例年稀に見る大寒波で、ここ数日とても寒い日が続いていた。一昨日からは雪もチラつくようになり、強風も伴って吹雪となった。あまりの寒さと視界不良で旅を続けるのは困難だと判断したボーボボは、宿で寒さが和らぐのを待つ判断を下した。








退屈すぎてストレスが溜まりまくった首領パッチと天の助が吹雪の中外に遊びに行き、雪に埋もれて動けなくなっていたところをヘッポコ丸に救出されたり、雪を食べようとかき氷シロップ片手に出ていこうとするボーボボをビュティが止めたり、雪だるまを作ろうとして自分が雪だるまになった田楽マンを三バカが更に雪に埋めたり、寒すぎて破天荒が布団と結婚すると言い始めたりと色々あったが、宿に滞在し始めて三日目の今日、ようやく雪雲が去り、太陽が顔を出した。




「わースゴーい!」




二日間降り続けた雪で、辺りはすっかり雪景色。ビュティはヘッポコ丸と共に、雪に彩られた世界へ散歩に出掛けていた。室内でずっと読書に勤しんでいたヘッポコ丸は、鈍り始めた体を動かすことを名目にビュティの誘いに応じた。




雪は止んだとはいえ、空気が冷えていることに変わりはない。二人はしっかり防寒をした上で、二日ぶりに外に出た。そこは一面白銀の世界。宿に辿りついた日とはまるで様相を変えてしまった世界に、ビュティは少しハシャギ気味だ。ザクザクと真っ白な雪に足跡を付けながら、くるくるとあっちこっち見回している。





「どこも真っ白だねー」
「結構降ってたからね」




数歩先に行くビュティの後ろを歩きながらヘッポコ丸は答える。白い息を吐きながら、彼も辺りを興味深く見回している。





「後で雪だるまでも作る?」
「あ、イイねそれ! みんなの雪だるま作ろうよ!」
「首領パッチとか難易度高そうだな…」
「天の助君もね。四角くしないと」
「あとソフトンさん」
「あ〜、確かに」




あのとぐろをどういう風に作るかとあれこれ意見を出し合いながら、二人は散歩を続ける。ザクザクザクザク、雪原に刻まれる二人の足跡。遠くの方でボーボボや首領パッチが騒いでいるようで、叫び声が聞こえる。大方、雪合戦でもしているのだろう。それが普通の雪合戦かはともかくとして。多分普通の雪合戦ではないだろうが置いておいて。






ふと、ビュティが歩みを止めた。ヘッポコ丸も釣られて歩みを止める。ビュティの視線は、まだ誰の足跡も刻まれていない、真っ白に輝く雪原に向けられていた。ヘッポコ丸もそれに倣い、雪原に目を向ける。




「…きれー…」
「へっくんもそう思う?」





太陽に照らされ、キラキラと光り輝く美しい雪原に、ヘッポコ丸の口から思わず感嘆の声が漏れる。その言葉を聞いて、ビュティが嬉しそうに問い掛ける。ビュティも同じことを思っていたのだろう。ヘッポコ丸が賛同してくれたことがよっぽど嬉しいのか、笑顔を隠そうともしない。





「今まで雪が降ったら遊んでばかりだったから、こんな風に雪を見たことなかったの。雪に日光が当たったら、こんなに綺麗なんだね」
「うん、俺も知らなかった。しかもまだ誰の足跡も無いから、余計にそう思うのかな」
「そうかもしれないね。…でもね」





ビュティはそっと手を伸ばす。その指が触れるのは、ヘッポコ丸の銀髪。突拍子の無い行動に、ヘッポコ丸は少し飛び上がる。心なしか、顔が赤くなっている。好きな子がいきなり触れてきたら、ドキドキするのは当たり前か?




「あ、の、ビュティ…?」
「へっくんの髪も、すっごく綺麗だよ」
「……髪?」




うん、とビュティは頷く。




「いつも思ってることなんだけど…へっくんの髪って、雪みたいに綺麗だなって」
「……そう、かな…」
「うん。今もね、太陽の光が当たって、透明感があって、まるで宝石みたい」




恥ずかしげも臆面も無く賛辞を贈るビュティに、ヘッポコ丸はなんと答えたらいいのか分からなくて視線が泳ぐ。そんなヘッポコ丸の心情を知ってか知らずか、ビュティの手はあっさりとヘッポコ丸の髪を離れる。それを少しばかり寂しいと思ってしまうヘッポコ丸。離れてほしかったのか離れてほしくなかったのか、一体どちらだったのだろう。






