部屋に入った途端、加持は笑いながら両手を差し出す。ミサトはいつもの場所に座ろうとして、一瞬躊躇したが、加持の視線に促され側に行く。

「お、素直だな」
「…悪い?」

膝の上にミサトを乗せると、手を重ねて加持は握った。

「とても良い」

手を引き寄せると、丁度ミサトの肩に加持の顎が乗る。宙を漂っていた手を、迷いながらもミサトは背中に回した。

「…加持」
「どうした?」

加持もミサトの背中を擦り、確かにある温もりを感じ取ろうとしていた。

「ううん、何でもない」

自分でも、何を言おうとしたのかミサトは分からない。ただ、黙っているのが恐かった…それだけ。

「あったかいな、葛城」

体のそれだけではない。ミサトといると安心する。素の自分でいられる。波長が合う…言葉にするのは難しいが、表すとしたらそんな感じだ。

「赤木ほど夢は見れないが」
「うん?」
「いや、良いんだ。これで」

自分の為に生まれてきた相手を待つ。リツコの話はハーフソウル…確か、そんな名前。生まれる前に、元は一体だった男女が離され、相手を捜して生きていく…そういう説だ。

そこまで純真じゃない。でも、キライな話じゃない。抱き寄せて重なる唇。離されて絡み合う視線。運命論に興味はないが、こうしていると少し位、信じても良い…加持はそんな気分になってくる。

「くすぐったい」

背中に這わされ続けられている加持の手。器用な手付きだ。ゴツゴツした男の腕。その感触は、ミサトにとって初めて感じるモノだった。

構わずに手を動かし続ける加持。ミサトはたまらなくなり、体を離す。

「くすぐったいんだってばっ」

ミサトの様子を見て、加持は意地悪く微笑む。余裕のある態度だ。それが悔しい。唇が耳元にあたり、軽く噛まれ、ミサトは驚いて体を震わせた。

「これ以上、しないから」

何度も言ったセリフを加持はまた言う。それは自分自身に言い聞かせている。首筋に光るペンダント。そこをなぞるように加持は唇を押し付ていく。

「…加持」

再び唇を重ね、深く口付ける。こうしたかった。だから、ここにいる。自分の意志で。加持は言った事は守る。今はこれ以上先に進む事はできない。

お互いに分かっていた。言葉にはしなくても。

キスも抱き合うのも、抵抗は全くない。加持の舌が入ってくると、ミサトは背中に回した手に自然と力が入る。

「おまえがどうなろうと、俺は受け止める自信あるよ」

(私が、どうなる…?)

ミサトにも分からない。何か言いたいのに、加持は唇を塞いでそれを止める。

「俺はそうだが、葛城は…」

(…私は、どうなるんだろう)

加持の事も、リツコの事も、全てを覚えていられるのか。記憶が戻ると引き替えに、今を忘れてしまう…加持はそれを案じている。

ミサトも何となくだが、分かっていた。加持が言いたい事。

「忘れないよ。忘れるワケないよ」

唇を離して、ミサトは加持の頬に手を充てた。できる限り優しく。

「…そうだな」

言葉では何とでも言える。ミサトがウソをついているのではない。本当にそう思っている。しかし、それは彼女の意志だ。

人間の脳は複雑にできている。どうなるかなんて、誰にも分からない。

「葛城が俺を忘れても、また思い出させる自信はあるな」

少しのウソ。ミサトが自分を忘れて、またこういう関係に戻れるかは、彼女の意志だけの問題ではない。戻るべき場所、やるべき事があるなら、ミサトは自分を残して行ってしまう。そんな予感がする。

「ありがと。でもね、本当に大丈夫だと思う」

そう言うと、ミサトは加持を強く抱きしめた。加持も負けない位、強く腕に力を込める。

(何も考えるな…今は)


まだ唇と体中に残っている。加持の感触。これを忘れられるハズなんかない。狭い、散らかった部屋に帰ると、ミサトは現実に引き戻される。

(…コレは忘れちゃうんだよね)

