例年稀に見る大寒波で、ここ数日とても寒い日が続いていた。一昨日からは雪もチラつくようになり、強風も伴って吹雪となった。あまりの寒さと視界不良で旅を続けるのは困難だと判断したボーボボは、宿で寒さが和らぐのを待つ判断を下した。






退屈すぎてストレスが溜まりまくった首領パッチと天の助が吹雪の中外に遊びに行き、雪に埋もれて動けなくなっていたところをヘッポコ丸に救出されたり、雪を食べようとかき氷シロップ片手に出ていこうとするボーボボをビュティが止めたり、雪だるまを作ろうとして自分が雪だるまになった田楽マンを三バカが更に雪に埋めたり、寒すぎて破天荒が布団と結婚すると言い始めたりと色々あったが、宿に滞在し始めて三日目の今日、ようやく雪雲が去り、太陽が顔を出した。







早速遊びに出掛けるボーボボ、首領パッチ、天の助、田楽マン。目付け役としてビュティも共に外出し、そのお供にソフトンが付き、あっという間に宿内は閑散としてしまった。 残ったのはヘッポコ丸と破天荒の二人だけ。




「なぁ、いつまでそうしてるんだ? もうみんな行っちゃったぞ」




出掛ける準備をしながら、ヘッポコ丸は未だ布団にくるまったままの破天荒に問う。布団と結婚する宣言をしてからというもの、破天荒はほとんど布団から出て来ない。出て来るのは食事、トイレ、風呂など、本当に必要最低限。宿内は暖房が利いているし、震え上がる程、そして布団から出られない程寒いことなんて無いのだが、破天荒は過剰に寒がって、なかなか布団を手放さない。




寒がりもここまで来れば病気だな…とヘッポコ丸は内心思っていた。






ちなみにその破天荒はと言うと、布団の僅かな隙間から片目だけを覗かせ、出掛ける準備をしているヘッポコ丸を眺めている。ハッキリ言ってホラーである。怖いことこの上無い。なのでヘッポコ丸は出来るだけ破天荒に視線を向けないようにしながら、黙々と厚着を済ませていく。





「冬が終わるまで俺はこうしてる」
「無理に決まってんだろ明日には出発だっつの。ってかたまに布団から出てるんだからいい加減布団にこもるのやめろ」
「それとこれとは違うんだよ!」
「なんでそんな必死なわけ?」





呆れて物も言えないとはまさにこのことだ。そして片目しか覗かない状態で喋るせいで声がくぐもって聞き取りづらい。聞こえない程では無いので放置の方向でいっているのだが。





「はぁ…ま、そうしてられるのも今日までだし、好きにすれば? 俺外に行ってくるから」
「なんでだよ! お前が出て行ったら寂しいじゃねぇか!」
「お前布団に引きこもりすぎてキャラがおかしくなってるぞ」





寂しいとか思うキャラじゃなかっただろと的確なツッコミを入れながら、ヘッポコ丸はわざとゆっくり行っていた身支度を終えた。実を言えば、 ヘッポコ丸はそこまで雪遊びに興じたいわけでも無い。別にこのまま破天荒と二人で部屋に居るという選択をしても良いのだ。







しかし、その選択をせずに何故ヘッポコ丸が外に出ようとしているのかと言えば…理由は単純で、自分が遊びに出ると言ったなら、さすがの破天荒でも布団から出て来るかと思ったからだ。自分が誘えば、いくら寒さが苦手だと言っても応じてくれると高を括っていたのだ。残念ながら目論見は外れ、破天荒は布団から出て来るどころか片目以外布団から出そうともしない。考えが甘かったと認めざるを得ない。





「じゃ。大人しく留守番してろよ 」
「一人にしないで!」
「破局寸前のカップルか。そのキャラ気持ち悪いから俺が帰ってくるまでに直せよ」
「ちっ。冗談の通じねぇ奴だな」
「悪かったな冗談通じなくて。いってきまーす」





