傘屋

□なにもかもはじめまして
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「……は〜。どこなんだろ。」

あまり知らない土地で迷って、もう夕方だ。
目的があってここに来たのだが、ずっと歩き回ってすっかりへとへとである。

じくじくと痛む踵。
こんな時にハイヒールなんて履くんじゃなかったと後悔した。
休む所を探して近くの公園にあったベンチに座って一休みすることに。

黒色のそれを脱いで踵を見ると、赤くなって皮がべろりと剥がれていた。

傷口を見てしまったら、余計に痛みが増した気がする。

「うわ…。痛いな。」

「本当だー!すげぇ痛そう!!」

「はっ……えっ?!」

隣から元気な声が聞こえてきて、思わずすっとんきょうな声が出た。

そこにいたのは、黄色のパーカーを着ている男性。
大きな目と口に一本だけあるアホ毛、履いているのは半ズボンに白靴下、そしてスリッパ。

なぜ外なのにスリッパ…そう思ったが、もしデリケートなことだと悪いからなにも言わないことにした。

「あ、あの。」

「おねーさん怪我してるよ!!
ばんそこ貼ったげるから家おいでよ!!」

「いや、悪いですよそんなの!」

「いいからいいから!!」

明るい笑顔に負けてしまいそうになる。
なんていい人なんだろう。
こんな見ず知らずの者に……。

「歩けないでしょ?
おんぶしたげるよー!!」

「で、でも。」

「はやくはやく!」

落ち着きのない背中が目の前に出された。
やっぱりいいですと断ろうとしたその時、後ろから背中をいきなり押された。
誰だかも確認できずに体が正面によろける。
ブレーキをかけられないまま、その人の背中にダイブしてしまった。

「ああっ、すみません!」

「いいのいいの!じゃあ行くよ!」

ひょいと足を持ち上げられ、気付いたときにはもうものすごい勢いで走り出していた。

ーーーーーーーーー

「ここ、ここが僕ん家〜。」

着いたのは、普通の一軒家だった。
木造の二階建て。

「待ってね〜。
今靴脱がしてあげる。」

するりと簡単に脱がされたハイヒールは、お行儀よく玄関に揃えられた。

私をおぶったまま階段をのぼり、襖を開けた先には同じ顔が四つ。

「おかえり、十四松。」

「あれ、野球もう終わったの?」

「待って、その後ろの誰なの。」

「十四松のハニーか…?」

まて、頭が追いつかない。

何?クローンなのこれ?
すごく怖いんだけどどういうことなの。

「僕の兄さん達と弟〜。僕達六つ子なんだよね!」

「む、六つ子?!」

三つ子とか双子とかは聞いたことあるけど、六つ子なんて聞いたことない。

……ん?でも、六つ子なのに一人足りない。

「あ、救急箱!
ちょっと待っててね!」

おぶっていた人は、私を窓側のソファに座らせてそのまま下へ降りていってしまった。

四人分の、八個の目がこちらを見ている。

怖い!!こんな状態で待てるわけない!!

「ねえねえ、おねーさん。
びっくりした?」

「っ?!」

にこにことした赤いパーカーを着た人が話しかけてきた。
こんなにオープンな人だとは思っていなかったから、驚きで喉から息を吸う音しか出なかった。

「あっははは!!いいね!最高!
この辺だと俺達結構有名人だぜ?
知らないってことは、おねーさんここの人じゃないでしょ。」

みごとに言い当てられて肩がはねる。
そうなんだ。ここの人達は知っているのか。そりゃあ六つ子だなんてとても珍しいし。

「てか、何しにこの家に来たわけ?」

「い、いや、その。
怪我をしてしまったところ、そこを通りかかったあの人が家で手当てするからって連れてきてくれたんですけど。」

「あー、あいつらしいね。
そういうとこは昔から変わんねーんだ
な。」

あの人が走っていってしまった方を見ながら、赤いパーカーの人がそう言った。

「ねえ、ちょっと俺らとお話しなぁい?」

口元は、綺麗な三日月のように弧を描いていた。
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