもりなのかもしれないが、言われたコッチはグサグサと地味にダメージ受けてるんだよ。本当にデリカシーが無さすぎる。もういい大人なんだからその辺ちゃんと弁えてほしいんだけど。







そんな俺の心中も知らず、破天荒はいつの間にやら六本目の缶ビールを開けていた。おい、いつまで飲む気だお前は。童貞やら魔法使いやら好き勝手なこと言って自分だけ気分良くなるとかズルイ。ズルすぎる。くそ、どうやったらコイツに一泡吹かせることが出来るんだろう。俺は自分の為に用意してたチューハイをちびちび飲みながらちょっと考えてみた。






――だがしかし、あまり酒が得意じゃない俺が少量とはいえ飲酒した時点で、ロクな考えが浮かぶ筈がないのだった。本当に良策を巡らせたいのなら、飲酒する前に考えなければならなかった。そうしなかった俺の痛恨のミスだ。





「じゃあお前で卒業させてよ」





などと宣うぐらいなら。




悔しさを胸に秘めたまま酔っ払いを放置して寝てしまうべきだったのだ。








俺の言葉に、破天荒はぬか漬けに伸ばしていた箸を止めてキョトンと俺を見つめてきた。しばしの沈黙が流れる。それに耐えられなくなるのは俺の方。自分がどれだけバカなことを言ってしまったのか、遅ればせながら理解したからだ。





「……ごめんなさい、忘れてください」
「………」





素直に謝るが、破天荒は無言だ。視線も逸らされないまま、俺を射抜く。ちょっと居心地が悪い。





「…破天荒?」
「いいぜ別に」
「へ…えっ!?」




やっと口を開いたかと思ったら、飛び出してきたのはまさかの了承。俺は思わず持ったままのチューハイ缶を落としそうになった。だってだって、まさか破天荒の口から「いいぜ」の三文字が飛び出してくるなどと、誰が予想出来るというのか。しかも要求が「お前で卒業させてよ」なのにも関わらずである。





俺が驚きのあまり声も出せないでいると、破天荒はさっさと六本目の缶ビールを飲み干し、スクっと立ち上がる。そしてそのまま俺の手を掴み、立ち上がらせた。




「え、え…あの、破天荒?」
「なんだよ。さっさとベッド行くぞ」
「いやいやいやいや! え、お前本気で言ってる!? 俺が言った意味理解してる!?」
「してるしてる。俺を抱いて童貞卒業してぇんだろ? いいじゃん童貞卒業。その相手が俺とか超ラッキーじゃんお前」
「お前実は相当酔ってるな!?」
「酔ってない酔ってない。ほら、さっさと行くぞ」
「あ、えー…?」





混乱したまま、引き摺られるように寝室へ向かう。なんか、話がトントンと進み過ぎて逆に怖い。裏がありそうで怖い。コイツが本気で俺の童貞を卒業させてやろうなどと殊勝なことを考えてくれているとは思えない。ただの酔っ払いの戯言だと思いたい。ヤバイ、逃げたい。でも逃げられない。酔っ払いのくせに力は強い。





せめて、俺が無事に朝を迎えられますように……なんて心中で祈りながら、俺と破天荒は寝室の扉を閉じた。




















──案の定、破天荒は素直に俺の童貞卒業に力を貸してくれるわけじゃなかった。





ベッドに着くなり、すぐに破天荒に裸に剥かれた。それから破天荒も裸になった。お互い一糸纏わぬ姿になってから、そこら辺に放置されてたタオルで、何故か俺は後ろ手に拘束され、ベッドヘッドに固定された。てっきり「じゃあ全部お前がやれよ」みたいな感じで丸投げされて俺が根を上げるのを待つのかと思ってたから、面食らった。どちらにしろ拘束される意味が分からなかったが。




「よし」
「何がだ。なぁ破天荒、これ一体何?」
「あ? 準備してる間に逃げられないようにしたんだよ。お前、直前で怖気付きそうだし?」
「誰が逃げるか! …ん? え、準備?」
「当たり前だろうが」





そう言って不敵に笑った破天荒の手には、いつも使ってるローションボトル。それの蓋を開けて中身を手の平に馴染ませながら、破天荒は投げ出されてる俺の足に膝立ちで跨った。その目は肉食獣のようにギラギラと光って見えて、ゾクリと背が震えた。






てっきりそのまま俺の童貞卒業を無視してローションプレイでもするのかと思ったが、それじゃあさっき言ってた準備と繋がらない。何してんだろう…と思ったら、破天荒は、ローションまみれになった指を。





