krkの籠球 3
□髪、くくりましょう【実渕】
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「ねえ。あなたの髪すごく綺麗ね」
気だるい月曜日の六限。よほどの物好きか単位が危なくなければ履修しない授業。
一応は授業中なんだけど。
普通にいきなり背後から声をかけられて正直驚いた。
バスケをやっていた時に身についた習慣で、つねに周囲の気配には敏感になっているはずなのに気づかないなんて緊張感薄いわよ。と、自分にダメ出ししながら振りかえる。
…知らない子だわ。
少なくても話をしたことはないと思うの。
だって、悪いけどこんなに女子力低い子だったら絶対に覚えてるもの。
「わお。髪だけじゃなくて本体も美人!」
目を丸くした姿は昭和のコメディみたいね。今どきでもこういう子がいることにアタシは驚いたわ。
「誉めてくれてありがとう。でも今は講義中よ。お話は後にしてもらってもいいかしら」
真意を表には出さず、毒気づかない程度で一言。
「だよね。ごめん」
そう言いながらアタシの真横に荷物を置く。
あら? なんて思ったのと同時に、本人もひらりと席を飛び越えてお隣へ。
この身軽さは小太郎と良い勝負ね。
あの子、ちゃんとやってるかしら、なんて思い出す。
「あー驚かないんだ」
ちょっと残念そう。
「こういう行動を間近でみるのは馴れてるから」
「ふーん。美人さんは意外なオトモダチがいるんだね」
「そうかもね」
そのあとは最初の言葉通り、講義が終わるまで黙っていた。