薄桜鬼_短いもの

□想定してみよう!_1 黒じゃない!?
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屯所の井戸端で洗濯をしていたとき、視界の端を黒いものがよぎってまた踵をかえす。
この屯所で全身烏羽のような色を着ているのは一君だけ。

「一君?」

過った方へ視線を向けつつ、声をかける。
おや、意外と近くにいらっしゃいましたね。

「何か御用ですか?」
「すまん。洗濯をしようと思ったのだが。先客がいたので戻ろうと思っていた」

確かに少量ではあるけど桶には洗濯ものとおぼわしき布の塊が。

「先客とか関係ないですよ。一緒に洗っちゃいましょうか?」

別に何の気もなくて汚れものを受け取ろうと手を出した。

「い、いや構わぬ。これは俺が自分で洗う故」

なんだか歯切れが悪いわね。
出した手をそのまま引っ込める気分になれなくて。

「いいじゃないですか。遠慮するほどの仲じゃないでしょ。家族も同然なんですから」

だからほらよこしてよ、と言わんばかりに手をズイッと出した。
しかし一君は余計に桶を私から遠ざける。

ほほう。そういう態度をとりますか。
そういう風にされると余計に洗いたいですね。なんせ天の邪鬼なんで。なんで……

「あっ!! 一君、あんなところに何かが!!!!」

明後日の方向を指さしながら大声で注意を引く。

「な、なんだ!?」

ついつい斉藤さんそっちに向いちゃったよ。くすっ、居合の達人もチョロイチョロイ。
その隙に手元の桶を取り上げる。
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