どうしよう──降旗光樹は声に出さず口の中だけでそう呟いて、代わりに何度目か分からない溜め息を吐き出した。呟いたところで、溜め息をついたところで状況が打破出来る訳じゃない。それでも降旗は、自分から行動する気力すらも削がれていて、すっかり夜も更けた公園でただ一人、ポツンとブランコに腰掛けていた。





夜の公園に、当然のことながら人の気配は無い。現在ここに居るのは降旗だけだ。公園内全てを照らすには役不足な薄ぼんやりとした照明が、ブランコに腰掛けている降旗の存在を明確にしている。照明によって浮き彫りになる自分の影を睨み付けながら、降旗は思考を巡らせていた。なんと言い訳をすれば、事が穏便に収まるのかを。









今回は全面的に自分が悪いと、降旗は痛い程自覚していた。自分が勝手に空回って、一方的に胸中をぶちまけてそれをぶつけて、あまつさえそのまま飛び出して来てしまった。何を言ったのか記憶が曖昧になっているが、酷い暴言もぶつけたように思う。穏便に済まそうなどと考えるのは傲慢なのではないかとすら思えてくる。





「やっちゃったなぁ…」





今度はハッキリと声に出して、さっきよりも重い溜め息もつく。考えなければならないことはたくさんあるのに、思考が上手く働いてくれない。自分に落ち度があると痛感している以上、どうにかしないわけにはいかない。だが、その『どうにか』が思い付かない。




というか、『どうにか』したところで許してもらえる保証が無い。降旗は恐怖で背を震わせた。よくよく冷静になって考えてみれば、彼はとんでもない相手にとんでもない言葉をたくさん浴びせかけてしまっている。いくら彼氏と言えど、簡単に許してくれるとは、到底思えなかった。











事の発端は、彼と共にリビングで夕食を摂っていた時だった。ようやく上達してきた料理をテーブルに並べて、適当につけたテレビ番組を見ながら、他愛ない話をしながら料理をつついていた。




なんというタイトルの番組だったか、正直覚えていない。それはバラエティ番組で、普段奥さんにばかり子供のことを任せている旦那さんが、いきなり子供のお世話を任されたらどうなるのか…みたいな内容だった。奥さんが事前に残していったメモを頼りに、ミルクを作って飲ませたりオムツを替えたりあやしたりして…子供の一挙一動に振り回される旦那さんを、別室でカメラを通して見てる奥さんが大笑いしてて…なんとも微笑ましいものだった。









降旗には到底、叶わない光景だった。降旗は男で、妊娠も出来なければ結婚だって出来ない。それを分かった上で彼と付き合っていたし、彼もそれを受け止めた上で付き合ってくれていると思っていた。降旗はそんな彼を愛していたし、彼も同じ気持ちでいてくれていると考えていた。






テレビに映る夫婦のような家庭を夢想したこと無いと言えば嘘になる。羨んだことが無いと言えば嘘になる。それでも降旗は現状に満足していたし、幸せだった。──けれどもそれは、降旗だけが抱いていた満足感だったようだ。





「いいね子供。僕も自分の子供が欲しいよ」





何気無く放たれたこの一言が、降旗を一気に絶望のどん底へ貶めた。降旗は信じられないものを見るような目付きで彼を見た。彼はそんな降旗の視線に見向きもせず、相変わらずテレビに見入ったままだ。テレビ画面には赤ちゃんを寝かし付けている旦那さんが映っている。赤ちゃんと一緒にウトウトしてしまっている旦那さんを見て、彼は小さく表情を崩した。





「あんな風に、自分の子供の成長に一喜一憂してみたいものだね」





慈しみを帯びたその声音に、降旗は大きなショックを受けていた。降旗は常日頃から、自分が男であることを気にしていた。コンプレックスとなっている、と言っても過言では無かった。男であることに引け目を感じ、彼に当然与えられるべき家庭も子供も自分では与えられないことを悔い、一時は己自身をひどく憎んだりもした。