「んっ…」





自分の後ろに、挿し込んだのだ。






あまりに予想外の破天荒の行動に、俺は一気に顔が赤くなったのを感じた。ようやく、準備の意味が理解出来た。そうだ、解さなきゃ、俺達は繋がれない。いつも破天荒がイヤになるくらい俺の後ろを解すのも、俺をいじめたいんじゃなくて、そういう理由があるからだ。当たり前の事実を、俺は今再認識した。






頭では理解出来る。でも、だからって、目の前の破天荒の行動は、受け入れ難いものだった。






なるほど、これは逃げられると思われても仕方ないかもしれない。今すっごく逃げたい。軽はずみにあんなこと言っちゃったのを、そして大人しく寝室に連れられてしまったことを、俺は早速後悔していた。




「あー…なんか、気持ち悪い…」





俺を見下ろしながら、破天荒は指を動かす。俺を受け入れる為に、きっと一度も触れた事なんて無いだろう場所を、懸命に解そうとしている。そんな破天荒の姿はあまりに淫靡で、俺には刺激が強かった。




見ていられなくて思わず目を逸らしてしまったが、破天荒はそれを良しとしなかった。





「おい、よそ見すんな」
「ひっ…」





後ろの指はそのままに、破天荒は俺の耳元にわざわざ顔を近付けて囁く。そのまま耳たぶを噛まれ、突然の直接的な刺激に声が漏れる。





「誰のために、こんなことしてると思ってんだ? ちゃんと見てろよ」
「やっ、そ、そこで喋るなよ…」





俺が耳弱いのを分かってて、破天荒はわざと吐息混じりにそう言って笑う。首を振って逃れようとしたが、執拗に攻める破天荒の舌のせいでロクに逃げられない。耳の輪郭をなぞるように這わされる舌の感触に、背筋がゾクゾクと震えた。




だが、余裕ありげに思える破天荒の振る舞いだったけど、実はそこまで余裕があるわけではないようだ。間近で聞こえる息は普段よりも荒くて、時々呻き声も漏れてる。それが自分で解すのが辛いからなのか、興奮しているのか、はたまた両方からなのか…。




「興奮してんだ?」
「んっ…なに…言って…?」
「勃ってるぜ、ココが」
「あっ!?」





キュ、と自身を握られて、自分の口から信じられない程高い声が上がった。指摘された通り、ソコはしっかり芯を持って勃ち上がり、震えていた。信じられなかった。まだほとんど何もされていないのに、こんなになってるなんて…。



受け入れ難い現実を嘲笑うかのように、破天荒はそこを手全てを駆使して弄ぶ。たったそれだけで感じてしまう自分が恨めしい。というかそれ以前に、何もされてないのに反応してしまったことが恥ずかしい。もうヤダ、消えたい。





「俺が後ろ弄ってんの見て興奮したか? へっくんは見かけによらず変態だなぁ、おい」
「や…そんな、ちが…」
「違わないだろ? じゃあなんでここおっ勃たせてんだよ」
「ひゃう!?」






ピンッと先端を弾かれ、下半身と背筋が一気に震えた。たったそれだけで達しそうになる。どうしてだろう、今日の俺の身体はひどく敏感だ。普段はこんなに感じたりしないのに。一体どうして…。








破天荒の言う通り、俺は興奮してる? いつもとは違うシチュエーションに、高鳴りを覚えてる? だから今こんなにも感じてしまってる? そういうことなのか?




答えの無い問いに翻弄される俺を、破天荒は容赦無く追い詰めていく。手の平で自身をやんわりと握り込まれ、そのまま上下にスライドさせ、快楽を引き出していく。いつもの常套手段だ。俺はこれに弱い。ゾクゾクと全身を駆け巡る快楽と、込み上げてくる射精感。いつものように、イカされてしまいそうになる。





声が抑えられない。快楽に呑まれる。何も考えられなくなる。今の状況も何もかも、頭から吹っ飛んで行きそうだった。




「あぁ、はぁっ…も、やだ、い、イっちゃっ…」
「もうか? はっや。んじゃ、ストップなー」
「うぁっ!? や、いたぁ…!」




限界を訴えると、破天荒はあっさりと扱く手を止めた。…と思ったら、どこから出したのか分からない細い紐で、あろうことか俺の自身の根元をキツく縛り上げてしまった。色んな意味でのストップだった。






出口を塞がれ、吐き出す術を無くした欲がぐるぐると身体を巡る。熱い。苦しい。呼吸が落ち着かない。視界がぼやけて、俺に乗り上げている破天荒の姿すら不明瞭だ。無意識に求める、破天荒の熱。慣らされた身体は、意図も容易く堕ちて行く。




