krkの籠球 2
□好きすぎるんだ。どうしたらいいと思う?【赤司】
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「玲央ちゃん先輩。私はどうしたらいいのでしょうか」
学年は違うけど同じ委員会に属しているため、会合で顔を合わせた実渕玲央先輩に藁にもすがる気持ちで相談した。
この綺麗な人は征十郎と同じバスケ部のレギュラーで、無冠の五将と呼ばれるほどの人物。
試合中も美しいフォームと余裕に満ちた表情でプレイしてるけど、ときどき綺麗すぎてゾッとするほど怖いと感じるときも。
普段は口調だからかもしれないけど、どう見ても『綺麗なお姉さん』なんだけどね。
……まあ、ユニフォーム姿だと長身だし、筋肉質だから『素晴らしく美人』な男性プレイヤーだってわかるけど。
「るうちゃん、それは贅沢な悩みよ。まあ、ワタシからしたら『あの』征ちゃんが目に入れても痛くないほどに可愛がってるんですもの。羨ましい以外の何物でもないわ」
時折『きゃっ♪』と発する音も含め、私よりもずっと乙女なのよね。
「征ちゃんは自分が納得できないことについては絶対に自分を曲げないわ。だからそのまま甘やかされていなさい」
「でも、私なんかが征十郎に甘やかされるなんて信じられないんだもの」
玲央ちゃん先輩みたいにキレイなわけでも女子力が高いわけでもない。
学問も中の中。スポーツも並。お金持ちの子でもないし、権力者の娘でもない。
「ホントに何で征十郎が彼女として横に置いて甘やかされてるのかがわかんないの」
思わず机に突っ伏してしまった。
「あのね、るうちゃん」
「はい。なんでしょう」
「正直に答えてね。征ちゃんのこと嫌いなの? 征ちゃんに甘やかされるのはイヤ?」
突っ伏した頭を優しくなでられて、ほんの少し強めに語尾をあげた質問が聞こえる。
「好き」
「じゃあどうしてそんなに逃げるのかしら?」
「どうしてそんなにしつこいほど追いかけるのかわかんない。だから玩具にされてるだけなのかと思うから…なんだと思う」
「征ちゃんはそんなことをするほどヒマじゃないわよ」
征十郎が忙しいことなんて十二分すぎるほど解ってる。
入学したての一年生が酔狂で主将になるほど洛山高校の男子バスケ部は甘くない。
部を率いて、日々のハードな練習をこなして、おまけに監督やコーチの立場で物事を考えて、他校との試合でも負け知らずの記録を更新している。
それ以外にも生徒会役員として就任して今年の後期からは異例ながらも一年生から会長に就任することがほぼ確実だ。
「だけどどうしてこんなに平々凡々な私に入学初日に『一目ぼれ』だなんて言ったのかがわかんないんですよ。そんなの普通は冗談だとしか思えないでしょ」
言えば言うほど自分がちっぽけで惨めな存在だって思えてきた。
やばい、眼頭が痛い。机につっぷしたまま顔を上げることができなくなってきた。
「るうちゃんはとっても可愛いわよ。平々凡々だなんてとんでもない。自分を過小評価しすぎ」
優しくなでてくれていた手で後頭部にデコピンされた。
地味に痛い。
「でも……何で征十郎が私のことを好いてくれるかがわかんなくて、(グスッ)どうしたらいいのかわかんないんだもん(グスッ)……」
「だからって一人でウジウジしてても仕方ないでしょ。どうやったら解決できると思う?」
腕と机のあいだからそっとハンカチが差し入れられ、頭をまた優しくなでてくれる。
ハンカチからは玲央ちゃん先輩らしい香りがする。こんな状態のときになんだけど、女子力の高さにさらに脱帽。
「ワタシは相談ならいくらでも受けてあげられるわ。他ならぬるうちゃんが征ちゃんのことで悩んでいるんですもの。だけどね、相談を受けて背中を押してあげるお手伝いはできるけど、道を示してあげることはできないのよ」
「うん……」
「解らないことは聞けばいいじゃない。征ちゃんはるうちゃんとちゃんと向き合ってくれるわよ」
「うん、……そうだよね」
「当たり前だよ。僕がるうと向き合わないわけないだろう」
……
………………………!?
私の頭をなでている手の感覚が変わったのと同時に耳に届いた声が……玲央ちゃん先輩じゃない!!
「あら征ちゃん。お迎え?」
「まあね。僕の方はもう終わったから」
「ワタシが一緒じゃ心配なのかしら?」
「玲央だから同じ委員になるようにしたんだろ。だけど僕が来たほうが僕自身が安心するからね」
ちょっとまってください? 玲央ちゃん先輩とは偶然同じ委員になったのではなくてわざとナンデスカ?
「あら。ワタシがるうちゃんと一緒にいたかったのよ。征ちゃんのお願いのためだけじゃないわ」
「ああそうだったね。玲央もるうを気に入ってくれているからだったね」
うふふ。と優雅に笑っている玲央ちゃん先輩は想像できるんですが、とんでもない状況に戸惑っています。
すみませんが、既に涙は止まっているけど顔がとんでもなく熱をもっているようで顔を上げられません!
「さ、るうそろそろ行こうか。仕事とはいえ、君に会えない放課後ほどつまらないものはなかったよ」
征十郎の声がさっきよりも耳に近いです。
もっと顔があげられなくなってるんだけど///
「先に行ってアップと基本を終わらせておけばいいかしら」
「ああ。そのあとはレギュラーは二軍のフットワーク強化のBメニューのサポート。あとは自主練でいい」
「わかったわ。『もし』征ちゃんがこなくてもそれでOKってことね」
「よろしく頼むよ」
ううっ、玲央ちゃん先輩カムバーック!
征十郎の指示を確認して部活に行ってしまわないでぇ。私を置いていかないでぇ! と、叫んでしまいそうだわ。
「さてるう。いつまでも机につっぷしていないで顔を見せてくれないか? 君に会えなくてとても寂しかった僕を癒してはくれないのかい?」
さっきの指示を出していた声とは全然違う甘いだけの声。
それに引き寄せられるように少しだけそーっと顔を上げると、そこにはとても優しい目をした征十郎がいた。
「やっと顔が見えたね」
「ふぇぇぇ……。せいじゅうろうぉ」
視線から意図してくれたのか、私が両手を出す前にふわりと抱きしめてくれた。
「どうしたんだい? 今日は甘えたさんなんだね。僕は嬉しいけど」
「……ちがうもん」
ちょっとむくれてそっぽを向いた。
「おや。それじゃあ僕を喜ばせてくれているととろう。ありがとうるう」
おでこにチュウされてそのまま征十郎の胸に抱き込まれた。
「ふふ。やっぱりるうがいると落ち着くよ。ずっとこうしていたいな」
「ぶ、部活に行かないと! 征十郎は主将なんだから!」
「ああ問題ないよ。とりあえず玲央に指示をしてあるからね。それに言っていただろ『もし僕が行かなくても』って。玲央に任せておけば大丈夫さ。僕はるうとの時間を大切にしたいんだよ」
そう言ってまた私を抱きしめてとてもご満悦な笑い声を上げた。
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お相手に甘々でデレな赤司様を書いてみたかったんです。
このデレ甘な理由解明は次作【初恋】で!
……頑張れるかな。