それでも、彼が隣にいてくれて、愛を囁いてくれて、自分を求めてくれるから…だから降旗は、そのコンプレックスに蓋をしてきた。男であることを恥じないよう努めてきた。彼に見合う恋人になろうと奮闘してきた。…それでも。







彼の一言で、全ては瓦解する。





「…征は」





降旗は静かに食器と箸を置いて、彼に問う。ようやく彼──赤司は、降旗の様子がおかしいことに気付いた。ただ、どうして降旗の様子がおかしくなったのかまでは分からない。彼にとって今の発言は大した意味は持っておらず、他愛ない、ただ世間話を振った感覚でしかない。何が降旗の癪に障ったのか、赤司には検討が付かなかった。






赤司は『普通の青年』とは言い難い。昔から様々な分野で凡人とは掛け離れていた彼は、それ故に自身を凡人だと卑下する降旗の機微に気付けないこともある。お得意の天帝の目も、事恋愛関係となるとその真価を発揮出来ないらしい。今回のことも、その例に漏れなかった。





「子供、欲しいって…思うんだ」
「? まぁ、人並にね」





何かおかしいことを言っただろうか、と赤司は首を傾げていた。降旗にとってはそれが信じられなかった。どうしてそうも簡単に、子供が欲しいと口に出来るのか、理解出来なかった。





存外に、降旗の存在を否定されているようにしか…思えなかった。





たとえそれが降旗の考えすぎで、事実とは大きく異なる解釈である可能性が高いと心の隅で分かっていたとしても──小さくないショックを受けた降旗は、とても平静ではいられなかった。





「なんで、そんなこと言えんの…?」
「光樹?」






バンッ、と些か大きな音を立てて降旗はテーブルを叩いた。振動で食器が揺れ、箸が小さな音を立てて床を転がる。コップに注がれたお茶も揺れでテーブルを濡らしたが、コップ自体が倒れることは無かった。未だ残っている料理達にも被害は無かった。





その代わりにか、赤司にしては珍しく動揺していた。付き合い初めてもうすぐ五年、同棲を始めて一年になろうとしている。決して長くはないが短くもないこの月日の中で、ここまで感情を乱す降旗を見るのは初めてだった。そして、赤司はまだ降旗がここまで感情的になった理由が分かっていない。原因不明の激高に、赤司は戸惑いの表情を浮かべた。





降旗はと言えば、頭に血が上っていたからか、この時の赤司の表情など覚えていない。言いようのない怒りと、悲しみ。胸を占めるのはそれだけだった。





「そんなに子供が欲しいなら、オレなんか捨てて彼女でも作れば!? オレ男だし、征と結婚することも子供を産んであげることも出来ない! お前の願いを一つも叶えてやれない! だったら、オレなんかと一緒に居たってしょうがないじゃんか!」
「な…にを、言ってるんだ? 光樹…」
「征が望むこと、叶えるのはオレじゃないよ。ねぇ、なんでオレなんかと一緒に居るの? 子供欲しいって思ってるなら、オレなんかと一緒に暮らしてる場合じゃないんじゃないの?」
「僕はそんなつもりで言ったんじゃない。少し冷静になれ光樹」





赤司の窘める言葉も、生憎と降旗には届かなかった。赤司は降旗の言葉になんの苛立ちも抱いていない。妙な癇癪を起こしているらしい、程度の認識だ。だからここで降旗が冷静になっていれば、正気を取り戻せていたならば、その場で誤解は解かれ、穏便に事を済ませられただろう。



だが、実際は降旗が冷静になることなんて無かったし、事を穏便に済まそうという気も更々無かった。頭に血が上り、思考回路が混線状態の降旗に、赤司の言葉など届いていなかった。





「オレじゃ征を幸せにしてあげられないんだ。征だってそんなの分かってるだろ?」
「光樹、僕の幸せは君と居ることだ」
「そんなの嘘だ!!」





降旗は思わず耳を塞ぎ、衝動的にそのまま部屋を飛び出した。それ以上赤司の言葉を聞きたくなかったのだ。何を聞いたって、自分を縛り付けるための詭弁に聞こえてしまう。都合のいい言葉を並べ立てられているようにしか思えない。だから降旗は、それら全てから逃れるように、逃亡した。






