krkの籠球 2

□もうすぐクリスマス 【海常・笠松】
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「センパイ、もうすぐクリスマスッスね♪」

語尾を軽やかに上げ、ジングルベルを鼻歌で歌いながら我が海常高校所属の駄犬……失礼。エース黄瀬が絡んできた。

「ウインターカップを目前にしてずいぶんと余裕だな。馬鹿なこと言ってるとシバくぞ」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいって! 俺だってウインターカップを目標に頑張ってるっスよ! センパイだって知ってるじゃないですか」

思いっきり不機嫌そうな視線でにらみつけると、耳と尻尾が垂れ下がって情けないほどに『残念なイケメン』がそこにいる。
効果音を入れるとすれば『きゅ〜〜ん↓↓』だろうか。


確かにここ二か月ほどの間、黄瀬はモデルの仕事は一切断ってバスケに集中している。まあ『クリスマスよりもウインターカップを重視している』と言ってもいいだろう。

「確かにそうかもな。仕事に行って部活に来ないことはないしな」

と、黄瀬を肯定してやると『でしょ♪ 褒めて、褒めて!!』と尻尾を高速回転しているかのように嬉しさを前面に押し出してきた。
しまった。ちょっとホメすぎたのか?

「そうなんっスよ。まあ、もともと彼女がいたりする訳ではないんで、クリスマスにデートなんかする訳じゃないっスけど、街にイルミネーションが灯ったり、いろんなところにサンタが描かれたり、果ては購買のパンの包装にクリスマス柄が入ったら季節的な話題として思い浮かぶじゃないっスか」

購買のパンだけじゃない。たしか自販機外装もクリスマスとなっていた。世間はクリスマスらしいということを、何となく感じてはいたが『世間がクリスマス』だろうとなかろうと、俺たちに何が関係あるというんだ?

「!! センパイ!? その顔はまさか『それが俺に何の関係がある?』とでも言いたそうなんっスけど、まさか本気で思ってませんよね?」

一体どういう顔だってんだ? 俺の顔は昔っからこんな感じだし、『俺とクリスマス』なんて小学校卒業したころから関連は見出せねぇぞ?
思わず考え込んで首をひねってしまう。黄瀬はため息を吐きながら右手で自分の頭を抱え込んだ。


ムカつくがやはり人気モデルだな。
ため息をついているだけの姿なのに格好が良いというのはズルいだろう。

「センパイ。僭越ながら俺からのアドバイスみたいなものですが……バスケはもちろん大切なんスけど、応援してくれる人はもっと大切なんで、クリスマスぐらいはちゃんと自分が気にかけてるって伝えてあげてくださいっス」

それだけ言うと『失礼するっス!』と一礼するが早いか、森山たちとのパス練に混ざりに行ってしまった。

『俺を応援してくれる人』だと?
俺ら海常バスケ部は一丸となって勝利を得るために突き進んでいる。

それを支えてくれている人と言えば……『武内監督』『海常高校学食のみなさん』『近所のコンビニ』『部員の家族』あたりか?

黄瀬の言っていた『自分が気にかけてる』とは? まさか『いつもありがとうございます!』と言って回るわけではないだろうし、逆にそんなことをしたら怪しいんじゃないか?

それにクリスマスに関連している、ということは全くをもって理解できない。感謝の意を唱えるのであればどの季節だろうと関係ないわけだし……。

思わず頭を抱えてしまう。
一体何をどうしろというんだ?
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