素に戻り、未だにブツブツと何か言っている破天荒をしり目に、ヘッポコ丸は部屋を後にした。本当は破天荒と共に部屋を出たかったヘッポコ丸は、外気(と言っても廊下だが)が一層冷たく思えてブルっと身震いした。体は無意識に、人肌の温もりを求めているようだ。









人肌というか…破天荒を、だけれど。









だが、いくら求めたところであの男は布団の虫と化していて、隣に並んでくれることは無い。今頃、口煩いヘッポコ丸が出て行ったのを良いことに、有意義な布団でぬくぬくライフを満喫しているに違いない。





「一緒に遊びたかったのにな…」





本人にぶつけられなかった本音を吐露しながら、ヘッポコ丸はとぼとぼと宿の入口に向かう。外からはボーボボの雄叫び、首領パッチと天の助の悲鳴、ビュティのツッコミが聞こえてくる。窓から覗いてみると、ボーボボが規格外に大きな雪玉を持って首領パッチと天の助を追い回していた。それを止めようとしてか、ビュティが必死にその背を追い掛けている。状況的にはともかく、みんな楽しそうである。






叶うなら、ヘッポコ丸も破天荒とあんな風にはしゃいでみたいと思っているのだけれど…思うだけに留める。布団から出て来ない奴に何を期待しても無意味だ…と自分に言い聞かせて、無理矢理納得させる。納得と言うより、諦観だけれども。





「破天荒のバーカ」
「誰がバカだって?」
「だから破天荒だって……え?」





答えなど返ってくる筈ない独り言に、何故か返された問い掛け。聞き覚えがありすぎるその声に恐る恐る振り返ってみれば…案の定、そこに居たのは破天荒で。





「な、なんで…って、うわっ!」
「よっ」





疑問を口にするよりも早く、破天荒はヘッポコ丸を抱き上げた。突然の浮遊感と視界の変化に驚き、ヘッポコ丸は反射的に破天荒の肩にしがみつく。そんなヘッポコ丸など気遣う余裕も無いのか、破天荒は「あー寒い」などと零しながら来た道を逆戻る。あまりの展開の早さに付いていけないヘッポコ丸は、それでも破天荒の腕に大人しく抱かれながら彼を問い詰める。





「い、いきなりなんなんだよ!」
「うるせぇな、寒いんだから無駄な体力使わせんな。大人しく運ばれろ」
「俺は荷物じゃない! 説明も無くこんなことされて、大人しくしてられるわけないだろうが!」
「うわ、おいこら暴れんな。落とすぞ」





ヘッポコ丸がちょっと暴れたぐらいで取り落とすような男でないことなど、ヘッポコ丸はよく知っている。だからそれはあまりに安い脅しだった。だが、チラリと見た破天荒の目は据わっていた。その表情は『今は最高に機嫌が悪い』と雄弁に語っていた。





あ、これあんまやりすぎてたら落とされるわ…と早々に理解したヘッポコ丸はすぐさま抵抗を止めた。落とされても怪我をするに至らないのは重々承知しているけれど、これ以上機嫌を損ねると機嫌を持ち直すまでに多大な労力を必要とする。そんな無駄な労力を使うぐらいだったら理由が分からなくても大人しく運ばれている方が賢い選択だ──と、ヘッポコ丸は判断した。








ヘッポコ丸が大人しくなったことに破天荒は少し機嫌が良くなったようで、依然として「寒い寒い」と口走りながら足早に廊下を歩く。ヘッポコ丸を抱く腕は優しいが、服越しに伝わる体温は低い。その低さにはヘッポコ丸も既に慣れてしまったが、その体温を感じて、最初に抱いた疑問がヘッポコ丸の中で再び頭を擡げた。





「なぁ、破天荒」
「なんだ?」
「なんで布団から出て来たんだよ。寒い寒いって言って、全然出て来なかったクセにさ…今だって寒いんだろ? だったらなんで」
「分かんねぇのか?」





