※ふわり!&ほんのり!設定










二月二十七日。今日はビュティの家で、一日早いヘッポコ丸の誕生日会が行われた。誕生日当日は家族で過ごすと言っていたヘッポコ丸に考慮し、ビュティの発案で前日に行うことになったのである。




参加したのはビュティと首領パッチ、そしてパンコにコパチ、リンだ。パンコ達とヘッポコ丸はまだ知り合ってから日が浅いが、以前会った時にコパチがヘッポコ丸に懐いていたのもあり、三人が気安く言葉を交わせるようになるのに大した時間は掛からなかった。




パンコもリンも生憎プレゼントを用意出来ていなかったが、ヘッポコ丸はそれを毛程も気にしていなかった。そもそも知り合って間も無いのだ、用意出来ていないのは当然なのである。






ビュティが作ってくれたたくさんの料理とケーキ、そしてプレゼントの代わりにと二人が買ってきてくれたもう一つのケーキを囲んで、誕生日会は大いに盛り上がった。首領パッチがコパチと共にチキンでジャグリングを始めたり、片方のケーキを一人占めしようとしたりとちょっとハプニングが発生もあったが、ヘッポコ丸にとってはそれも良い思い出となった。







そうして大いに盛り上がった誕生日会が終わり、ヘッポコ丸はビュティの家を出て帰路に着いていた。…何故か、一人じゃないのだが。





「…なぁ、どこまで付いて来る気だ?」
「軽くアフガニスタンぐらいまで」
「そんなとこまで行かねぇよ!」





首領パッチソード(と言う名のネギ)を指揮棒のように振りながら、先頭を切る首領パッチ(先頭と言っても二人しか居ないのだが)。ヘッポコ丸が帰宅しようとした際、何故か彼はヘッポコ丸に付いて来たのである。途中まで送る、が彼の言い分であったが、そこにどんな意図があるのか全く読めない。








首領パッチが自由なのはいつものことだし、それに巻き込まれるのだっていつものことだ。だが、今日の行動は比較的まともな部類だ。ヘッポコ丸から話し掛けなければ、おかしな言動だって鳴りを潜めている。それが逆に不気味で、ヘッポコ丸はどう対処したらいいのか分からず、自然と口数も少なくなっていた。普段あんなに騒がしい首領パッチが大人しくなっただけで、こうも対応に差が出るのかとヘッポコ丸はこっそり一つ学んだ。






だが、理由が何であれ、あまり長い時間同行させる訳にもいかない。単身で隣町まで行ってしまう首領パッチだ、一人で帰らせても大丈夫だとは思うが、今は時間が時間だ。とっくに日も暮れて、もうそろそろ人通りも絶えてしまうだろう。そうなると一人にするのはやや不安だ。マスコットを狙う変質者が出ないとも限らないわけだし。





「首領パッチ、もうここでいいぞ? どこまで来るつもりか知らないけど、あんまり遅くなったらビュティさんが心配するぞ」
「ケッ、心配させときゃいいんだよ」
「おい、そんな言い方」
「 オレにはやらなきゃいけないことがあるんだよ」





あまりに身勝手な物言いを咎めようとしたが、それは鼻先に突き付けられた首領パッチソード(と言う名のネギ)によって遮られた。やらなきゃいけないこと、というのがヘッポコ丸にはよく分からない。見送りがやらなきゃいけないことなのかな? と自信なさげに当たりをつける程度だった。





「ヘッポコ、ちょっとしゃがめ」
「はぁ? なんで」
「いいから。ほら」





首領パッチソード(と言う名のネギ)を振って促され、ヘッポコ丸は不本意ながら素直に指示に従った。しゃがむとちょうど首領パッチと目線が合う。ヘッポコ丸がしゃがんでくれたことに満足したのか、首領パッチソード(と言う名のネギ)を肩(?)にかけてニヤリと笑う。あ、なんか良からぬ事を企んでる…と思い当たった頃には、もう既に奪われていた。










何が? ヘッポコ丸の唇が、である。





「っ!!!??」





ヘッポコ丸が驚きに目を見開く頃には、首領パッチはもう離れていた。理由の分からない首領パッチからのキスは思春期の少年からすればあまりに衝撃的だったようで、ヘッポコ丸は驚きのあまりバランスを崩して尻餅をついてしまった。その顔は可哀想なぐらい赤くなっていて、唇を手で押さえてわなわなと震えている。






時間に換算すれば、唇が触れていたのは三秒にも満たない。本当に触れるだけのバードキスだった。それなのにこの狼狽っぷりは些かオーバーだと言える。純情にも程があるというか、ヘッタレ丸の異名をよく表しているというか…なんとも形容し難い。





