krkの籠球 2

□たくさん食べて 【ある飲食店の証言】
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ここは都内の某所。約40席ある店内に客数は約半分強。
稼働率としてはそこそこだとは思うが、店主はため息交じりでこう言った。

「最近不景気なのか、学生さんたちでもあんまりがっつり食べてくれるような子がお店にこないのよ」

というある飲食店の店主のつぶやきを聞き漏らせずに突撃インタビューをしてまいりました。

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詳しく聞けば、最近は客単価がかなり低迷をしていて、このままの経営状態では値上げをして強制的に客単価を上げるしかないとのこと。
この状態は数年前から思いついては却下するという、ある種の最終経営方針である。

「お値段を上げても今までと同じように食べていただけるならいいわよ。でもね、そうとは限らないじゃない」

ごもっともです。

「ウチの店はそもそも学生街にあるわけじゃないし、体育系校か寮が近くにあるわけでもないから開店当初から客単価は高くはなかったのよね」

体育会系学校の近くにあったら大人気ですよね。まあ、一般のお客さんは汗臭くて入ってくるのに勇気がいる店になっていたと思いますが。たぶん私も躊躇する一人かも。

「ははは。それはそうだったかもしれないわね。そういうことを考えるとそういう立地じゃなくて良かったかもしれないわ。ただね、近くに大きな体育館があるおかげで大きな大会とかがあるときにはとても混むのよ。まあ、毎年会場が変わる大会もあるから毎年恒例の、っていうのはあんまりないけど」

それは選手が来るのでしょうか、それとも観戦された方?

「時間帯によって変わるわね。早い時間は観戦者、遅めの時間は試合明けの選手とかが来るわよ。最寄り駅までの間に寄ろうってことだから選手って言っても学生さんなんでしょうね」

学生街ではなくてもメインのお客さんは学生さんってことなんですね。たしかに簡単には値上げは厳しいですね。

「そうなのよ。それに、『今年もまた来たよ』なんて言われちゃうと高いお値段をいただけないでしょ」

逆に『ありがとー』ってサービスしなくちゃいけないかも。

「でしょ。でも最大6人で1テーブルなんだけどチーム全員が来ることってあまりないから3人とか2人とかで1テーブルになっちゃうことも多くてね」

こちらのお店だと知り合いじゃないと相席はキツイですねー。

「満席だったりするとたまにOKしてくれることもあるけど、それじゃ楽しめないじゃない。やっぱり楽しく食べてほしいのよ」

食事は美味しくいただいてこそ栄養になるそうですから。私はさっきとても楽しくいただきましたからものすごい栄養になってる気がしますけど。

「そうなの? 嬉しいこと言ってくれるわね。じゃあちょっとサービスしちゃおうかな」

ははは。じゃあその分いっぱい話していただこうかな。

「いいわよー、何でも聞いてちょうだい。ああ、この店の売上とか銀行口座とかは話さないわよ(笑)」

いえ、それは聞かないんで大丈夫です。
去年と今年では何か客層に変化とかありましたか?

「客層自体は体育館の帰りのお客さんだってことで変化はないわね。……あ、でもあれはすごかったわ」

何を思い出されました?

「高校バスケのインターハイが今年はあったんだけど、その何日目だったかしら。天気が悪かったからバイトの子が来られなあって連絡があって、だけどお客さんも少ないかなと思ってた日だったわ。久しぶりの超満員になった日があったのよ」

天気が悪かったのに?

「後から考えると、逆に天気が悪かったから雨宿りも兼ねてたのかもしれないけど、若い男の子でお店が満員になっちゃって♪ おばさんすっごい楽しかったのよ」

一人で接客されてたんですか? 

「まあ店の形態上、用意したものを自分たちでやってもらうわけじゃない。運んだりするのも自分たちでやってもらったから特に問題なかったわね。一人だけ女の子がいて、彼女がテキパキと指示してたから混乱もなかったし」

女子一人だけ?