いつの間にか部屋の前に着いていた。破天荒は器用に足で扉を開け(鍵は掛けていなかったらしい)(しかし行儀が悪い)、中に入る。足で扉を閉めてから、ヘッポコ丸を床に下ろした。そして、こう言った。





「言っただろ? お前が出て行ったら寂しいって」
「………ぇ」
「うーさむさむ! お前もさっさと上着とか脱いでこっち来いよ」
「っえ……あぁ、はい…」





予想外の切り返しに平常心を奪われたヘッポコ丸は、ギクシャクしたぎこちない動きで身に着けていた防寒具を取り去っていく。薄着になっていくのだからその温度差で多少なりとも寒く感じてもおかしくないのに、ヘッポコ丸の体感温度は寧ろ上がる一方だった。今の破天荒の言葉は、ヘッポコ丸にとって全くの不意打ちだった。まさか、あの言葉が破天荒の本音だったなどと…一体誰が信じられるというのか。








ふざけているのだと思っていた。あまりの寒さに頭が少々弱くなってしまったのだと思っていた。口からの出任せだと思っていた。だが、事実はそうではなかった。破天荒は本気で、寂しいと感じていたのだ。ヘッポコ丸と共に居られないことを。その事実に気付いて、ヘッポコ丸の体は意味も分からず火照る。それは照れから来るものか、喜びから来るものか。






答えが出ないまま、ヘッポコ丸は脱いだコートをハンガーに掛けた。身軽になった所で振り向くと、破天荒は頭から毛布を被った状態で床に膝を立てた格好で座っていた。視線に気付いたのか、二人の視線が交差する。そのまま、破天荒はヘッポコ丸を手招いた。毛布のせいで手は見えていないのだけれど。



手招かれるまま、ヘッポコ丸は距離を詰める。距離が縮まると、破天荒は手招くのをやめて、足と手を広げて見せた。足の間に少し出来た空間と広げられた腕は、言葉にせずともヘッポコ丸をそこに呼んでいた。ヘッポコ丸にもそれは手に取るように分かったし、もう抗う気も無かったから、大人しく破天荒の足の間に腰を下ろした。するとすぐに毛布を纏った破天荒の腕がヘッポコ丸を包み込み、ヘッポコ丸はそのまま破天荒に抱き締められる形となった。





「っあー、やっぱ布団よりもお前がいいわ…」
「布団と比べられても何にも嬉しくない」
「まぁそう言うなって。俺とくっつけて嬉しいだろ?」
「……別に…」





口先では否定的な事を言っておきながら、体はすっかり破天荒に預けている。まるで自分の体温を分けてやるかのように破天荒の胸に体をくっつけ、久方振りの破天荒のぬくもりを堪能する。本当にこの三日間、布団に籠城していた破天荒と触れ合う機会なんて皆無だったから、内心ではこの状況をとても嬉しく思っていた。





破天荒も、ヘッポコ丸が内心では喜んでいるのを容易に察する事が出来たから、遠慮なくギューギューと抱き締める。恋人とくっついていられて、暖も取れて一石二鳥だぜ、とほくそ笑みながら。





「ボーボボ達が帰ってくるまでこうしてようぜ」
「ずっと?」
「いいだろ? 俺はお前とくっついてたいんだよ」
「…それは寒いからじゃないの?」
「それもあるけど、それだけじゃねぇよ。なんだよ、不満か?」
「…そんなことない」





俺はお前と一緒にいたいから──破天荒を見上げながら、そう言ってヘッポコ丸は笑った。
















冬の一ページ
(じゃあこのまま一発ヤ)
(言わせねぇよ!?)




語彙力が圧倒的に低下しているのがよく分かりますね!!←



二人はこの後色々な話をします。お互いの過去とか、今までの旅で見てきたものとか、家族のこととか。色々な話をして、いつの間にかそのまま寝てしまいます。風邪を引かないようにね!




栞葉 朱那

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