薄桜鬼_長いもの

□イヌと姫_不知火 【完結】
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「血気盛んで流行物好きな風来坊」これが俺につけられた通り名ってか? ちょっと足りねぇんじゃねぇか?
『色男』ってのがよ。

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郷にいると年寄どもが五月蠅くて頭が痛くなる。
『匡様。不知火の当主となられた貴方様の祝言はいつになさるおつもりか?』
実は一つの頭を別々の体で共有しているんじゃねぇかってぐらい、誰もが異口同音に言葉を紡ぎやがる。

道理としては風間が西の頭領なんだから、主家が嫁をもらってないのに分家が嫁取りができるわけねぇが、風間の奴は人間どもを相手に遊ぶほうが楽しいらしく、あっちの結末を待ってたんじゃ埒が明かないことに気付いた爺どもは『祝い事ならば数を多くしても、先に行っても吉』なんて訳のわからない理屈をつけて俺に嫁取りをつめよってくる。
俺だって高杉はいなくなっちまったが、新しく原田って遊び相手ができた。名ばかりの嫁を貰ってひきこもるよりも、こっちと遊ぶほうが楽しいっての。

五月蠅い爺どもの手腕なのか、次々と近隣の郷から娘が『目通り』にやってくる。
少ない女鬼の中だが、ある程度の家柄の娘を次々と連れてこれる爺の手腕にはあきれるばかりだ。
だが、あんまり次々来られても正直、顔も覚えられねぇ。興味がわかねぇ女はいらねぇ。欲しいのは俺の心をつかんで離さねぇような極上だ。

しかし、正式な『目通り』以外の線では、厨の娘が入れ替わったり(飯の味付けが頻繁に変わるんだ。わざわざ飯時に挨拶に現れることもあるしな)、目につくところに見慣れない若めの女中がいることが多くなった。それだけじゃねぇ。この間は寝間の襖を開けたら女が三つ指をついて待ってた。
据え膳食わねば何とやら、と耳打ちする奴は数知れないけどよ、あいにくと自分の女が自分で選ぶタチなんで速効で逃げた。

爺どもも跡継ぎ作りにだんだんなりふり構わないようになってきたようだ。


そんなこんなの攻防(?)の末、今日も俺の居場所は郷外れの杉の木の上だ。

森の中なら好きなものを的にして短銃を思いっきり打ち散らすこともできる。
弾丸は長州藩経由で入手しているが、あちらさんも近々海戦を控えているようで、そう大量の弾丸を一度に発注できねえ。長州経由以外だと高価だからな。あんまり無駄玉打つと懐具合に直結するんで乱れ撃ちはできない。

郷に必要なことにも使うので、熊を仕留めることもあるが、命中度を上げたほうが後々役に立ちそうだから、木の実をねらうことが多い。大きな的も、殺生するのも必要最低限で十分だ。

木の上で愛銃の手入れをしていると、西の方から嫌な雲がわき出てきた。二刻ほどでこちらの天気が傾く匂いがする。
鳥たちも天気の空気の流れを読んで移動を開始するようだ。俺も移動しねぇと。山小屋あたりに避難しておくか。
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