着の身着のままで走り去る降旗の背に、静止の声がぶつけられる。それでも降旗は足を止めなかった。一刻も早く、赤司の声が聞こえない場所に、赤司の姿が見えない場所に行きたかったのだ。だから降旗は止まらなかった。走って、走って、走って──









そして、この公園に辿り着いたのだった。目的があったわけじゃない。ただ無我夢中で走っていたら、ここに辿り着いただけだ。深い意味も理由もありはしない、暴走の末路だった。








公園に辿り着き、見付けたブランコに腰掛ける頃には、降旗はすっかり冷静さを取り戻していた。そしてさっきの自分の行動・言動を振り返り、猛省し自己嫌悪し罪悪感に見舞われながら、赤司になんと許しを乞えば良いのかと頭をフル回転させているのである。何も浮かばないのが現状だが。







幸い赤司が追い掛けてくる気配は無い。彼の脚力なら追い付くことくらい訳ない筈だが、もしかしたら降旗が平静を取り戻すように取り計らってくれているのかもしれなかった。それなら良いのだが…もし、愛想を尽かされただけだったら…そう考えると、もう自殺した方がいいんじゃないかという物騒な考えが頭を過るのであって。



途方に暮れるしかないのであって。





「時間巻き戻ってくれないかな…」





自分のヒステリックさを思い返して、切実にそんなことを願ってしまう。っていうか、何あれ。あれ本当にオレ? 女々しいにも程があるだろ。確かに赤司があんなこと言うのが意外過ぎてだから頭が真っ白になったけど──と抗弁を垂れるが、結局は自分の責任である。あれもこれもそれも、全てが降旗の責任だった。





ハァ…ともう何度目かも分からない溜め息を漏らす。ここでこうして項垂れていたって、事態が好転するわけじゃない。時間ばかりが無駄に過ぎていくだけだ。こうなったらもう、やぶれかぶれに赤司に土下座する勢いで謝りに帰るしかなさそうだ。というか、それ以外に降旗が取れる行動なんて無かった。





「よし、やるぞ!」
「何をだい?」
「ぴゃあああああああ!!」






秘めた決意を鼓舞する為に口に出して立ち上がった瞬間、後ろから第三者の声が聞こえた。誰もいないと思って油断していたため、降旗は盛大に悲鳴を上げた。夜の公園に男のモノとは思えない甲高い悲鳴が木霊する。草影に隠れていた一匹の猫が、その悲鳴に驚いて逃げ出してしまった。





ぎこちない動作で後ろを振り返る降旗。彼の予想通り、そこにいたのは赤司征十郎その人だった。赤司はブランコを取り囲んでる柵に腰を下ろしてニッコリ笑っていた。一体いつからそこに居たのだろうか。全く気配に気付かなかった降旗は、赤司の末恐ろしさを改めて実感した。





「せ、征…」
「やぁ光樹。少しは頭は冷えたかい?」
「う…はぃ…」





尻すぼみになりながら、降旗は再びブランコに腰を下ろした。今はとても、赤司の顔を正面から見ることなんて出来ない。赤司の視線を真横に受けるような格好で、降旗の尻は落ち着いた。視線を合わせてくれないことに赤司は少し不満そうだったが、降旗の内心を考慮して言葉には出さなかった。








二人共口を閉ざしてしまい、重い沈黙が場を包む。赤司は降旗が自分から口を開くのを待っている。降旗はどう切り出せばいいか逡巡している状態だ。内心で、赤司が何か聞いてきてくれないかと期待している。だが赤司は何も言わない。自分が促すことは誘導尋問と同じく、本心を引き出したことにはならないと赤司は思っている。





赤司は辛抱強く降旗の言葉を待った。決して短くはない付き合いの中で、赤司は降旗がしっかり自分の信念を持って行動していることを知っている。芯を持って発言していることを知っている。だから、それを赤司の言葉で曲げたくないのだ。降旗の信念を、芯を、直に感じたいのだ。





