薄桜鬼_短いもの

□一言で言い表せません_1 埃と猫ときみと
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【埃と猫ときみと】


「ぶっはぁぁ。さすがに手が入っていないと埃がたまりますね」
私は口元の埃避けと頭巾代わりの手拭いを外しながら、お庭で大きく深呼吸をした。

本日は蔵ではなく、屯所内に点在する物置部屋のお掃除をしています。
特に何を置いているわけではないのですが、もともとこちらの屯所に住んでらした方々のお忘れ物のような物が入っていまして、それを片付けないとすっきり、キレイにしまうことできないので、手の空いている人全員で籤をひいたところ、なぜか私と斎藤さんが当たり(ハズレ?)をひいてしまい、お片付け係に任命されてしまったのです。

「そうだな。……しかし一体誰がこのようなものを物置にしまっていたのか」

そう斎藤さんが言っているのは猫の置物。高さが一尺あるでしょうか。かなり大きな埃だらけの灰色猫の置物と、その横に置かれていた箱の中からは全て一寸ほどの小さな子猫。しかも12匹も!

「こんなにかわいいのに。何で仕舞い込まれていたのでしょう」

物置からは他にもいろいろな物がでてきたけど……柄の長さが中途半端な棒、誰のものかもわからない柳行李、欠けた大皿とその破片(継ぐつもりだったのでしょうか)、干からびた○○の……キャーッ!! などなど。それらを(干からびた○○は即ごみ穴へ!)庭に敷いたゴザに並べていく。
その中でも猫たちは際立っていました。

「大事にしすぎて仕舞ってしまったんでしょうか」
「そうかもしれぬ」

とりあえず物置の中を掃除して、中のものについては廃棄処分をしていく。あとで屑物買取を呼ぼう。

「斎藤さん。物置に戻せるものって……このネコちゃんたちぐらいですよね」
「ああそうだな。ほかのものはとても片付けておく価値のあるものではないだろう」
「なんか可哀想です」

大きな猫を拭ってみると、灰色だと思っていたのは単純に埃の蓄積だったようで、青磁に似た色合いの白ネコが出てきた。

「こんなに可愛らしくてキレイなのに、また人目につかない場所に閉じ込められてしまうんですよ。お部屋に飾ってあげても良いでしょうか」
「全てか?」
「はい。猫は富も福も運んでくるじゃないですか。それにこんなに子猫もいっぱいですし……」

『子孫繁栄っていうことですね』と口にしたところ斎藤さんの様子がおかしい? 斎藤さんの声が多少上ずっていらっしゃる気がします。

振り返ると……そこには耳を真っ赤に染めた斎藤さんが。表情だけは平静を装ってこちらに向いてはいるけど、視線は明後日の方向で…。

「斎藤さん? どうなさいましたか?」
「な、何故そのようなことを聞く」

これはかなり照れていらっしゃるときの反応です。

「だって…きゃっ」

近づこうと一歩進んだところで腕をとられ、ぐいっと引き寄せられ、胸に抱きしめてささやかれた。

「部屋にこのようなものを置いて祈願するのか? 子宝であれば俺がいつでも協力してやる」

『この子猫の数ほどがいいか?』と聞かれ、今度は私が熟れすぎたザクロのようになっていると思います。

恋仲になってから男女の関係になったことは何度もありますが、この無口な方から日中にこんなことを囁かれるとは……。顔から火が出そうです。いえ、きっと今なら出せると思います。

真っ赤になって固まってしまった私に、さらに斎藤さんが

「アンタの人生に俺という男を置いてはくれぬか? 俺はるう以外をそばに置くつもりはないのだが」

あわあわするばかりの私にクスッと笑いかけ、耳元で『俺も埃まみれだからな』と囁き、『残念だが続きは夜になってからだ』と耳をカプリとかじって舐めあげられました。

卒倒しそうです。

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ムッツリとは君のためにある言葉。

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