薄桜鬼_短いもの

□言ってみよう!_3 山南さんの場合
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目の前の襖に手をかけたまでは何とかできましたが、その襖は山南さんの手によってびくともしませんでした。

「せっかくおいでいただきましたのに、そうすげなくされては私でも傷つきます。もう少しよろしいではないですか」
にっこりした笑顔が怖いです。泣きたい気分ですが、泣いてはさらにドツボにはまりそうな予感です。

「またまたぁ。『私でも』なんてご謙遜を」
「おやおや。そうはおっしゃられても逃げようとされていらっしゃるじゃないですか。多いのですよね。土方君も最近は必要最低限しか居てくださらないですし」
「土方さんも最近はお忙しいようですからね」
「でしょう。ですから立浪君が少しお相手してくださると嬉しいのですよ(にっこり)」

…しまった。墓穴を掘ってしまったあげく、すっかりその穴に落ちて埋められています。
不本意ですが、観念して山南さんが解放してくださるのを待つしかないようです。

「わかりました……お茶一杯分のお時間だけですよ……」
とりあえず、お茶でも淹れてこないと場が持ちそうもありません。
厨へ行こうと腰を上げたところで止められました。

「おや、立浪君。お茶ならちょうどこちらで用意がありますよ。さあ、どうぞ」

夕暮れをおもわせる色遣いの清水焼の綺麗なお湯のみの中味は『お茶』のはずなんですが、怪しい雰囲気全開です。
山南さんが『お茶』だというのだから中味はお茶のはずなんですが、どうも私に出されたモノはそのように見えない。

「えっと、山南さん?」
「はい。何でしょう」
「これは何でしょうか」
「『お茶』ですよ。良い香りでしょう?」
「香りは…そうなんですけど、なんとなく禍々しい雰囲気なんですけど?」
「そんなにお疑いなら、私のと交換されますか? こちらは少々趣味の千振が入っておりますが」

この怪しいお茶も回避したいけど、千振も嬉しくないです。しかし、いずれかのお茶に手を出さないと山南さんの視線が痛い。

「さあ、どうぞ立浪君。あ、そうそう。甘いものもありますよ。私はあまりいただきませんのでよかったら」

そういって懐紙に金平糖とおまんじゅうをのせてだしてくれました。
確かに山南さんは甘いものがそんなにお好きじゃない。しかも、ここにあるお菓子は昨日、近藤さんが買ってきたもののようです。
これは素直にいただくことにしましょう。ですが、お茶はできるだけ飲まないように注意せねば。

「いただきます」
とりあえず金平糖を一つ口に入れた。

「ええどうぞ。嬉しいですね。立浪君とは『一緒に遊びたい』と常々思っていましたからね」
さっきまでのニコニコがラスボスの笑みに変わってます!! お茶もお菓子も何かの罠にちがいありません!!

貧血のようにクラクラした頭と、ゆがんだ視界の末が分かりません。
のちほど、原田さんの腕のなかで目覚めるまで(おおっ!!)何も覚えてません。土方さんが山南さんに説教してたから、何かをしようとしていたことは事実のようです。

山南さんへの『言ってみよう! 一緒に遊ぼ』は大失敗です。そりゃあ手の内が丸っとばれてんだからうまくいくわけがないですよね。
いったい何をしてくれそうになってたんだろう……。



マッドドクターはどこまで行ってもマッドドクターでした。
勝算もなしにむやみと手を出してはいけない相手だと再認識。……反省。
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