薄桜鬼_短いもの

□一言で言い表せません_4 星に願いを 望みはこの手に
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※女主は屯所の半住み込み女中です。千鶴ちゃんの話し相手兼女中という立ち位置。




「今日は月がきれいだな」
「あんなに冴え冴えとしている月を見ていると昼間の空気が信じられませんね」

昼のうだるような暑さが幻だったと思うほど今夜は月も冴え、涼やかな風が抜ける。
冷やし茶ではなく、少し冷めたお茶を縁側ですするにはちょうど良い夜だ。

「七夕のときはバタバタしちまってたから、七夕飾りも何も手伝えなくて悪かったな。せっかくお前がここに来て一年だってのによ」

ホント、すまねぇと糖蜜色の瞳で上目づかい気味に覗き込まれるとドキドキする。
頬が赤くなりそうなのを誤魔化すように、飲むふりをして湯呑で顔を隠してみました。

「なあるう」

名を呼ばれてビクッと背筋が伸びました。

「な、何でしょうか」
「平助たちと楽しそうに飾ってた七夕飾りの短冊には何を書いたんだ?」

七夕飾りの短冊は全隊士に一枚ずつ配られて、おのおのが自分の願いごとを書くように言われていました。
隊士ではないけれど、確かに私と千鶴ちゃんも一枚づつ短冊をいただきました。
その短冊は大きな笹につるされて、七夕の日からに屯所の屋根上でさらさらと涼しげな音色を響かせていました。

翌日には平助君や永倉さんが大笹を桂川へ担いでくださって、一緒に笹流しをしました。
あいにく原田さんはお仕事でご一緒することはありませんでしたけど、短冊は大笹につるしていらしたはずです。

「だ、だめですよ原田さん。教えられません」

私はぷいっと横を向いてしまいました。
自分のお願いごとなんて口にしたら、なんか図々しい感じがして恥ずかしいじゃないですか。

「ぷっ。そんなに拒否しなくてもいいじゃねぇか」

くすくすと笑われてしまいました。
もう、顔に熱が集まってくるのが分かります。

「俺のは聞きたくねぇか?」
「!!」

さっきより近くに声がすると思って向き直ると、いつの間にか襖に持たれてくつろいでいた姿勢から、私のすぐ隣にいたのでびっくりしてドキっとしました。
そのまま軽く腕を引かれ、ふわりと原田さんの胸元に引き寄せられました。私の体を受け止めても、原田さんの体はよろめいたりすることはなく、しっかりと抱きかかえられました。

こんなことを言うのは恥ずかしいですが、抱きしめられるのは初めてではありません。ですが、何度目であっても胸の動機がせわしなくなってしまいます。
それに、こんな胸の動悸を原田さんに知られるのも恥ずかしい……。

「るう、俺自身の願いは叶うまではいつだって変っちゃいねぇよ。新選組だって大事だが、一番は惚れた女と所帯をもって、家族をつくることだ」
「原田さんならより取り見取りですもの。すぐに叶いますよ」

答える声が沈んではいなかったでしょうか。
その願いが叶うときは、私も笑ってお祝い……できると思いますよ。その時が来たら物陰で少しは泣いてもいいですよね。
今、戯れに抱きしめて優しい言葉をかけてくださっている幸せは私には過ぎたものですしね。
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