教本とリツコに貰った問題集を横目で見ながら、ミサトは迷った。どちらから手を付けようか…結局、問題集を解く事にする。

(時間は余裕あるかも)

時計の針を見てミサトは頷いた。解らない所は飛ばして下手に答えを書かず、後から良く考える。そうすると、意外に頭に浮かんだりする。全てリツコの受け売りだ。

(見直しは三度っと)

これもリツコに言われた事。彼女の言う通りにすれば大丈夫だとミサトは思う。

何故免許を取るのか、ミサトはそれこそ忘れていた。目の前の事に夢中になり、誰かの期待に応える…今の場合はリツコの。

(昔も、そうしていたような…)

――頑張らないと嫌われちゃう。良い子でいないと、悲しい顔される。見たくないのに

(リツコはそうじゃない)

誰だか分からないけれど、この人のために頑張りたい…そういう気持にさせるように、その誰かに対しては思えなかった。

自分が嫌われないためだけに、一生懸命やっていた。その人のためじゃなく、自分のためだった。

(良い子じゃなくてもいいんだ…)

――リツコは違うもん。私に頼んだからには、支えてくれる。責任は自分にあるって思ってる。何かあったら自分のせいだって、思うよ。きっと

(怖くない。リツコも加持も…いるから)

何もできなくても、呆れたり怒ったりしない。

(…行かないで。お父さんがいないと、お母さんは私に冷たくなるから)

――泣いてばかり。私を見てくれない。良い子でいるのに。だから、早く帰って来て。そしてずっと一緒にいて

(…行かないで。お父さん)



起きたら朝だった。机に突っ伏したまま寝てしまった。貴重な時間を無駄にした…ミサトは頭を掻きむしる。

「あー、もうっ…あれ?なんで濡れてるんだろ?」

ノートの文字が滲んでいた。それが自分の涙のせいだとミサトは気付かなかった。



「よっしゃーっ!一発合格っ」

自分の受験番号が掲示板に示され、ミサトは拳を握りしめた。

(早速リツコに連絡っと)

日曜日だから、電話をしても出れるだろう。外に出て、携帯を取り出すと同時に、リツコからラインが入った。心配しているみたいだ。

「"受かったよ"」
「"本当に?凄いじゃないの。一度で受かるとは思っていなかったわ"」

確かに、一度で受かるのはかなり珍しい。ミサトも自分自身に驚いていた。

「"えへへ。ありがと。リツコ様様だよ。じゃ、一旦戻るね"」

交付まで少々時間がかかる。中に入って長椅子に座り、名前が呼ばれるのを待つ。

(加持にも言っとこ)

再び携帯を取り出し、加持にラインを送ろうとした。その時、目の前に誰かの気配を感じ、ミサトは顔をあげた。

「やっぱり、葛城さんっ。偶然ね」

にこやかにミサトを見て笑う女性。ユイ。外で会うのは初めてだ。普段より、しっかり化粧をしていたし、外出着なので、一瞬分からなかった。

「ユイさんっ、ホント偶然ですね」
「どうしたの?こんな所で」

(…あ)

別に免許を取りに来ただけなら、いくらでも言い訳はできる。偶然ユイに会えたのは嬉しいが、今はマズい。

ミサトは偽名を使っている。順番が来たら、名前を呼ばれる事になる…偽物の。

「ゆ、ユイさんは?」

言いながらミサトはしまった…と思う。自分から話を振ってしまった。しかし、何も言わないのは不自然だ。

「免許の更新に来たのよ。平日はなかなか時間が取れなくて。葛城さんは試験?」

(…どうしよう)

ユイは免許の事は、何とも思っていないようだ。ここに居るって事は、それ以外に用はないから、当然と言えばそうだ。

それは良いけれど、偽名で呼ばれてしまう。聞かれたら困る。外に行きたいが、ここで待つように言われているのに、席を外すのはおかしい。

「仮免許ね。待っているって事は受かったのね。おめでとう」
「あ、ありがとうございます…」



次々に名前が呼ばれた人が、席を立つ。トイレに行くフリをしよう…そう考えた時、ミサトの名が聞こえてくる。

「桂ミサコさん」

取り合えず、ミサトは知らないフリをした。

「桂さーん、桂ミサコさーんっ」

(…聞こえない聞こえない)

