薄桜鬼_長いもの
□葛藤と願望_山崎 【完結】
1ページ/7ページ
明治五年 十月
誰に見せることがあるわけでもありませんが、思うところあって筆をとっております。
(沖田隊長に見つかったら末代まで恥をかかされることと重々承知の上ですが……)
私の名は山崎烝。
黒装束しか着てないことと、後ろ髪が長いだけの地味男君と世間で呼ばれているとのこと。
心外だ。
一部にレアまたはコア(自分で言っていて寂しい気持ちになるが……)なファンがいて、その地味な控えめさと忠義に厚いところが良い! とのお声もいただいているというのに。
第一期アニメ版のラストには体を張った名演技のある見せ場(しかも相手役が副長とは光栄の限り!!)も作っていただき、破格の扱いをしていただいた。
息も絶え絶えに副長に懇願する姿に、多くの女子の心をつかみ、雪村君とのラストシーンでは目前で死する者の特権ともいうべき『名を連呼』していただくというシーンもあった。
(残念ながら劇場版では私の見せ場とも言うべきシーンをはじめ、かなりカットされてしまっているのだが……)
いや違う。別にTV版の活躍に熱弁をふるっている場合ではない。
影から新選組を支える任務を負っている自分に、ゲームの攻略キャラの皆さんのような注目度や喝采(少しは欲しい……)はないものの、『地味だけ君』だけではないことを証明したかっただけなのだ。
縁の下の力持ちとして、監察方および医療担当として隊のために動いておりました。
時にはOVAにも出演させていただいて、脇役とはいえ雪村君を『お嬢様』と呼び、テレビ版にはない『長時間!(数秒だが…)』画面にでずっぱりという栄誉もいただいた。
映像はあまり出てこないが、だんだら模様の羽織を着ることはなくとも複数の職業に変装して情報収集し、京の町の治安維持のために尽くしている。時には女装することもあるので、私物よりも、自分の仕事用の荷のほうが圧倒的に量があることを揶揄されることもしばしば。
雪村君のように目を奪われるような変装はできないが、記憶に残らない奴としての女装は得意としております。
……これも普段影の薄い生活をしているため自然と身に着いているのだろうか。良し悪しでしょう。
『真面目を画に描いたような』といわれて育っているため、勉学にもほどほどいそしんでまいりました。生家が生業としてきた鍼灸医および漢方医学については『門前の小僧なんとやら』ではありませんが、一通り身につけてまいりました。
あまりに『真面目者』であったため、皆様が心配しているようですが、男としての通るべき道も通ってまりました。
ですが快楽におぼれることはなく、賭け事などの遊興にも関心なくきたため、いささか感情のない人形のようだと評されることもありました。