夢小説

□夏空(斎藤一)
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ミーン ミーン ミーン…

頓所の外から聞こえる蝉の声

こうして禅を組んでいるだけで額に滲む汗

京に来てから幾度めかの夏だが、盆地なら ではのこのむせ返る様な暑さにはなかなか 慣れぬものだ。

俺は日課の精神統一を終え、汗の始末をし ようと井戸へ向かう。すると……。

斎藤「…ん?……あれは…。」

井戸の前には雪村がいた。何やら、辺りを 見回しているようだが……。 俺は咄嗟に物陰に隠れ、雪村の行動を覗う 事にした。

雪村は手に持っていた桶に水を入れ始めた が、洗濯をするにしてはやたらと周りを警 戒している様に見える。

一体、何を行う気なんだ……?

…………なっ!?

俺は、思わず出そうになった声を飲み込ん だ。

雪村は袴の裾をたくし上げ、露わになった 白く細い足を水の張った桶に入れていた…… 。

ここは見なかった事にして立ち去るべきか 、…いや、いくら男装をしているとはいえ、 やはり女の生足。他の隊士に見られるのは まずい……。 そもそも、雪村の足を他の者に見られる事 自体が気に障る。 やはり声をかけるべきか……。

暫し、考え混んでいたその時。

沖田「ちーづるちゃん♪」

雪村の背後から、ひょっこりと総司が現れ た。

千鶴「きゃあっ!?沖田さん!!」

沖田「ダメだよ?いくら男装をしてるとは いえ、女の子がこんな所で足を晒してちゃ 。ただでさえここは男所帯なんだからさ。 」

千鶴「す、すみません…。あまりの暑さに我 慢出来なくて……。」

沖田「まぁ、君も江戸育ちだし、この暑さ が堪え難い気持ちも解らなくはないけど。 あんまり隙を見せてると襲われちゃうよ?… …例えば…、物陰からこっそり盗み見してる ……一君とか。」

千鶴「…え?」

予期せぬ総司の言葉に、俺は慌てて陰から 身を出した。

斎藤「総司!いい加減な事を申すな!俺は 盗み見など断じてしておらぬ!」

千鶴「さ、斎藤さん!?」

沖田「やだなぁ。冗談で言ったつもりなの に。一君がそんなにムキになるなんて、…… もしかして図星?千鶴ちゃんの綺麗な足に 見とれちゃったとか?」

斎藤「なっ!?み、見とれてなどいない!… …雪村、誤解するな。俺は汗の始末に来ただ けだ。そうしたらアンタが先にいて、ただ 声を掛けそびれた。それだけの事だ。断じ て盗み見などしていない。」

沖田「一君ってさ、慌てると饒舌になるよ ね。」

斎藤「総司、アンタは黙っててくれ。……雪 村、総司の戯れ事だ。本気にしなくていい 。」

……くっ、総司のせいで雪村にいらぬ誤解を された……。

千鶴「……えっと。………大丈夫ですよ。斎藤 さんはそんな事をするお方ではないって解 ってますから。きっと、どう声をかけよう か色々と考えていらしたんですよね?」

斎藤「………雪村。……あぁ、その通りだ。」

沖田「……ふ〜ん。随分と一君の気持ちが解 るんだね。千鶴ちゃん。」

千鶴「えっ!?…いえ、その…、何となくそ うかなぁと思っただけなので……。///」

斎藤「総司。雪村をからかうな。困惑して いるだろう。」

沖田「はいはい、一君は本当に真面目なん だから。……まぁ、今日は千鶴ちゃんの綺麗 な足も見れたし、ツイてたかな♪……ね?一 君。」

斎藤「///なっ、何故俺に振る!?」

千鶴「もうっ!沖田さん!///」

沖田「あはははは!君達って本当にからか い甲斐があるね!」

斎藤「…………………。」

千鶴「…………………。」

沖田「やだなぁ、二人とも恐い顔しないで よ。僕はもう中に戻るからさ。じゃあね♪ 」

そして、総司は飄々と頓所の中に戻ってい った。

全く、総司のあの冗談にはついていけぬ。 一体何が楽しいというのだ? いつもあんな調子で……。副長も、さぞかし 頭を抱えているであろう………。

千鶴「……あの、斎藤さん。」

斎藤「……ん?どうかしたか…?」

千鶴「井戸、お使いになりますよね?宜し ければ、手ぬぐいを持って来ましょうか? 」

斎藤「…あぁ、そうだな。……頼む。」

千鶴「はい!ちょっと待っていて下さいね !」

そう言うと雪村は何やら嬉しそうにパタパ タと走り去って行った……。

一人になると、先ほどまで忘れていた暑さ が急に襲ってくるようだ。

ふと、足元の桶に目をやると、先ほどの雪 村の姿が頭に浮かぶ………。

ほっそりとした白い足……。

本当は、俺以外の何者にも見られたくなか った。

総司が現れた時も、胸の奥で何か黒い靄が 掛かった……。

もしかして……。俺は、雪村の事を………。

いや、今の俺には色恋沙汰にうつつを抜か してしる隙など無い。

この気持ちも、きっと……、ジリジリと焼け 付ける夏空のがもたらす幻覚に違いない…… 。

しかし………。


笑顔で駆け寄って来る彼女を見ると。

いつか……、この気持ちに抑えが効かぬ日が 来ることを俺は、心の奥底で感じていた…… …。





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