ミサトの様子を見て、ユイは悟ったらしく、肩を叩いて促した。

「行かないと遅くなるわよ?」

(…バレちゃった)

ユイの勘が良いのか、自分が挙動不審だったのか…どっちにしろ、もう遅い。ミサトは気まずい顔をして席を立った。



「自動車学校…には行っていないわよね?」

ユイの車の中。送ってくれると言ってくれたし、話をしないとならない。何をどう話せば良いか分からないが、ミサトは必死に言い訳を考えていた。

「行ってないです」
「運転、教えましょうか?」
「え…」

仮免許があれば、条件付きで公道を運転できる。その一つに、免許取得をしている人間を助手席に乗せる…ユイはそれを言っているみたいだ。

非常に有り難い申し出だ。隠し事がないなら。

「何も聞かないんですか?」

ミサトが偽名を使っていても、ユイは追求しない。やはり、加持が良く言うように他人の事には首を突っ込まない…その暗黙の了解を貫いてくれている…そう考えて良さそうだ。

「事情があるんでしょ?」
「ええ、まあ…はい」

信号が赤になり、車が停まるとユイはミサトの方に顔を向けた。口元に笑みを浮かべている。意地悪な笑いではない。少しホッとする。

「分かっていると思うけれど、私にも色々ね」

ユイの表情と口調から、私はあなたの味方…余計な詮索はしない…そう取れる。

「迷惑じゃなければ、ぜひ」

リツコと加持に相談してから返事をしようかと、一瞬迷ったが、どっち道バレてしまっている。ここで断るのも悪い気がして、ミサトはそう答えた。

「頑張りましょ」



リハビリも兼ねて、加持は叔父と畑をいじっていた。少し手助けをすれば、彼は水を撒く事や、雑草を取り除く事はできる。

(…連絡ねえな)

ないという事は、落ちたのか…加持はそう考えていた。車の音が聞こえてくる。ユイが帰って来た。その方を向くと、助手席にいるミサトを見て、加持は度肝を抜かされる。

「…葛城」

全く、どうしてこうなったのか、分かる訳もない。

「お邪魔します…」

複雑な表情を浮かべたミサトと、にこやかに笑うユイ。二人を交互に見ながら、加持はポカンと突っ立っていた。



「ふーん。そういうワケか」

一通り説明すると、加持は納得したようだ。無事に仮免許は取れた事を聞いて安堵する。試験に行く途中でユイに会い、止められたのかもしれない…そう考えていたからだ。

「出かけるって、今朝言ってたからな。まさか免許の更新とは…」
「バレちゃったもんはしょうがないよ」
「そうだな…ユイさんなら」

信用しても良い。と言うより、信じるしかない状況だ。

「リツコはどう思うかな?」

リツコはユイに会った事はない。彼女が知らない人間を信用するかどうか…加持には分からなかった。

「…怒るかな」

そう言って、ミサトは膝を抱えて座り込む。選択の余地はないが、リツコがどう出るか想像がつかない。

「行動あるのみ、だ」
「ん?どうすんの?」
「赤木、呼んでみるか」

それが一番良さそうだ。リツコがユイをどう思うかは分からないけれど、こうなった以上は仕方がない。


「それにしても凄い偶然ね」

急な呼び出しにも関わらず、リツコは出てきた。大事な話だし、自分が仕向けた事だから責任がある。そう思っているみたいだ。いつも通り冷静なリツコを見て、ミサトは安心した。

(これからは分かんないけど…)

「後少しだよ」

ミサトは一人で駅までリツコを迎えに行っていた。加持と会う前に、なんとか上手く説明しようと考えたからだ。二人が揃うと、また冗談半分の口論が始まる…そんな感じがしたから。

(叔父さんとユイさんに会う前だから、穏やかにしたいし)