ビュティは真っ白な雪原へ歩を進める。ヘッポコ丸はさっきまでビュティが触れていた箇所を所在なさげに撫でながら、その背中を追う。





「もしかしたら、へっくんの前世は雪の妖精とかだったかもしれないね」
「…ビュティがそんなファンタジーなこと言うの、珍しいね」
「そう? 雪のせいかな?」





振り返ったビュティは、イタズラっ子のような笑みを浮かべていた。その表情を見て、ようやくヘッポコ丸はからかわれていることに気付いた。ビュティが軽々しく嘘を言う筈ないのは分かっているから、先程の発言全てが本心なのだろうけれど…やはり、からかわれたままでは気が済まない。



だからヘッポコ丸は、少しだけビュティに仕返しすることにした。




「俺が雪の妖精だって言うならさ」




流石にビュティのように馴れ馴れしく髪に触れることは(恥ずかしくて)出来なかったけれど、ヘッポコ丸はビュティに負けず劣らずファンタジーなことを言う。本当は、そんなことを言うのもなかなかに恥ずかしかったのだけれど。





「ビュティはさしずめ、桜の妖精ってところ?」
「桜? 私が?」





そんなことを言われるのは予想していなかったのか、ビュティがキョトンとして首を傾げる。その様を可愛いと思いながら、ヘッポコ丸は続ける。





「俺だっていつも思ってるよ。ビュティの髪が…その…桜みたいだって…」
「…へっくん、恥ずかしいなら無理して言わなくていいんだよ?」
「う…」
「真っ赤だよへっくん」
「うぅ…」




あっさり虚勢を看破され、ヘッポコ丸は更に顔が赤くなっていく。ビュティと付き合うようになって、多少ヘタレっぷりは緩和されたといっても、まだまだビュティには勝てないようだ。恋愛面に関しては、ビュティの方が一枚上手であるらしい。







羞恥からビュティと目すら合わせられなくなっているヘッポコ丸の手に、ビュティは自分の手を絡める。あっという間の恋人繋ぎ。あっという間に縮まる二人の距離。驚くヘッポコ丸と対照的に、ビュティはどこまでも楽しそうだ。




「でも、嬉しい。ありがとうへっくん」
「い、いや…うん…」
「ふふ…ねぇ、私達、人間で良かったね」
「え?」
「だって」




ビュティはヘッポコ丸の手を引いて雪原へ向かう。向かいながら、ビュティは言う。『人間で良かった』と言う根拠を。




「もし私達が本当に雪や桜の妖精だったら、こうして手を繋ぐことも出来ないんだもん」
「……そうだね」




ビュティの言わんとすることが分かって、自然とヘッポコ丸の手に力がこもった。深く絡む二人の手の平。そこから伝わる互いの体温は、とても心地いいもの。









──雪は冬。



──桜は春。







雪が降り積もる冬の間、桜は咲かない。春になって桜が咲けば、雪は溶けて消えてしまう。決して出会う事の出来ない雪と桜。この二つの関係を自分達に置き換えて考えて、ビュティは心から『人間で良かった』と思ったのだ。そしてそれはヘッポコ丸も同様だった。





出会えない関係なんて嫌だ…と。




二人は互いに、強く思ったのだ。





「私はへっくんに、桜みたいって言ってもらえただけで十分だよ」
「俺も、ビュティに雪みたいって言われただけで満足だよ」
「出会えて良かった」
「そうだね」




そう言って二人は笑いあった。辺り一面白に覆われた世界で、二人の笑い声は雪に吸い込まれて誰にも聞こえない。勿論会話も誰にも届かない。全ては二人の秘密。二人だけのファンタスティックなお話である。








その後、二人は誰も踏み入ってない雪原で、仲間達の雪だるまを作った。ソフトンがなかなか帰ってこない二人を心配して探しにくる頃には、全員分の雪だるまが並んでいたのだという。

















冬のひとコマ
(これは…大作だな)
(へっくんと作ったんですよ)
(首領パッチがなかなか難しかったです)



明けましたおめでとうございます! というわけで、2015年一発目は屁美でお送りいたします(b・ω・)b 最初は違う話書いてたんだけど、それが上手く纏まらなかったからこっち仕上げた。


年明けから低気圧発達して雪降って、すごく寒かったから、二人のイチャイチャで暖めてもらった。…え? 暖まらない? それは栞葉の力量不足だ許せ☆←




栞葉 朱那

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