「……ごめんなさい」





やがて降旗がおずおずと口を開いた。赤司は頷く。謝らずとも、赤司は降旗を責める気など毛頭ない。それでも降旗は、謝罪を止めない。





「あんなことで取り乱して…征に酷いこと言って…ごめんなさい…」
「あんなことって?」
「…子供のこと」





膝の上で固く拳を握り締めながら、降旗は言う。




「征が深い意味で言ったんじゃないって分かってるのに…止めらんなくって…」
「その理由を聞いても?」
「………うん」





心の内を全て明かすのに躊躇いを持ったが、降旗は結局、話すことを決めた。このまま黙っていたところで、事態は何も変わらない。それに、自分の内側に秘めた想いを知って欲しいという気持ちも多少はあった。明かすには、今が一番のタイミングだと言えた。この機会を逃せば、次がいつ来るか分からない。








降旗が全てを打ち明けてる間、赤司は相槌を打つ以外言葉を挟まなかった。降旗の本音を、本心を、全て受け止めた。話を進める度、赤司の表情は曇っていった。まさか降旗がそんなことを考え、ずっと胸の内に抱えていたとは考えてもいなかったのだろう。それを踏まえた上で先程の自分の言動を振り返り、失態をこっそり嘆くのだった。




すっかり全てを話し終えると、胸の内を洗いざらいぶちまけたことで多少スッキリした降旗と、重く肩を落とした赤司がいた。赤司は片手で顔を覆い、長い溜め息を吐き出した。降旗はこれは怒られる前振りかとビクついていたが、それは大きな勘違いであった。赤司の口から「すまない」と言う言葉が出たからだ。





「光樹がそんなに悩んでいたとは露知らず…とんだ無責任だった…許して欲しい…」
「い、いやいや! 征が謝ることないって! オレが勝手に思い詰めてただけでっ…」
「だが」





ブンブンと手を振りながら否定する降旗を、赤司は強く抱きしめた。抱きしめられた衝撃でブランコの鎖が軋む。突然の抱擁に惚けてしまう降旗だったが、振っていた手はしっかり赤司の背に回していた。





「恋人の悩みを察してやることが出来ないなど…僕は光樹の恋人失格だ」
「そんなことないよ。…寧ろ、オレの方が征に相応しくないと思うよ…」
「何を言う。君以外に僕の隣が似合う人なんていない」





抱きしめる腕を緩めて真面目くさった顔でそう言うので、降旗は少し面食らった。しかしすぐ、その薄い唇の隙間から笑い声が漏れ出した。突然降旗が笑い出したことを不思議に思う赤司だったが、やっと降旗が笑ってくれたのであまり気にしないことにした。




ひとしきり笑って、降旗は「征」と赤司を呼んだ。





「本当にオレは、征の隣にいてもいい?」
「勿論だ。寧ろ、隣にいてくれないと僕は生きていけないよ」
「それは大袈裟だよ…」





そう言いながらも、赤司がそう言ってくれることが降旗は素直に嬉しかった。あんな醜態を晒し、酷いことばかり言って、確かに傷付けてしまったはずなのに、それでも隣にいることを許してくれる。優しい恋人、赤司征十郎。後にも先にも、彼以上に愛せる人が現れるとは思えない。









つくづく思う。自分には勿体無い男だ──と。







「…光樹」
「なに?」
「これを」





唐突に空気が別の匂いを放ち始めた。赤司は後ろポケットから何かを取り出し、それを降旗に差し出した。それは幾重にも折り畳まれた紙で、その状態ではどんな内容なのかは分からなかった。降旗は困惑して赤司と紙を交互に見た。赤司は何も言わず、ただ紙を差し出すのみ。





説明を求めても無駄だと判断した降旗は、観念してその紙を受け取った。受け取ってなお、赤司の顔色を窺ってしまうのは致し方無い。視線だけで『あけて』と促されたので、降旗は素直にその紙を開いた。そして次の瞬間、目を見開いていた。