「く、うぅ…やだ、破天荒…ほどいてっ…」
「やーなこった。ほどいたらお前、すぐイっちまうんだろ? だったらさぁ──」





ズル、と何かが引き抜かれた音がした。そちらに目を向けてみると、色々な液体ですっかり濡れそぼった破天荒の指が見えた。俺は思い至る。それが、今の今まで破天荒が後ろを解していた指であると。




指を引き抜いて、破天荒は縛られて震えている俺のをやんわりと掴む。そして腰を上げ、それを自分の後ろに当てがった。これからどうなるのか、分からない程無知では無い。破天荒が何をするつもりなのか悟れない程、鈍くもない。





「──こっちでイく方が、何倍も気持ちいいぜ?」





ギラつく獣のような瞳。そこに浮かぶのは隠しようもない情欲。赤く濡れた舌が唇を這う。それはまさしく捕食のサイン。骨の髄まで伝わる破天荒の本気。悪ふざけでもなんでもない、俺に抱かれる…いや、抱かせる覚悟。





そのまま腰を落とされれば、俺の自身は破天荒のナカに飲み込まれてしまう。というか、もう入る寸前だ。破天荒に躊躇いは見られない。すぐに挿入しないのは、ただ俺を焦らしているだけ。俺が許しを乞うのを待っているだけ。怖気付く様を、見たいだけ。



破天荒の意図なんて容易く読み取れるくせに、俺はそれを回避出来ない。破天荒の手の平で踊らされるように、破天荒が望んでいるのであろう言葉を紡いでしまう。





「や…待って…」






無駄なのに、自然と足はシーツを蹴って破天荒から遠ざかろうとする。逃げられる訳無いのに。逃げる場所なんて無いのに。





それでも逃げ出したくなるのは仕方無いと思って欲しい。だって今、俺の自身は紐で縛られているのだ。無理矢理射精を制限され、既に限界を迎えている。そんな状態で破天荒のナカに挿入を果たしてしまったら…その先に待ち受けるのがなんなのか、俺は知ってる。吐き出す術のないままの絶頂がどれ程のものか──俺は、何度も体験している。そのツラさを。苦しさを。









許容量を超えた快楽が、ただただ苦痛を伴うものでしかないことを、俺は知っている。







そんな逃げ腰の俺を見て、破天荒はとてつもない嫌味な笑みを浮かべた。どうやら俺の言動と態度は、破天荒の加虐心を思う存分煽る結果となったらしい。最早、歯止めが利く場面ではなかった。




「待つわけ、ねぇだろ?」




その言葉は真実だった。破天荒は腰を上げたままで静止していた姿勢をやめ、そのままゆっくりと腰を下ろして──俺を、飲み込んでいった。





「──っあ…!!」





強い圧迫感と熱さが一気に襲いかかってきた。同時に感じる、今まで経験してこなかった快楽。衝撃で上がった悲鳴は喉の奥で潰れた。破天荒が無理矢理に最後まで挿入しきる頃には、俺は吐き出せないままに絶頂を迎え、ビクビクと跳ねる身体を抑制することすらも出来ず、強い快楽に沸騰しそうな頭でなんとか快楽をやり過ごそうと躍起になった。





「あっ…はは…イったか?」





どことなく楽しそうな言動とは裏腹に、破天荒の表情には一切余裕が無かった。破天荒もどうやらイキそうになったようで、それでもなんとか堪えたらしかった。耐性はやはり、破天荒の方が上だ。








だが、その表情が雄弁に語る通り、余裕など持ち合わせていないようだ(俺もだけど)。今まで見たことのない、快楽にとろけた破天荒の顔。隠しようもない荒い息。滲んだ汗で首筋に張り付いた髪。俺と破天荒の身体の間で揺れる、すっかり勃ち上がった破天荒の自身。その全てを見上げる俺は、それだけで背筋がゾクゾクして、またイキそうになってしまった。流石に、それは堪えたけれど。





「すっげぇ、ビクビクしてる…イキたくて、たまんねぇって顔、してるぜ…?」
「う、るさぃっ…」
「はは。っ…なぁ、動いてやろうか? それとも、お前が動くか?」





聞きながら、破天荒は少し腰を動かした。たったそれだけで俺の口からは情けない声が漏れた。視界がボヤける。頬に濡れた感触。いつの間にか目に浮かんでいた涙が、許容量オーバーを起こしたらしかった。




「っあ、ひっ…」
「んっ…ふ、はは…初めてのタチはどうだ? ヘッポコ丸くーん?」
「ふ、ううぅ…」





くそ、楽しんでやがる…余裕なんて無いくせにあるようなフリをして、俺の心を揺さぶって遊んでやがる…。これのどこがタチだよ。完全に、お前のペースじゃないか…!






