傘屋

□クラレット色の恋
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*フリスク≠名前
*フリスクが落ちてくる前の話

「あ、アルフィス…」

名前の携帯の調子がおかしいということで修理をしていた時、後ろからとても小さい声で名前を呼ばれた。なにかと思い振り返ると、いつもの箱の形ではなく人の形に変化したロボットの彼―メタトンの膝に座った状態のまま抱きつかれて顔を赤らめている名前がいた。

彼女は、突然この世界に落ちてきた人間の女の子。運が良いのか、誰にも見つからずにここまで来れたことに初めはとても驚いた。
メタトンは、最初は初めて私以外の話し相手ができたと喜んでいたのだが、いつしか彼女に対して恋愛感情を持ってしまったらしい。それは、名前も同じのようだ。

「えっと、なんか、急に、メタトンがこんな姿になっちゃって…」

「あー…それはね、彼のもうひとつの姿なの。背中にスイッチがあるから、それを押すと戻るわよ」

隙を見てそろりそろりと腕を伸ばして名前がメタトンの背中に触れようとすると、彼はそれに気づいたのか片方の手で伸ばしていたその手を繋いだ。

「ねぇダーリン、この姿の僕は嫌いなの?」

「え、あっと、き、嫌いじゃ、ない…よ?」

「そう?それなら、別に戻さなくてもいいんじゃなぁい?」

でしょ?と整った顔でメタトンが正面から覗き込むと、火が出そうなくらいに名前の顔が火照っていく。

「でも、あの…う、うぅ…」

ちらちらと私とメタトンの顔を交互に見て、恥ずかしそうに俯いた。
肩から落ちた彼女のシナモン色の髪は長く艶やかで、それは人間が持っている美しさの一つだと私は思う。

「ねえ、名前」

額をくっつけて、メタトンが少し低めの声で話しかける。
いつもみたいにダーリンと呼ぶのではなく、名前で呼ばれたことに名前の顔が自然とメタトンの方を向いた。

「っ…な、なに?」

「もしかしてさぁ、さっきから僕の姿を戻したがってるのって…恥ずかしいから?」

「〜〜っ?!!」

くす、と笑う彼の言葉は図星なのか、すっかり真っ赤に染まってしまった顔を隠そうと未だに繋がれている手を引っ込めようとしたが、「だーめ」と止められてしまった。
甘くなってしまったこの空気に耐えられず、私は止めていた作業を再開することにしたが、目の前で起きているその展開にやっぱり目が離せなかった。

「ね、答えてよ」

「あう…」

少し目を細めて、妖しく笑うメタトンに迫られて言葉を詰まらせていると、彼はしゅんとして名前のことを寂しそうに見つめた。

「やっぱり、嫌いなの?」

「ち、違うよ!!た、ただ…その…」

慌てて訂正をしてからしばらくして、細々とだがようやく理由を呟いた。

「すごく…かっこいいから…緊張しちゃって…。いつもの姿と違うから、ど、ドキドキするし…」

恥ずかしさに震えながらその一言を発した名前を見るメタトンの顔が、徐々に赤くなっていく。
かっこいいと言われるとは思っていなかったのか、信じられないと言いたげな表情だ。
顔色よりも少し赤みのある紅を引いている彼の唇は、何か話そうと動くもののそこから音は一切発されていない。

「ご、ごめん…嫌いじゃないんだけど…かっこよすぎてまともに見れないから…」

外側にはねているのにさらさら流れる彼の髪を指で掬って照れくさそうに笑った名前を、メタトンは思いっきり抱きしめた。

「はあ…ほんと可愛い…」

「うぅん、ぷは、め、メタトン…!」

抱きしめてきた彼の肩口から顔を出して、名前が一息つくと、彼女の柔らかな頬へと愛しそうにキスをした。

「ふふふ、君は僕を喜ばせるのが本当に上手だね。まいったよ」

まいったのはこっちだ。
鼻血が出そう。甘ったるい雰囲気に自分も顔が赤くなっていたのがわかった。

「君がそんなに可愛いことを言っちゃうから、戻りたくないよ。続きは僕の部屋でしようか、ね?ダーリン」

「え、続き?」

「うん。君の可愛いとこ、僕にたくさん見せて?」

軽々と名前を横抱きにして、メタトンは自分の部屋に入ってしまった。

「本当は外に行こうと思っていたけどね、やっぱやめ。この姿を見せるのは君だけにするよ」

嬉しそうに笑って、彼はそう言った。



数日後に、この地下に落ちてきたとある人間にその姿を見せることになるとは知らずに。

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