krkの籠球

□強引、これぞナンパの極意
1ページ/1ページ

「なー自分、今日ヒマ?」

廊下で背後から急に声をかけられた。

振り返ると、そこには校内の有名人。男バスの今吉さんが立っている。
正直、こちらは彼を知っている(だって密に思っている人だもん)けど、自分で言うのもなんだけど、特に取り柄があるわけでもない自分を知っているとは思えない。
誰か他の人と間違えて声をかけたんだろうか。きょろきょろと周囲を見渡すが、あいにく誰もいなかった。

「無視せんといて。こっちが恥ずかしいなるやん」
「私を呼び止められたんですか?」
「せや。いくらワイの眼が糸みたいでもちゃんと見えとるから間違えたりせぇへんよ、立浪るうチャン」

フルネームで言われて驚いた。

「驚いた顔もかわええね」
「なんで名前、しかもフルネームでご存じなんですか?」

「ん? ああ、そりゃかわええ娘のことは何でも知りたいやろ。頑張って調べたんや。入学してから日本伝統部に所属して、気づけば茶道部、弓道部、乗馬部にスカウトされて掛け持ち入部。すぐに試合や展示会の常連となんやな。自分、有名人なんやから桃井に調べさせるほどでもなかったがな」
「そんな。大した実績もないのに人手不足だからの一言で駆り出されているだけですよ」

「謙遜しなさんなや。まあ、ワシが声かけたんは別に部活は関係あらへんがな」
「部活とは無関係?」

「せや。ナンパや」
「ナンパぁ!?」

すみません大きな声が出てしまいました。
恥ずかしながらこれまでの人生でそんなこと起きたことがないのでどうしたら良いでしょうか。
っていうか、そもそもナンパって学校でするものなんですか?と混乱している私の状況は置いとかれてます。

「で、さっきの返事はどないや?」
「な、何のですか?」
「もう忘れとんのかい。『なー自分、今日ヒマ?』や」

背の高い先輩が少しかがむようにして私と視線を合わせて囁いた。

「で、返事は? まあ、どんな返事しようとも関係あらへんけどな」

勝ち誇ったように鼻で笑われた。
糸の眼とか言ってたけど、ほんの少し開いた瞼の下にきらきらとした視線が見えた。

「何で関係ないんです? とんでもなく大事な用事があるかもしれないじゃないですか」
「ウソつこうったてアカンで。急ぎの用だったらとうの昔にガッコにおらへんて」

にやりと笑いながら言われた。
洞察力と推理力では叶いそうにありません。

「おっしゃる通りです。特に用はないので本屋でもよって帰ろうかと……」
「さよか。せやったら、ほな行こか」

ぐいっと腕をつかまれて連れていかれそうに。
柔らかい視線と関西弁に軽く騙されていたらしく、つかまれた手は強引にも私を連れて行こうとする。

「ちょっ、どこ行くんですか。それに荷物〜!」

慌てて抵抗。そうよ、荷物がないと帰るに帰れません!

「せやな。まあ荷物は必要かもしれんけど、『どこ行く』なんて、そないな野暮は言わんと」

『ワシに任しとけ』と、にこにこしながらも肩に回した手が『絶対に離してくれなさそう』です。
ナンパって、こんな強引なものなんですか!?

-------------------------------------

おまわりさーん! 誘拐ですよ、このままじゃ犯罪ですー。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