krkの籠球 3
□猫
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「しーんたろー」
紫原のごとく間延びした声で人を呼ぶ。
これまで幾度となく注意をしてきたが一向に治らない。
忌々しいので振り返らない。
「ちょっとぉ。しーんたろーさぁん。スルーしないでよぉ」
ポテポテと擬音がつきそうな勢いで近づいてくる。走る気はどこにあるのだよ! と思う歩調だ。
こいつの名は立浪るう。いつもユ○クロのような男女を問わない服装で化粧っ気はないが、アイドル級だと学校に来た宮地さんが称していた。
(みゆみゆにはかなわねーけどなっ、とも言っていたのだよ)
俺からすれば、立浪は生物学的には女だが、そう見えたことは一度たりとて無いのだよ。
「俺の名は『真太郎』だと何度いえば理解するのだよ。そもそも、なぜ下の名で呼ばれているのかに理解が及ばん」
「えーっと『みどりぃ』より『しーんたろ〜』がかわいいから?」
さらに頭の足りなそうな語尾になっているのだよ!!
こんな女が医学部主席だとは信じがたいのだが、開講以来の優等生だと学会や研究室からのアピール量を考えみると納得せざるを得ない。
事実、俺がどんなに人事を尽くしてもコイツの上に立てたことがないのだよ…。
「いったい何なのだ……!!」
あまりのしつこさに折れて振り返ったが、目に飛び込んできた光景に絶句した。