薄桜鬼_短いもの

□どうなのでしょう
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【茶屋の娘さんの独り言】


島田様は新選組二番隊にご所属の隊士さんです。背丈があり、殿方らしい力強いお顔でいらっしゃるので黙っていらっしゃるととても威厳があります。
ですが、この方は大変に甘いものがお好きでいらして、私の働く茶屋に寄られるときは餡団子とみたらしを三本ずつとお大福のお持ち帰りをされるのが常です。
お茶は二杯。お席を立たれる際には居住まいをきちんと直されてお発ちになられます。


私がお年頃になったときに親戚の茶屋で働くことになりました。最初に接客をしたお客様が島田様でした。
お姐さんに『いかついお顔だけど怖くないからね』と教えてくれました。ですが相手は新選組の隊士です。粗相があったら切り捨てられてしまうと本気で思っていました。しかし、緊張するとろくなことが起こりませんね。
……ええ、やってしまいました。お運びしたお茶を島田様のお着物にこぼしてしまうという大失態を犯しました。

もう切り捨てられてしまうかもしれないと思うと足が震え、その場にへたり込んでしまいました。
謝罪の言葉よりも歯の根が合わず、がたがたと震えてしまいました。

そんな私にクスッと、まるで兄様が幼い妹のかわいらしい失態をみつけてしまったかのように微笑まれたのを覚えています。

「大丈夫ですよ、娘さん」
そういって伸べてくださったお手はやさしく、先日寺社でみかけた観音様のような慈悲深さを感じました。

そのあとも何度かお店に足をお運びいただき親しくお話をさせていただくようになりました。
お休みの日に町中で偶然お会いして、鴨川沿いをご一緒させていただいたこともあります。

見た目は無骨な方ですが、心映えの美しい、それはそれは素晴らしい方です。

この方と恋仲になれたら……そうは思うのですが、とてもまじめな方で絵草子のような「恋」というにはなかなか進展いたしません。
家人も「もう年頃なのだから、好いた方がいるのなら押し頃じゃないかい?」などともいわれます。

私のほうからそのようなことを申し上げるのは恥ずかしく、ましてや実際の経験が何もないので言えるわけがありません。

この方はどう思っていらっしゃるのでしょうか。

まさか奥様がいらっしゃるのでしょうか……。
そう考える私ははしたなく馬鹿な田舎娘なのでしょうか。

本当はどうなのでしょう。
気になります。

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