傘屋

□とある日78日目
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私は、絵描きである。
もともと、アウギュステで海の絵を描いて売っていたどこにでもいるような普通のエルーンの絵描き。
そんな私が何故、エルステ帝国が指名手配していた名高い騎空団にいるかというと。
とある人に、えらく気に入られてしまったからなのである。
運命的なものを感じたから、一緒に来て欲しいとか言われて。
騎空団に入るなんて中々無い体験だし、と私はそれに了承した。

その人は、普段は飄々とした掴み所の無い人で、にこにこ笑顔が絶えなくて、一緒にいると落ち込んだ気分が晴れるような…そんなかんじの人。

冬の冷たい朝方の空をそのまま移したようなふわふわの髪に、ぴょこんと可愛らしく生えた耳。
防具を着けていても尚細さを感じる腕と、男らしさを感じさせる体と…話し出したら、きっとキリがない。

要するに、私は、その人が好きなのだ。
情けない話、最初こそ困った人と思っていたけど、でも長い間共にいて分かってきたあの人の良さに惹かれ、いつの間にか私は片思いをしてしまっていた。

顔を合わせると頬が熱くなって、平常心なんか保てるわけなくて、とにかくドキドキしてしまう。
今だって、窓の向こうで団長と楽しそうに話しているその姿もキュンとくる。

一度でいいから…そう、一度でいいから…

「思いっきり、抱きついてしまいたいなぁ…」

「だから、早くそうして来なさいって言ってるでしょ〜?」

「うぅ〜、だって、だって…!!」

「もー、ほんと名前ってば恋愛にはとことん奥手よね!!
そんなの、勢いで行っちゃえば良いのに」

窓に寄り掛かってずるずると崩れていく私を、ティータイム中のイオちゃんは呆れたような目で見ていた。
可愛らしくぷくりと頬を膨らませて、私に不満げな目線を配っている。

「それにしても、名前も物好きよね。
他にもたーくさん、グランとかラカムとかイケメンな男の人はいっぱいいるのに…なんで、よりによってドランクなわけ?」

「…さあ…分かんないけど、なんか惹かれるんだよね…」

のそのそと自分の椅子に座り直して、自作のクッキーと紅茶を貪る。
今日はカモミールティーとハチミツクッキーをチョイスした。
優しい味だから、大好きなはずなのに。
なんだか、いつもより紅茶が少し苦いような気がした。

そんな様子の私を見て、イオちゃんは「くっつくのはまだ先ね」と溜め息を吐いた。

それって、どういうことなの?
ーーー
あの子は、絵描きである。
もともと、アウギュステで海を描いて売っていた可愛らしいエルーンの絵描き。
そんなあの子が何故、エルステ帝国が指名手配していた名高い騎空団にいるかというと。
僕が、えらく気に入ってしまったからなのである。
運命的なものを感じたから、一緒に来て欲しいとか言って。
騎空団に入るなんて中々無い体験だし、と彼女はそれに了承した。

その子は、普段はふわふわと警戒心が無い様子で、にこにこ笑顔が絶えなくて、一緒にいると落ち込んだ気分が晴れるような…そんなかんじの子。

春の柔らかな若葉をそのまま移したようなさらさらの髪に、ぴょこんと可愛らしく生えた耳。
防具を着けていても尚細さを感じる腕と、女性らしさを感じさせる体と…話し出したら、きっとキリがない。

要するに、僕は、彼女が好きなのだ。
情けない話、最初から可愛いと思っていたけど、でも長い間共にいて分かってきたあの子の人の良さに惹かれ、いつの間にか僕は片思いをしてしまっていた。

顔を合わせると頬が熱くなって、平常心なんか保てるわけなくて、とにかくドキドキしてしまう。
今だって、窓の向こうでイオちゃんと楽しそうに話しているその姿もキュンとくる。

一度でいいから…そう、一度でいいから…

「思いっきり、抱きしめてしまいたいなぁ…」

「だから、早くそうして来なよって言ってるだろ?」

「いや〜、だって、だってねぇ…!!」

「はあ、ほんとドランクってばこういうことにはとことん奥手だな!!
そんなの、勢いで行っちゃえば良いのに」

自分が情けなくてしょげている僕を団長さんは呆れたような目で見ていた。
むすっとした顔で、僕に不満げな目線を配っている。

「それにしても、ドランクも変わってるね。
他にもたくさん、ロゼッタとかメーテラとか美人さんはいっぱいいるのに…なんで、よりによって名前なんだ?」

「…さあ…分かんないけど、なんか惹かれるんだよね…」

もそもそと自分が持ち歩いている飴を一つ食べた。
今日はカリンとハチミツの味をチョイスした。
優しい味だから、大好きなはずなのに。
なんだか、いつもより飴が少し甘いような気がした。

そんな様子の僕を見て、団長さんは「くっつくのはまだ先だな」と溜め息を吐いた。

それって、どういうことかな?

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