僕たちは君の足

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少女は、歩くことが出来ない。

足がないという訳ではない。
感覚が全くなく、力を入れることも、立つことも出来ないのだ。

そんな少女は、両親に捨てられた。
冬の寒空の下、川原の側に薄い毛布でくるまれたまま、少女は置き去りにされたのだ。

寒くて、動けない状態が怖くて、少女は声を殺して泣いていた。
そのまま夜が更けて、冷たい風が容赦なく吹き荒ぶ。
涙が溜まって滲む視界の中に、遠くの街灯が見えた。
誰かに助けてもらおうと、ずりずりと手だけを使って地面を這っていった。

それからまた時間が経ち、やがて街の灯りも消え始めてしまった。
また襲ってくる恐怖に怯えていると、一件の家の明かりが点いていた。

そこまで行くと、一階は暗いものの、二階は窓から明るさが見えた。
それどころか、賑やかな声まで聞こえてくる。

ここにいる人達に助けてもらおう。
そう思って伸ばした小さな手は、玄関の引き戸をばし、と叩いてそのままになった。
人の気配を感じて安心した少女は、そこで眠ってしまった。

ーーーーーーーー

「今、物音しなかった?」

「あは、したねー!」

急に聞こえた不自然な音で最初に目が覚めたのは、右端で寝ている十四松とチョロ松だった。

「…兄さん。ちょっと。」

「えー…?」

「…どしたのチョロ松兄さん。」

未だに眠そうに目を擦るおそ松とトド松に十四松がおもいっきりタックルをかましてきた。

「起きろーーーー!!」

「ぐえっ」

「おふっ…兄さん!!」

「騒がしいぞ…。」

「…うるさい。」

その騒ぎで目を覚ましたカラ松と一松は、少し不機嫌そうな顔をしていた。

「今、下で音がしてさ。」

「えー、僕も聞こえてたけど風で何か飛んできたんじゃない?」

ふと見た時計は、夜の二時半を指していた。

「丑三つ時に物音とか…ヒヒッ。」

「やだ!やめて一松兄さん!!」

ぶるぶると悪寒が走ったかのように震えたトド松に、うるさい。とチョロ松が注意した。

「てかさ、様子見に行った方が早いでしょ。」

「父さんも母さんも寝ちゃってるし、俺達が行くしかないかな〜?!」

「フッ…暗闇の中に果敢にも挑む…俺。」

おそ松、カラ松、チョロ松、一松、トド松、十四松の順に並んで(トド松が一つ先なのは、後ろが空いていると怖いかららしい)慎重に階段を降りる。

やがて問題の玄関にたどり着くと、警戒しつつおそ松が戸を開けた。

「あれ?何もないじゃん。」

キョロキョロと周辺を見渡してから戻ろうとすると、下の方に何かが見えた。

強い風にばたばたと揺れる毛布の中から、小さな手が出ている。

「えっ…。」

擦り傷だらけの手に嫌な予感しかしない。
恐る恐る被せられているそれを捲ると、中には死体ではないが、ぐったりとしている女の子がいた。

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