あぁ、可哀想なギガ様。愛した『詩人』を求め、失われたその命を取り戻すため、オブジェ真拳の極意を駆使してまでぼく達イミテーションを作り上げる日々。それなのに、時間というのは残酷だ。本物を追求するあまり、出来上がったそばから廃棄を繰り返す。完成しないまま、時間ばかりが過ぎていく。その時間が、ギガ様の中の『詩人』を薄れさせていく。本物を求めて時間を掛ければ掛けるほど記憶は薄弱としたものへ変貌し、本物から遠ざかっていく。それに焦ってまたイミテーションを作るも、出来上がるのは粗悪品ばかり。







本物から遠ざかるばかり。







そもそも、本物の『詩人』とは一体どんな存在だったのだろう? ぼくは何体目かのイミテーションで、まだ『詩人』の記憶データをインプットされていない状態だ。だからぼくは『詩人』が分からない。『詩人』として生み出されたぼくなのに、まだ自分の存在が分からない。





未だ人形であるぼくに流れ込んでくるのはギガ様の嘆き、焦り、狂い…そんな負の感情ばかり。










その中に射す──『詩人』への真っ直ぐな、眩しいほどの愛情。





「詩人…あぁ詩人、詩人ぉ…どうやったら…どうしたら…」





忘却を何より恐れるギガ様は、今まで廃棄してきた出来損ないの『詩人』の山に縋って泣いていた。そのガラクタの山に、愛した『詩人』の面影を見付けようとしているかのように。見付けられる訳ないのに。その山は、『詩人』になり得なかったイミテーション達の墓場。廃棄されては積み上げられ、廃棄されては積み上げられ…それを繰り返し、山となった墓場だ。






そんな所に『詩人』はいない。意思も、人格も、感情も、面影も、何にもない。最早それはただのガラクタ。ガラクタの山に『詩人』はいない。これから『詩人』となり得るのは、紛うことなきぼく自身だ。







あぁ…それでも。











ギガ様が愛したいのは本物の『詩人』で。





ギガ様に愛されるのは本物の『詩人』だけだ。








所詮ぼくも紛い物。イミテーション達の一部でしかない。きっとぼくも、いつかは捨てられる。ぼくはどう足掻いても本物の『詩人』にはなれない。イミテーションはどう足掻いてもイミテーションのまま。ぼくは生きる人形。ギガ様のためだけに生きる人形。





「詩人…詩人……ようやく、お前を…」





流れ込む『詩人』の記憶。感情。心。ぼくはとうとう『詩人』としてこの世に生まれ落ちる。不思議と怖くはない。だってぼくにはギガ様がいる。流れ込む『詩人』の記憶、感情の中には、ギガ様への隠しようもない愛情があった。あぁ、『詩人』とギガ様はちゃんと愛し合っていたのだな…そう確信出来た。






記憶が根付き、培養液が抜かれていく。肌を滑る外気の冷たさ。あるはずもない心臓がドクドクと脈打つような錯覚。ずっと閉じていた目を開けば、そこにいるのは愛しのギガ様。両腕を広げ、笑顔でぼくを待ってくれている。




いや──待っているのは『詩人』であって、ぼくじゃない。ぼくは『詩人』でありながら『詩人』ではない。ギガ様が求める『詩人』には、どうやったってなれない。それを痛感しているのは、当事者であるぼくだけ。ギガ様は…求めるあまり盲目になったギガ様は、その事実に気付かない。








最愛の者を失い、壊れたギガ様。壊れたギガ様が作った歪なぼく。なんて滑稽なのだろう。





「会いたかった、詩人…」





自分で作った偽りの『詩人』に抱擁を与えるギガ様。与えられた温もりに、沸き上がるのは間違いようのない歓喜。ぼくの中にある『詩人』は、間違いなくギガ様に触れられて喜んでいた。





「ギガ様…」




なんと言えば、良いのだろう。『詩人』はこうして抱き締められた時、なんと言ったのだろう。記憶がまだ上手く探れない。答えが記憶の中に見付けられない。下手なことを言えば、ぼくは廃棄されるのだろう。そしてあの墓場に積み上げられる。その後ギガ様は、また新たなイミテーションを作られるのだろう。








ぼくはその光景を、墓場の山から眺めるのだろう。











ぼくはゆっくりと口を開いた。本当にギガ様を心から愛したいのか…自分の中の『詩人』に疑問を抱いたまま。
















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愛したいのは 愛されるのは
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