そう言いたいけれど、あいにくまともに言葉を紡ぐ余裕なんて皆無な俺には到底無理な話だった。出来るのは、みっともなく涙を流しながら、唯一ちゃんと動かせる首を横に振って意思表示するくらいだった。ただ首を横に振ったくらいで、何が変わるとも思えない。何も伝わらないのは目に見えてる。それでも、そうするしか方法は無かった。





伝わったのか伝わらなかったのか──伝わっていても同じだろうが──破天荒はクックッと喉の奥で笑って、俺の頬に手を添えて視線を合わせるように顔を上げさせた。





「言い出したのはお前だろ? だったら最後まで責任…持たなきゃいけないんじゃねぇの?」





そう囁く破天荒の声音は…どうしようもなく、意地が悪かった。泣き出したくなるのはもう仕方無いと思う。これが自分が蒔いた種であることは元より、こうして破天荒に騎乗位決められてそのままされるがままの自分自身の情けなさに、悲嘆するのはもうどうしようもないじゃないか。







今ここで許しを乞えば、終わりにしてくれるだろうか──そんな浅はかな魂胆は、次の破天荒の言葉で、ぐしゃぐしゃにひねり潰される。





「じゃ、動くからな。せいぜい楽しめよ…なぁ?」






獣の眼光で俺を射抜いてから、破天荒は俺の頬から手を離した。そしておもむろに腰を上げて──それだけで俺には大ダメージだ──そのまま勢い良く、腰を下ろした。





「っあぁ…!?」





そのまま同じ動きを繰り返され、目の前を火花が横切っていくような錯覚に見舞われた。強い快楽は最早毒に等しい。破天荒が腰を上下させる度、俺の口からは情けない程に高い嬌声が上がる。逃がすことが叶わない熱は俺の身体を蝕み、正常な思考能力を奪っていく。





破天荒のナカは熱く、まるで全てを搾り取ろうとしているかのように収縮していた。熱に浮かされながら、なんでこんなに慣れてるんだ…と思わなくもなかった。実際は慣れてなんかいないだろうし、こんなことするの初めてなんだろうが、そう思わずにはいられなかった。それ程に気持ち良くて、どうしようもなくて、俺は女のように鳴くことしか出来なかった。おかしいだろ、突っ込んでるのは俺なのに…!(勝手に突っ込まされたんだけど)





「あっぁ…は、あぁ…!!」
「んっ…く…」





お互いの喘ぎ声がお互いの耳を犯す。既に俺は限界だった。破天荒もそれは同様なのだろう、辛そうな表情を全く隠しきれていない。戒められた自身に紐が食い込んで痛い。出口を奪われた熱が体内で暴れ回る。破天荒の自身から溢れる先走りが俺の腹に垂れて、そこだけが妙に冷たい。快楽に茹でる頭を冷やすには、到底足りない冷却剤だったが。





「あぁっ、は…、や、イくっ、またイっちゃっ…あっ…!!」
「ふぁ、あ…俺も、も、げんか、いだっ…!」





そう呟いた破天荒は、ギリギリまで俺の自身を抜いて、根元を戒めていた紐を乱暴な手付きで解いた。その紐を適当に放り投げて、破天荒は再び腰を振り始めた。塞き止める物が無くなったせいで、元々限界を迎えていた俺はもう為すすべもなく与えられる刺激を甘んじて受け入れるしかなかった。








結合部が織り成す濡れた音。肌と肌がぶつかる音。互いの荒い呼吸と喘ぎ声。額と言わず全身に滲む汗。零れる涙と唾液。快楽に蕩けた表情。何もかもが魅惑的で刺激的で性的で、それら全てを一緒くたにしてぶつけられるものだから、我慢することすら無意味でしかなくて。





「あ、あっ、ああぁっ…!!!」
「く、う、あぁっ…!!!」





絶頂を迎えたのは、ほとんど同時だった。俺は破天荒のナカに盛大に、破天荒は自分の腹と俺の腹に盛大にぶちまけて、お互いの身体を白く汚した。塞き止められていた分俺はイってる時間が破天荒より長くて、出し切った頃にはすっかり脱力してしまっていた。動くことが億劫だったし、これ以上破天荒に付き合うのもごめん被りたかった。