「そうなの。だけど入店からお会計まで完全に仕切ってたけど雑事は全部男の子にやらせてたわ」

それは……どんだけ女王様なんでしょうかね……すごいかも。

「みんな背が高かったから試合の後だったのかしらね。先に来てた別の制服を着てた男の子たちとも知り合いみたいで、その後から来たまた違う制服の二人とも友達だったみたいで皆で相席してくれたのよ。おかげで満卓満員だったわ」

じゃあワイワイと大騒ぎだったんじゃないですか?

「基本そうだったんだけど、中央の一卓だけ何か妙な雰囲気だったのよ」
妙な雰囲気?

「そうなの。そこは4人席なんだけど、……あら? そこだけ3人で座ってたかしら……でも変ね。満卓満席だったはずなんだけど……」

一応4人で話進めちゃってもいいですか?

「そうね。それで、そこはもともと食べてた子がいるテーブルだったからそんなに注文が入らないと思ってたのよ。だけど実際はどの卓よりも注文が多いし、ものすごい勢いで食べていく子がいたのよね」

食べてた子がいるのに最大注文ですか? 実質注文するのがたぶん3人なのに?

「そうなの。その子がメニューの端から端まで注文して、リスみたいに頬を膨らましながら黙々と焼いて食べてる横で、難しい顔した子と目の前の子が冷や汗をかきながら対応しててね。鉄板の『ジュー』って音ばっかりが響いちゃって」

それはなかなかの静寂っぷりじゃないですか。

「最終的には確か難しい顔をしてた子が同じ学校の愛想のいい子になだめられていたし、冷や汗かいてた子も一緒にいた黒髪の子にたしなめられて気がするわ。そうそう、その冷や汗の子ってばモデルさんらしくて、おばさんサインしてもらったのよ。一緒に写真もとったしほっぺにチューまでしてもらったのよ。ほらこの子なの」

ぶっwwwww これってキセリョですよー。

「あなたも知ってる子なの? にっこり笑った顔がすっごい素敵だったのよ。その日に来られなかったバイトの子にすごい羨ましがられたのよ」

その状況、ぜひ映像で残しておきたかったです。私もリアルタイムに見たかったですよ。

「それにしてもどの子もハンサム揃いでね。ホント、楽しかったわ」

確かにその日のメンバーはこのヒトたちですよね。(参加メンバーの写真を並べる)

「そうそう! この子たちよ。特にこの子の食べっぷりがすごくて。満腹中枢がマヒしちゃってるのかと思ったぐらいだったわ。一体どこに入っちゃうのかしらね」

ええ、その疑問はもっともです。どう考えても彼の胃袋は宇宙に直結しているのだと思う他ないほどに食べますから。

「あらお知り合い?」

ハイ、一方的にではありますけど。

「じゃあ『機会があったらまたみんなで来てね』って伝えておいてちょうだい。並玉を大玉ぐらいにはサービスするわ。たくさん食べてほしいし」

機会があれば伝えておきます。きっとその大食い男子はものすごーく喜ぶと思います。

「彼のおかげでしょうけど、あの日の売上だけで前月の一か月分の売上を上回ったのよ」

……そうでしたか。その時の女子が後日引きつってましたのでとんでもないことをしたとは思っていましたが、そこまでとは。

「彼らのお財布に大打撃を与えるようなことになってしまったのは申し訳なかったけど、あれだけ食べてくれる子に会えたのは嬉しかったわ。そうそう。来年の春の商店街イベントで『大食い大会』やるってさっき商店街長さんが言ってたっけ。商品か賞金も出るみたいだからぜひ参加して」

その件も伝えておきます。あと詳しい日程が決まりましたらこの番号へご連絡していただけますでしょうか。そちらの『男子バスケ部』または『カントク』へご連絡いただければ大きな試合がない限り二つ返事で現れるかと。

「ぜひその節にはまたキセリョ君も来てね♪」


以上、誠凛の皆さんがインターハイ後に立ち寄って黄瀬、笠松、緑間、高尾と遭遇したお好み焼き屋さん店主(元気マダム:永遠の50代。黄瀬君のチューでファンになった)のインタビューをお送りしました。
それではまた今度ー。

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