krkの籠球

□いいにおいがする 【紫原】
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俺のクラスにちっちゃい転校生がやってきた。気を抜いてると踏み潰しそうな小型犬のように小さい。
室ちんは『標準より小柄かもしれないけど、誤って踏んでしまうサイズじゃないだろ』だって。
名前は立浪るうだって黒板に大きく書かれてた。

ふーん。


その子は俺の隣の席になった。
やっぱりどうやっても踏めそう。

「ねえ」
「何ですか? えっと……」

俺が声かけたのにびっくりしたの? 隣になったけど名前が分からないらしく、大急ぎで座席表と確認する。


「えっと、ムラサキ、ハラ君でいいのかな」
「ちがぇーし。ムラサキバラ。名前ぐらい読めねーのー?」
「ごめんなさい」

あ、シュンとなった。室ちん来たら何か言われるかな。ま、いいけど。

「あのさー、さっきから甘い匂いすんだけど、なんかお菓子あるのー?」
「!?」

今度はびっくりしたらしい。
伸びて固まって、カリカリカリって音がするぜんまい仕掛けのブリキ人形?みたいな動きでこっちを見た。

「ナンデそんなコトを?」
「甘い匂いがするって、言ってんじゃん。馬鹿なの?」

あ、今度は慌てて服の匂いとかをかいでる。

「匂います!?」
「うん。甘い」

即答。匂うからそう言ってんのに。


「別にお菓子は持ってないんですけど、家が菓子製造業なので…。お菓子好きなんですか?」
「うん。神はまいう棒だけど、クッキーとかの甘いヤツもいいよねー」
「訳アリの端っことかで良ければ持ってきますか?」

ナニソレ。こいついいヤツじゃん。

「もらうー」

********************

「どうしたんだいアツシ。今日は上機嫌だね」

部活中に室ちんが声をかけてきた。
そうかな。そんなに嬉しそう?

「まいう棒の新作……という訳ではなさそうだし」
「何でー?」
「それだったら食べてるし見せるだろ?」
「そっかー」

名探偵室ちんはよく見てるかも。でも本当の理由はわかるかな。

「だとしたら……誰かに何か甘いものをもらう約束でもした?」
「あたりー、室ちん鋭すぎてなんか怖いんですけどー」

「まあ、アツシがご機嫌なのはお菓子がらみが九割だしね」

だって。室ちん失礼だよ、笑うなよ。
だけど、そのあとの俺の言葉に室ちんがピタリを笑うのをやめた。

「おうちがお菓子を作る仕事なんだって。だから甘い匂いがするんだよ。……あれ?でも変だな。お菓子の甘い匂いだけじゃなくて花みたいな甘い匂いのほうが強いんだよ」

「アツシ、それは他の子。たとえば製菓の調理実習後の女子からするお菓子の匂いじゃなくて?」
「うん。お菓子の匂いよりも花みたいに甘い匂いのほうが強いかなー」


「へーっ。アツシがねぇ」

室ちんがそう言って訳知りそうな顔で笑った。

ちょっとそれどういう意味さ。
むーっ。なんかムカつくしー。ヒネリつぶしちゃうよ!

マサコちんが竹刀を構えてこっち睨んでるから手出さない(出せない)けど、ちゃんと説明してよね!



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【そのころの立浪るう】

校舎裏で必死に消臭中。

「ファ〇リーズしてんのに、なんで匂うのよー!!」

彼以外の誰からも言われていないことにまだ気づけていないのでした。



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恋愛なんてお腹がふくれなこと以外にはまだまだ興味はないのだけれど、大事な相手は超自然に匂いでかぎ分ける!? 天使は野生に近いのかな。
 

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