見ていて面白いけれど。特に加持が言い負かされるのは。しかし、今はそれどころではない。

(でもまあ、心配なさそうな…)

リツコの様子を伺いながら、歩いていた。気にしている感じはしない。起きてしまった事より、謎の深いユイという人物に興味があるみたいだ。

「ここだよ」

リツコは感心したように加持の家を見ていた。

「綺麗に手入れされた庭ね」

単に叔父の趣味というだけなのを、ミサトは知っていた。それでも、印象が良いに超した事はないし、大好きな叔父が褒められているようで嬉しく思う。

「赤木リツコと申します。突然お邪魔してすみません。加持君にはいつもお世話になっています」

穏やかな微笑みと優雅な物腰。リツコが丁寧に挨拶をすると、ユイは嬉しそうに出迎えた。

「あなたが赤木さん…本当に綺麗なお嬢さんだわ。成績も抜群ていう噂で…」
「解らない所は加持君にいつも教わっているからです。本当に助かりますわ」

(…そんな経験ないぞ)

加持が苦い顔をしているのを見て、ミサトはこっそり尻をつねった。

「(リツコに合わせて)」
「(…分かってるよ)」

玄関先で話すのもなんだから…と言い、ユイは嬉々としてリツコを招き入れる。

「あなた、赤木リツコさんですって。リョウジ君と勉強仲間の…ライバルかしらね。良い意味で」
「いつも励まし合っています。刺激を受けますわ」

(そんなモンにいつからなったんだ?)

すました顔をしてリツコは案内された居間に入っていく。一瞬、加持を横目で見る。

"余計な事は言うな"

そんな視線だ。

「(分かっちゃいる。そうなんだが、腑に落ちねえ)」
「(だーかーら、リツコに任せなよ)」

ミサトとしては、多少の責任を感じていた。自分が機転を利かせれば、どうにかなったかもしれない。それに、リツコがユイを信用してくれたら嬉しい。二人共好きだから。



「叔父さまのお話はとても楽しいですわ」

気に入っている作家が同じらしく、叔父は純文学についてリツコに語っていた。リツコは聞き役に徹しているが、所々に相槌を入れて、楽しげにしている。

「本当に急に来てしまったのに、夕食まで…」
「料理は趣味なのよ。女の子が二人もいると華やぐし、嬉しいわ…お口に合うと良いんだけれど」

テーブルの上に並んだ数々の料理。本当に美味しそうだ。器も盛り付けも、料理に合っていた。ユイのセンスにリツコは感心している様子だ。

「…美味しい」

箸を付けて、リツコは目を見開き、次々に箸を運ぶ。

「あら、良かったわ。どんどん食べてね」「普段はあまり食が進まなくて…食べ過ぎてしまいそう」

はにかんだようにリツコは言う。ユイは少し頬を染めていた。

「加持君から聞いていた通りですね。お料理がとてもお上手で…教えて欲しいくらいです」

(言ってねえよ)

これが、一般的な人間に映る、赤木リツコという人間。誰の目から見ても、品性も兼ね備えた優等生。

但し、加持とミサトは除いて。

(どっちも本当のリツコなんだよね)

