薄桜鬼_長いもの

□葛藤と願望_山崎 【完結】
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新選組に入隊したのは、ひとえに副長を知り、この方に忠誠を誓うため。

直々に監察方としての任務を与えてくださり、機能的な武具一式は副長の計らいにより出入りの鍛冶屋に特注してくださった。ああ副長、一生ついていきます!! と心に誓いました。

日々、副長のために身をやつしておりましたが、それを苦痛と感じたことはただの一度もありませんでした。
及ばずながらも、副長のお役に立てると思えば喜びを感じることのほうが多い。
陰で『犬』と呼ばれようとも、それが組のため、ひいては副長のためであるのなら、何を厭うことがあるのでしょうか。

ただ……雪村君に心ひかれ、少なからず心が乱れる副長を見るのはつらく感じることがあります。
あなたの心の平静のために彼女は必要なのでしょうが、瑣末な事柄に心が乱れ、余計とまでは言いませんが危険が及ぶ可能性が上がるのは困ります。
副長の優しさと心の細やかさは誰もが身をもって知っておりますが、その優しさゆえに危険を冒すような真似をしてはいただきたくない。
大変不本意ではございますが、あの頃の自分は沖田組長のように彼女を斬ってしまえと思えたらどんなに楽かと、思う日がなかったとは言いません。

ですが、ここでお断りしておきたいのは、私は決して男色ではございませんし、副長のためなら陰間でも……などと邪なことを考えたこともございません。至って尊敬の念のみです。

申しわけない雪村君。
君の医学の知識は大変に貴重だし、その知識は組のため、引いては副長のために活用してもらいたい。それを望んでいるのは誰でもない、副長でいらっしゃるのだから。

それを察した自分は、あなたと副長が二人きりにならぬよう、必ず自分を頼ることとなるよう、隊員の医療記録を君に預けたのだから。
ああ、これを世間では邪な考えだととらえられているようですが、私はあくまで副長のお力になりたいがため、少しでもお邪魔となるものを排斥したい気持ちで起こした行動でしかございません。
ましてや雪村君に懸想しているなどと思われるのも心外です。

結果として、彼女が私以外の誰とも情報が共有できない、つまりは私以外に相談する相手ができないように、副長のお時間を乱さぬようにとの判断にすぎません。

更に言い訳めいたものになりそうですが、花街に足を向けることも任務ゆえ。
刃傷を伴った任務の後の高ぶりをもつのは際は男の性でございます。それゆえ花街に足を向けざるをえないこともございます。

かの者の誰にも特別な感情をもつことなく、ただただ欲を向ける相手であると同時に情報提供も受けるようになりました。

敵と直接かかわりのある上位のものとは接触することが難しいことを懸念いただき、別途組から費用をもっていたけるとの配慮をいただきましたが、自らの金を少々残念そうに感じながら支払いをするところで最も相手の同情をひいておりますため、せっかくのお申し出ですが辞退をさせていただきました。

通う間隔が狭まるほどに特定の相手と親密になることも。もちろん、自分のためだけではなく馴染みの女がいれば噂話も聞きやすくなる。だが、その分相手を思いやる風を見せたりしなければならない。その点については普段不得手としている部分ですので苦労しております。
こういう部分だけは原田隊長を見習うべきと考えることもございますが、そうなってしまうと行き過ぎとなることが容易に想像できます。

多少は不器用なほうが悪目立ちすることもなく、怪しまれずにことを運ぶことができたようです。


しかし刻は流れ、医務担当としては甚だ残念に思いますが、山南総長や藤堂組長をはじめとして羅刹に身を転じ、多くの隊士たちは散り、近藤組長や沖田隊長、井上隊長も鬼籍の方となられました。大変残念です。

原田隊長と永倉隊長、斉藤隊長は袂を分かちましたが、誠の志は皆様のお心にとどまれていらっしゃることでしょう。
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