「どうしたんだヘッポコ丸?」
「ど、ど、ど、どの口が言う!?」





ヘッポコ丸がどうしてそんなにもワタワタしているのか本気で分からないらしく、首領パッチは小首を傾げている。その飄々とした態度に、ちょっとだけ回復したヘッポコ丸が言い返す。





「お、おま、お前今、なんで…!」
「だって、好きな奴にはキスするもんなんだろ?」
「え、は?」
「オレはお前が好きだからな」
「………」





開いた口が塞がらないとは、まさにこの事だ。まさか首領パッチにキスをされて、あまつさえ告白めいた台詞を向けられるとは、ヘッポコ丸は思ってもみなかった。突然のキスに上がっていた熱がじわじわと冷めていく。冷静になりつつある頭で、どうしてこうなったのかを整理する。










ビュティさんが誕生日会を開いてくれた→帰ろうとしたら首領パッチが付いて来た→早めに帰らせようと思って説得しようとしたら失敗した→しゃがまされた→キスされた→告白された←イマココ










あれ、おかしい、どうしてこうなったのか全く理解出来ない。途中からどう考えても流れがおかしいってことくらいしか分からない。





「首領パッチ…それ、本気で言ってんのか?」
「あ? マジマジ大マジ」
「…意味分かって言ってんのか?」
「分からないと思ってんのか?」
「…いや…」





分からないとは、思っていない。何を隠そう、ヘッポコ丸の恋の相談に乗ってくれていたのは、他でもない首領パッチだったのだから。恋愛感情そのものを正しく理解しているかどうかは判断しかねるけれど…少なくとも、キスの意味は、キチンと理解しているようだ。首領パッチだってそれを踏まえて上で、キスをして、告白をしてきた筈だ。







それでも、何故、このタイミングなのだろう…ヘッポコ丸が抱く疑問にはそれも含まれていた。首領パッチがどうして自分のことを好きだと言ったのかとか、キスまでしなくて良かったんじゃないかとか、色々なことがぐるぐる脳内を掻き回すのだが、混乱を引き起こすだけで自分を納得させられるだけの答えを導くに至らない。






だが、少なくともヘッポコ丸は、首領パッチをそんな風に見たことはなかった。当たり前のことなのだけれど。首領パッチはマスコットであり、恋するビュティのペットという位置付けでしかなかった。もともとビュティに(恥ずかしながら)ベタ惚れだったヘッポコ丸だ、ビュティ以外をそういう対象に見ようという考えすらも無かった。…首領パッチなど、論外だった。





「なんで…今なんだ…?」





そう問うと、首領パッチはふいっと視線を逸らした。それは照れを隠す為の無意識の動作だった。そうして視線を逸らしたまま、首領パッチはポツリと零す。





「…誕生日プレゼント」
「え?」
「だから! 誕生日プレゼントだよ! オレからの愛の告白が! 嬉しいだろ!?」
「うぇ、あ、あの…」





最初の恥じらう仕草はどこへやら、すごい剣幕で捲し立てながらヘッポコ丸に詰め寄る首領パッチ。強引さはすっかりいつもの首領パッチだが、投げ掛けられた内容が内容なだけにヘッポコ丸はいつものように切り替えせない。というか『嬉しいだろ』と言われても、困惑するばかりだ。








好意を寄せられること自体に嫌悪感は無い。だからと言って、首領パッチをいきなり恋愛対象として見れるかと問われれば、それは難しい。今のヘッポコ丸にはビュティという想い人がいるし、そもそも突然首領パッチをマスコット以外の視点で見ろと言われてもハードルが高すぎた。恋愛対象など尚のこと。










首領パッチ本人にとっては不本意であろうが、今の時点でこれは最難関の『叶わぬ恋』なのである。──それは首領パッチもどうやら、理解しているようだが。





「今返事しろなんて言わねぇよ」





急に真面目な顔を作って、首領パッチはそう言った。ヘッポコ丸の想いなど、首領パッチが一番良く知っていることだ。それに、生真面目で優しいことも分かっている。だから、告白の返事を急く気はさらさら無かった。





「お前がビュティにベタ惚れなのは分かりきってるからな。そこはいきなり変えられねぇし。けどな!」





…そしてどうやら、諦める気も無いようだ。首領パッチソード(と言う名のネギ)をビシッとヘッポコ丸の鼻先に突き付け、たじろぐヘッポコ丸なんてお構いなしに、首領パッチは宣言した。





「オレの誕生日までにオレを好きにさせてやる!」
「はっ!? お、お前なに言ってっ…!?」
「ビュティじゃなくてオレを好きにならせる。だからオレの誕生日、返事聞くからな」
「いや、待てよ首領パッチ! そんなの…」