「素敵な時計ですね」

ふと、壁時計を見て、リツコは言う。

「葛城さんに頂いたの。退院祝に」
「一生懸命考えていたものね」

ミサトの方を向いて、リツコは言葉を継ぐ。

「大切な人に贈るからって。とても良い物を選べて良かったわね」
「えへへ…そっかな」

ミサトもにこにこして、リツコを見る。ユイはそんな二人を嬉しそうに眺めていた。

「本当に素敵なお友達に恵まれて…リョウジ君は幸せね」



演技ではない。ミサトにはそう見えた。しかし、リツコに対して固定観念を持っている加持は見抜けていなかった。

「あら、綺麗にしてるのね。加持君にしては」

加持の部屋を見て、素っ気なくリツコは言う。

「もうユイさん居ないし、褒める必要性はないぞ」

一応、メインの客人である、リツコに椅子を勧めると、加持はベッドに座り、腕組みをした。ミサトは定位置の床にしゃがむ。

「突っかかるわね。良い人じゃない…ユイさんて」

リツコが心から言っている事は、加持も分かる。安心して良いところだが、リツコが話していた内容が引っ掛かっているみたいだ。

「赤木は社交性にも長けてるな。本当に素晴らしい。良いライバルを持ったモンだ、俺は」

嫌味たらしく加持が言う。

「私は本当にそう思っているわよ」
「…んなワケないだろ?」
「すぐ後にいるでしょう。多少は意識するわ」

他人の成績など、興味がなかったリツコ。しかし、加持は大抵、三位以内に入っている。夏休み前の試験で、日本史だけ加持に抜かれたので、それから結構気にしているらしい。

(…本心なのか)

「しかしまあ、良くあれだけ変われるモンだな」
「何も変わってはいないわ。分からないの?」

(…私は良く分かるな)

先程や、学校でのリツコと加持の前での態度の差。ミサトからすれば、どちらも素なんだと思う。わざわざ相手によって変えている訳ではなく、相手がリツコをそうさせる。

関心のない物事や人間には、徹底的に興味を示さない。例え、ユイと親しくするべき今の状況でも、気に入らなければリツコは冷淡な態度をとった筈だ。

「素敵な人達と暮らしているのね。加持君は」
「赤木?」

寂しそうにリツコは言ってから、首を横に振った。

「とにかく良かったわ。ミサトはユイさんに運転習う気でしょう?」
「うん。路上は自信ないし…教習所だけだと時間かかっちゃうから」

(…赤木も辛いんだよな)

表に出さないから忘れていたが、リツコは母親の事を常に考えていた。だから、こうして色々と探っている…ミサトのためというのも勿論あるが、一番の目的は母親を取り返す事だろう。

「ありがとな、赤木」
「何よ、いきなり」

経緯はどうであれ、リツコとミサトと親しくなった事は、加持の心境に変化をもたらした。ユイの言う通り恵まれている。

改めて考えてみると良く分かる。この状況が自然過ぎて、気付かずにいた。いつの間にか、リツコは大切な友人になっていた。本音でぶつかり合える、数少ない人間。

「それじゃ、そろそろ帰るわね」
「あ、私も」
「あら、良いの?二人になりたいんじゃなくて?」

ミサトはリツコに寄り添い、腕を組んだ。

「リツコとね」

(悪かないな。こういうのも)

妙齢の女の子が仲睦まじくしている姿は良いモンだ。

「それにしても、とても素敵な叔父さまね…」

リツコが独り言のように呟く。

「リツコも思う?穏やかで、話しやすいよね。理想のお父さんって感じ」

ミサトが何度も頷きながら同意すると、リツコは複雑な顔をする。

「お父さん?それは違うわ」

(…なんだ、この流れ)

前に言っていた、リツコの理想の男性は年上。加持がリツコを見ると、何故か視線を外される。

「まさかとは思うが、赤木…」
「い、言わないでっ」

明かに顔が赤い。冗談半分で言った自分のセリフが的を獲ていたらしい。しかし、いくら何でもリツコの趣味はズレている。

「なんの話?」

全く理解していないミサトは、赤い顔のリツコと、口をあんぐり開けている加持を交互に見ていた。

「恋人がいらっしゃるもの。私の運命の方ではないわ」
「ピンときたってコトか…」
「いやね、もうっ…忘れて」

(ピン?)

二人のやり取りを聞いていても、ミサトにはイマイチ理解できない。

「赤木。きっと他にもっとピンピンくる男が見付かる。だから…」
「分かってるわよ。何もしないわっ」

(ヘンな二人)

叔父を男性としてリツコが見ているとは、ミサトは思いもしない。良く分からないけれど、丸く収まったみたいで安心した。

(頑張らないと)

ユイまで巻き込んでしまった形になる。協力してくれるからには、結果を出したい。これは出さなければならない場面だ。

加持、リツコ、そしてユイ。徐々に増えていく、秘密を共有する人間。これは偶然なのか必然なのか、この時のミサトは考えもしなかった。

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