文豪迷犬 連載

□お供できました
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暦は3月。春である。

本日の私は中也さんのお供でポートマフィア本部に来ています。
まあ、お仕事で呼び出された中也さんのお供と言う名の荷物持ち(主に帽子もち?)レベルですけど。

「##NAME1##、俺はちょっとボスのところに行ってくる。このフロア内なら自由に歩き回って構わないから好きにしてろ」

相変わらず俺様モードの彼氏サマなんですが、結構過保護なので「姐さんのトコに連れてそうになったら連絡しろ」と、1つしか番号の入っていない携帯を握らされました。
私を連れて行って取り戻すのが最も困難なのが尾崎様ですので、毎度のことながら周囲の黒服には注意しておくように必ず言い含めてます。

「わかりました。いつも通りおとなしくしておきます」

と返事して、ぎゅっと抱きしめてもらってからお見送り。
テーブルにアフタヌーンティーの用意をするように言いつけていったから、時間的にみて2時間ぐらいで戻ってくるんだろうな。

ここは拠点内で中也さんに割り振られた一角なので、重厚なつくりの応接室と居室がついてる。
幹部の一人一人が好きなように内装をいじっているのか、中也さんの雰囲気に合ってる。地味じゃないダーク系でまとまったクラシックでお洒落な部屋。

他の幹部の方のお部屋はどうなんだろ。
主のいないお部屋に立ち入ることはできない(立ち入ったら命の保証はできないよね)ので、とりあえず廊下とか共有(あるかは知らない)の部分を散策してこよう。

まずは廊下へでて。さっき左側から来たからもう少し先へ行ってみようと、右側へと足を三歩すすめた。

「もう、リンタロウの馬鹿! もう知らない!」

かなり響く声。このトーンからするとまだ少女。それに『リンタロウ』って……
あー、エリス様だわ。ボスの名前をファーストネームで呼ぶのは彼女だけですし(他の人がそんなこと言ったらにっこり笑顔で見送られてこの世とサヨウナラよね)。

ちょっと気になったのでそのまま声のする方へ。

「ごめんねエリスちゃん、ちょっとお仕事に追われてて誰も行かれなかったんだよ」
「そんなの言い訳よ。私、ずっと前から言ってあったでしょ!」

ここだ、と思われる部屋は重厚な扉がちょうど30センチほど開いていて、中の声が丸聞こえ。そしてちょっと中をのぞくと中の出来事がよく見えた。

相変わらずボスがエリス様の従者のごとく平謝りではあるけど、その傍らにはこれまたどうして、目を見張るほどのプレゼントの山。
会話からすると、何かの約束を反故にしてご立腹なエリス様に、大量のプレゼントを渡してご機嫌とりをしているところ、といったところでしょうか。

「まったくリンタロウはダメ! 誰か他の人に頼むからいいわ」
「待っておくれよエリスちゃ〜ん。エリスちゃんと一緒に外出させられるような幹部はすぐに戻れるのがいないのだよ。あと30分だけ待ってもらえれば…」
「待てない!」
「そんなぁ〜。エリスちゃぁぁぁん」

ボスのエリスちゃん溺愛レベルは知っています。
ですが、何か見てはいけないものを見た気がします。…というより私は何も見ませんでしたっ!

だから何もないココからはそーーーーっと離れてしまいましょう。
と、後ろに体重をかけたその瞬間、重い扉が左右にバーン!と開きました。

当然、扉の裏にいた私の姿は丸見えです。

「これはこれは。##NAME1##君じゃないか。そうだね。今日はキミがここに来ていたんだったよ」

にっこり、と微笑んだその笑顔と声はいつものボス。
その「にっこり」には何か異能が含まれているのですか? とお伺いしたくなるほど手足が動かなくて、背筋には冷や汗が流れています。
ああ、このままこの世とサヨウナラすることになってしまうのでしょうか。

「リンタロウ、私この子がいいわ」
「そうだねぇ。##NAME1##君なら適任だよ。さすがはエリスちゃん」

えっと、私の知らないところで何か進んでいるようなんですが、完全に蛇ににらまれたカエル。まばたき一つするのも危ういです。

「##NAME1##君」
「は、はいっ」

若干上ずりました。

「リラックスしてくれたまえ。さあ、こちらへどうぞ」

いつの間にかボスが私の目の前にいて、先程までのエリス様とのやり取りは幻だったと思わされるような優雅さで部屋に招き入れられ、そのまま座り心地の良いソファにストンと座らされる。

「あ、の」
「心配など一切不要だよ。##NAME1##君にはお遣いをしてきてもらいたいんだよ」
「お遣い?」
「そう。この屋敷の裏手にある洋菓子店に注文してある限定3個のひな祭りケーキを受けってきてほしい」
「受け取る、だけでしょうか」
「そうだよ。ただ、そろそろ中也君が戻ってくると思うから、それまでに戻ってきてほしいんだ」

ならすぐに行ってこないと間に合わない。
ボスに直接言われてしまっては断る理由も権利もないし。

「承りました。それでは受取に行ってまいります」
「頼んだよ。予約の名前は森でいれてあるからね」

承りました、とお辞儀をして出口まで案内してくれるという黒服の後をついていく。

「リンタタロー」
「なにかなエリスちゃぁぁん」

「中也、大丈夫なの?」
「おや、エリスちゃんが気にするなんて羨ましいな。ずいぶん彼女が気に入ったんだね」

「##NAME1##みたいにちょっとお人よしで素直な子は嫌いじゃないわ」
「エリスちゃんならそう言うとおもっていたよ。大丈夫、まあ少々なら問題ないさ」

そんな風に見送られていたなんてまったく気づきませんでした。

まんまと中也さんとのお約束『このフロアから出ない』を守れず、後からオシオキされるよう、ボスに遊ばれていたことになっていたことに。





本部に連れてこられたのも。扉が少し開いていたのも、すべて最初から計算されていましたよ。
エリスちゃんのために入れたケーキの予約は本物で、これを今日受け取るのも本当。
そして、このためだけにわざわざ##NAME1##を同行して本部に来るように中也を呼び出したというわけ。

ちょっとエリスちゃんが##NAME1##を見たいと言ったらから呼び出した。→ついでにちょっと意地悪してみたくなった森さんが、ついで中也の嫉妬心に火をつけてみた。そうしたらこうなった、と。


さすがボス。
エリスちゃんのお願いはなんでも聞いちゃうし、「ついで」遊びがとても上手。



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扉がバーンと開いたのもボスの異能です。(にっこり、は主観です)


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