無理だ、と言おうとした。しかし言葉は出て来なかった。直前まで出掛かっていたのに、それは音にならず霧散した。ヘッポコ丸の良心が、無意識にブレーキをかけた為だった。






ヘッポコ丸自身、これからどれだけの時間を費やされても首領パッチをそういう風に見れるようになるとは思っていなかった。だけど、自分の価値観だけでそう決め付けて真っ向から頭ごなしに否定することを、憚られたのだ。それは首領パッチの想いを気安く溝に捨ててしまうことと同義に思えたから。







応えることは出来ない。でも、傷付けたくない。せめぎ合うヘッポコ丸の良心。すっかり押し黙ってしまったヘッポコ丸を見て、首領パッチはもう一度、触れるだけのキスをした。今度はヘッポコ丸は驚かず、ただされるがままになっていた。





「甘いよなお前は。クマドの期間限定パイナップルパイみたいに甘い」
「…悪い、意味が分からない」
「そんなんだからお前を好きになる奴がいるんだってこと覚えとけよ」





まぁビュティは別みたいだけどな、としっかりヘッポコ丸の傷口を抉ることを忘れず、首領パッチは未だ尻餅をついたままのヘッポコ丸を置き去りにスタスタとビュティの家の方向に歩き始める。まだ立ち上がる気力も無いヘッポコ丸は、離れていくオレンジトゲの後ろ姿を首を捻ってなんとか追い掛ける。






十歩程距離を置いた所で、首領パッチは立ち止まった。そして振り返り、再び首領パッチソード(と言う名のネギ)をヘッポコ丸に向けた。





「次から本気で行くからな。惚れる準備しとけよ」
「あ、あの、首領パッチ…」
「ベーコン通りまーす」





言いたいことは纏まっていないがとりあえず引き留めようとしたヘッポコ丸だったが、首領パッチは謎の掛け声と共にどこからか取り出したベーコンを頭に乗せて、さっさと走り去っていってしまった。ポツンと取り残されるヘッポコ丸。通りすがりの人が訝しげに座り込むヘッポコ丸を見ていたが、それを気にする心の余裕など、ヘッポコ丸には無かった。








どうしたらいいんだろう──そればかりがヘッポコ丸の頭を犇めいていた。二度も首領パッチに触れられた唇をなぞって、首領パッチの唇が意外に柔らかかったことに着眼してしまい、ヘッポコ丸は我に返ってから羞恥で死にたくなった。ドキドキと心臓が早鐘のように打ち付ける。思い返されるのは普段とは違う、真面目な眼差しの首領パッチ。あの瞳を思い出すだけで、あの言葉は本気なのだと確信出来た。





悪ふざけだと言って欲しかった。そうすれば、胸の内を駆け巡るこの感情を、どうにか誤魔化せたかもしれないのに。どうしてこんなにドキドキしてしまうのか。どうしてさっきのことを思い出しては恥ずかしくなるのか。どうしてキスを拒まなかったのか。──どうしてこんなにも、意識してしまうのか。




その全てに、言い訳が出来たかもしれないのに。





「なんなんだよ…」





とんだサプライズプレゼントだ…とヘッポコ丸は八つ当たりにも似た感情を、もういない首領パッチにぶつけた。これからはビュティに会いに行っても、彼女よりも首領パッチを意識してしまうであろう自分を予想して、ヘッポコ丸は頭を抱えたくなった。告白されただけで過剰に意識してしまうなんて…自分はウブな学生かとツッコミを入れた。すぐさま自分は学生だということを思い出した。







とにかく今の時点で確定していることは…忘れられない思い出が一つ増えたということと、明日の誕生日、ヘッポコ丸は平穏無事に過ごせない…ということであろう。











これから一体どうなるのかは…本人達のみぞ知る。























サプライズ
(あれ、ちょっと待てよ?)
(首領パッチの誕生日っていつだ?)





2015ver.へっくん生誕記念小説でーす!! へっくんお誕生日おめでとうー!!!!


今年はふわり!設定のパチ屁でお送りいたしました。俺が書いたらおやびんが別人になっちゃってもう四苦八苦しながら書きましたが、書き上がって良かった(o´Д`)=зフゥ…


誕生日プレゼントが告白とか、ロマンチックか? どちらかと言うとプロポーズが良いよね。まぁマスコットである首領パッチが指輪とか買えるわけもないから仕方ないね。へっくんが絆されないように祈るのみ(笑)。


ずっとずっと愛してる俺の嫁。へっくん誕生日おめでとう!!!!!(二回目)




栞葉 朱那

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