それは婚姻届だった。しかも既に赤司の名が書かれ、判まで捺されていた。赤司らしい、とても几帳面で綺麗な字だった。判も一寸のズレも無く、朱肉の滲みも無い。完全なる美しさを持った婚姻届だった。促されるままに開いた物の正体が自分とは縁遠いものすぎて、降旗は混乱していた。






「こんな紙切れ一枚じゃあ、君の今までの葛藤を退けるには役不足なのは分かっている」





混乱する降旗に、赤司は静かに語り掛けた。夜の公園に、赤司の声はよく通った。





「光樹、僕は君を誰よりも愛している。一生君と添い遂げたいと思っている。君が男であることにコンプレックスを抱いていても、結婚出来ない子供を作れないと嘆いていても、その気持ちは変わらない。あの時も言ったが、僕の幸せは君と居ることだ。君と別れて別の女性と結ばれるなど…考えたこともない」





左右で色の違うオッドアイは、真摯に降旗を射抜いていた。偽りも嘘も、その瞳には浮かんでいない。真っ直ぐ、矢のように、降旗の心を打ち抜く。





手の中の婚姻届は握り締められ、くしゃくしゃになっていた。降旗の瞳からは涙が零れ落ちてきていた。零れた涙は頬を伝い、婚姻届に小さな斑点を作る。涙を拭うことも忘れ、降旗は赤司の視線を真っ向から受け止めた。赤司も目を逸らさず、降旗の瞳を見据えている。





「それは僕の決意だと思ってくれればいい。僕の言葉が軽はずみなものではないと、それで知って欲しい」





言われなくても、それは伝わる。痛い程に伝わってくる。そうじゃなければこんな物用意しようなんて思わない。





「今の日本の法律ではなんの意味も無い紙切れだけど…君にサインしてほしい」





僕と同じ道を歩む覚悟を、決めて欲しい──言葉にこそしなかったけれど、つまりはそういうことだった。相も変わらない真摯なオッドアイは、降旗の答えを待っていた。…そんなもの、聞くまでもないのに。






嗚咽が込み上げてきて、降旗は返事をしたいのにそれを上手く伝えられない。「うん」「うん」と潰れた声で頷くのが、降旗に出来る精一杯の返答だった。伝えたいこと全てを、その二文字に込めた。オレも赤司を誰よりも愛してる、許されるならこの一生を赤司に捧げたい、結婚出来なくても子供が作れなくても一緒に居たい──






赤司は降旗の内なる言葉を全て理解した。嬉しそうに目を細め、赤司は「ありがとう」と言ってもう一度降旗を抱き締めた。その抱擁がキッカケになったのか、降旗は堰を切ったように泣き出した。それは決して悲嘆したものではなく、歓喜の涙だった。せっかく貰った綺麗な婚姻届は、とっくにぐしゃぐしゃになってしまっていた。
















次の日、そのぐしゃぐしゃになった婚姻届は降旗のサインと印鑑が捺された状態で額に飾られることとなった。赤司は区役所に提出しに行くつもりだったらしいが、降旗がそれを止めたのだ。





「出すの勿体無いし、出してもどうせ受理されないだろうし、 このまま持っておこうよ」





そう言われてしまえば、赤司に断るという選択肢は無くなる。たとえ受理されなくとも無理矢理受理させてしまう算段だったのだが、降旗がそれを望んでいないなら無理に決行する理由は無い。…それに、事あるごとに婚姻届を眺めて破顔する降旗を見ていたら、出さなくて良かったと赤司は思うのだ。










ぐしゃぐしゃで、涙のシミがあって、精錬された赤司の字と平々凡々極まれりな降旗の字が並んだ婚姻届。それが今の、そしてこれからの二人を繋ぐ、絶対的な絆で、愛情だった。




















愛のカクレンボ
(いつか一緒に出しに行こう)
(出すの諦めたわけじゃなかったのか…)




久々赤降ー。pixivの方である方にリクされたものです。赤司なら受理させることなど簡単なんだろうな…。




栞葉 朱那

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