薄桜鬼_短いもの

□言ってみよう!_7 不知火さんの場合
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沖田さんの句集持ちだしについては土方さんのほうが一枚上手で、屯所を出たと同時ぐらいに山崎君に阻まれ、背後からは暗黒大王が仁王立ちで捕獲に来ました。
もちろん句集はその直前に沖田さんの懐にねじ込み、屯所へ引きずりこまれる彼をにこやかにお見送りさせていただきました。
土方さんのはるか背後では一君が『すまぬ』という動作でこっち見てた。別に一君悪くないんだけど律儀な人は偉いねぇ。

沖田さんは、どんなに目を凝らしてもネコが首根っこつかまれて手足をぶらーんとたらした姿にしか見えず、そのままお仕置き部屋とでもいうべき副長室へと連行されていきました。
とりあえず、主犯として沖田さんだけが連れてかれました。私は強引なまきぞえってことで無罪放免。

しかたない。あとで金平糖でも差しいれておこうじゃないの。(←とりあえず機嫌とっておかないと後が怖いし)
ということで、町にお買いもの行きます。


必要なものを買い、そしてぷらぷらと闊歩してたら一息つきたくなってきましたので、お茶屋さんで甘い物でも……なんて考えて、平助君が『すっげーうめぇ』って言ってたお店へ行ってみよう。

到着したはいいけれど、報告通りに『すげーうめぇ』店は『すっげー混んでる』店のようで、ちょっとすぐには座れそうもないです。そんなに時間もかけられませんから、残念ですが今日のところは諦めるべきなんでしょう。
とりあえず持ちかえり分だけはお願いしよう。そう思って暖簾をくぐったら見たことのある顔がいました。

「不知火さん!」
「ん? るうじゃねぇか。こんなトコで会うなんて奇遇だな」

いいのか、そんな姿でうろうろして。ちょっと前の戦国時代だったら前田慶次も真っ青な歌舞伎者以外の何者でもない風情の不知火匡ちゃんが団子をほうばってました。
すでに三皿あるのですが、そんなに甘党でしたっけ?

「どしたぁ、今日はあいつらは一緒じゃねぇのかよ」

まあ座れと、自分の隣に座るよう勧めてくれたので、ほかの待っている人達にはちょっと悪い気もしたけど同席させてもらうことにした。

「今日は一人ですよ。出がけに沖田さんは土方さんにつかまっちゃったので」
「んだよそれ。こっちに向かってくるときはすっげー怖いのに、普段はどっか抜けてんじゃね?」
「まあそうですね。戦ってる時と普段は別人かもしれないぐらいですよ」

あのひょうひょうとした態度はいつも変わらないけど二重人格っぽいかも。不知火さんも『ちげぇねぇ』ってお腹抱えて笑った。

「そんなこんなで、たぶん今はお説教中なんじゃないかな。すっごい大きなカミナリつきの。ちょっと可哀想だから私が立ち寄ったついでに甘い物でもお土産にしてあげようと思って」
「んで俺様に会ったわけだな」
「そういうことですね」

そんな話をしているうちにお団子とお茶が来たので、お土産分を注文しておく。

「うんみゃーーーい!」

団子を一口食べた私の口から発された言葉は呂律がヘンだ。でもね、でもね。すんごくモチモチしてるんだけどとろけるような舌触り。こんなお団子食べたことないよ。最高!

「美味ぇだろ。今のトコ、ここの団子が京で一番だと思うぜ」
「激しく納得します」

あっという間に一皿ぺろり。どうしよう。もう一皿行っちゃおうかな……あ、でも懐で先立つものが厳しい。うーん……

「どした? まだ食い足りねぇのかよ」
「まるで夢のような触感と味だったんで、ゆったりと味わう前に消えちゃいました。でもこれ以上食べちゃいけないような気がするし」

でも諦めきれない感が漂ってるのを不知火さんが察してくれた。

「食えるときに食っておけよ。あの風間だってここの団子は認めてんだ。普段は甘いモンなんて食わねぇのに一皿いってたぜ」

そう言って「ここに団子もう二皿な!」と大きな声で注文してくれた。

「えっ、ちーちゃんも来てたの?」
「『ちーちゃん』!? あいつをそう呼べるのお前ぐらいだな」

しまった。ついいつもの癖で呼んじゃったよ。本人の耳に入ったら激烈不機嫌な顔されそう。あ、でもあの紅い瞳で蔑まれるような視線を受けるのもイイかも……なんて発想はない。どっちらかと言えば見下すほう希望。懇願させたい。

「さっきまでいたんだけどよ、外せない用があるとかで天霧と出てったぜ。ちょうどお前と入れ替わりぐらいに」
「えー。会いたかったなぁ。また来るかな、天霧さん」

『風間じゃなくて天霧のほうかよ』ってまたも大笑い。いいじゃん大好きなんだから。包容力ありそうな大人の漢って感じがたまらないわぁ。
笑いの絶えない楽しいお茶席。一緒に追加で運ばれてきたお団子をほうばる。「おごってやるから食え。美味ぇもんは食うことで感謝が表せるんだ」と称賛しながらぺろりと平らげる。
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