だが、懸念していた事態にはならなかった。イった余韻で荒い呼吸を繰り返していた破天荒はそのまま俺の方に体を傾けてきた。早い話、抱き着いてきた。体勢を変えられたせいでナカに入ったままの自身がまた変に刺激されて声が漏れそうになったが、意地で押し殺した。





「はぁ…初めてのタチはどうだったよ? ヘッポコ丸くーん?」
「どこが、タチだよ…全然いつもと、変わらないじゃんか…」





付き合い初めて四年以上。付き合いたての頃のようにすぐ気を失うようなことは無くなったけど、体力の消費が大きいのはあまり改善されない。破天荒はもういつもの調子を取り戻したようだが、俺は未だ肩で息をしている状態だ。 体力の限界値の差を痛感する瞬間である。





「俺に突っ込んだ時点でタチなんだっつーの。ほれほれ、童貞卒業の感想は? ねぇの? なぁなぁ」
「もう、うるさい! …とりあえず、どけ。で、腕解いて」
「えー。いいじゃねぇか朝までこんまま繋がってようぜ」
「絶対ヤダ!」





俺の全力否定に破天荒は「チェッ」と唇を尖らせたけど、すぐに俺の上からどいてくれた(抜く時に背筋に快感が走ったけどなんとかやり過ごした)。そのせいで破天荒の太ももに俺が出した精液が垂れてきてしまっていてそれがなんとも言えない淫靡さだったが、なるべく見ないようにした。見ちゃいけないような気がしたから。そうして視線を泳がせている間に破天荒はタオルを解いてくれた。長い時間拘束されていて腕は痛かったし、手首にはうっすらと跡も残っていた。しかしそれを責めるのも馬鹿らしくて、俺はそのままベッドに倒れ込んだ。





破天荒も、解いたタオルをそこらへんに放り投げて俺の隣に寝転がった。てっきりそのままシャワーを浴びに行くもんだと思っていたから面食らった。もうほとんど瞼が落ちてきてる破天荒は、このまま寝てしまいそうである。




「破天荒、破天荒ってば」
「あー? んだよ…」
「あー? じゃないよ。後処理。ナカの出さないと、明日辛いよ?」





後処理を怠ったせいで一日苦しんだことが一度だけある俺はそう忠告したのだが、破天荒は全然聞く耳持たなかった。





「大丈夫大丈夫…ちょっと休んだらやるから…」
「いや、今の状態でちょっと休むって言葉全然信じられないんだけど」
「んー…」
「…破天荒?」
「……ぐー…」
「………」





ね、寝やがった…しかもこれマジ寝なんだけど…。ちょっとどころじゃない、絶対朝まで起きないパターンのやつだ…。





……でも、馬鹿みたいにお酒飲んで、いつもと違う立場で身体を重ねたんだから、酒の回りや疲れが一気に来てもおかしくはない。寧ろあの酒量で今まで起きていられたのがおかしい。いくら酒に強いと言ってもだ。本当にこの男はコイツの尊敬するあのオレンジトゲボールと同じく底が知れない。





「しょうがないか…」





一人ごちて、俺は疲労困憊の体に鞭打って風呂場に濡れタオルを取りに行った。コイツを風呂場まで連れて行ける体力なんか無いので、気が進まないけどここで後処理をしてしまうしかない。後処理なんて自分では全然しないし、ましてや人のなんて勿論したこと無いので不安しか無いが、やらず放置して明日恨み言を言われるのは勘弁だ。大丈夫、ナカに残留してる精液を掻き出すだけだ、出来る出来る…そう自分に言い聞かせて、俺は濡れタオルを持って寝室に戻った。












──やる気が空回りし、不慣れなせいで結局全てを掻き出すに至らなかったために、翌朝腹痛に苦しむ破天荒が居たそうだ。













Honey
(俺もう絶対お前に抱かせねぇからな!)
(それは良いけど、お腹壊したのはお前だって悪いんだからな)




『三十歳まで童貞だったら魔法使いになれる』と『お前で童貞卒業すんぞ!』を混ぜてみたらこんな科学変化が起こりました☆←


素面な破天荒さんだったら騎上位だろうがなんだろうがネコなんざやってくれないと思ったので酒を入れました。人間酒で理性のネジを緩めてしまえばどうにでもなるのです。



屁破っぽくない屁破でしたがどうでしょう? NL以外でへっくん攻め書かないからきっとこれが唯一の屁破になりまっせふふふふ…。




栞葉 朱那

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