krkの籠球 2
□主将は悩む 【笠松】
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この春、神奈川県にある海常高校に鳴り物入りで一人の有名人が入学することになった。
その名は黄瀬涼太。
全中三連覇を成し遂げたキセキの世代の一人である。
バスケ部からしたら全国の並み居る強豪校を抑えてやっと獲得した面子である。
なのでバスケ部員が今後のチームの行く末を祝う気持ちはわかる。
だが、今回大騒ぎをしている主母体はバスケ部以外。いわゆる部外者である。
黄瀬という男はキセキのメンバーであるだけでなく、自身も新鋭モデルとして雑誌等に登場するいわゆるイケメンである。
もともと横浜というおしゃれな街にあるため、あか抜けた生徒が集う場所ではあるが、『自称』ではない本物のモデルが入学するということで一部の生徒は色めきだっていた。
「ったく、ちょっと目立つヤツが一人増えるだけだってのに、こんなに女子がやってくるとは」
ため息まじりに言葉をこぼすのは主将の笠松幸男。
名PGとして広くその名を知られている男である。178cmとバスケ選手としてはやや小柄だが、その身体能力ですべてをカバーして余りあるものがある。
主将としての人望も厚く、海常の大黒柱ともいえる人物である。(ときどきオカンが入ったりもするが……)
まだ入学式前だが口コミによる噂は千里も万里も走るらしく、春休み中の部活時に『マネやってあげるよ』と女生徒が毎日押しかけてきているのだ。
「笠松。それよりもさっき来た2年A組の超可愛い女子。あの娘のためなら俺は頑張れる」
「お前が頑張ってもマネの仕事ができないようなヤツやいらないだろ」
「おれ(え)もそう思う。もり(い)やま先輩の好みで女子マネはえら(あ)べないですよ」
顔はイケメンなのだが、女子ダイスキーで不遜な発言をする『残念男子』森山の発言に、笠松と『ら』行の発音ができない男;早川が反論する。
「ウチは昨年はマネがいなかったがメンバー内で仕事を配分して問題はなかった。ゆえに不要」
そう笠松は断言した。
強豪校であるにもかかわらず、ここ数年は女子マネが存在しない男子バスケ部。
その理由としては『巨大で汗臭い男子に女の子扱いどころか家政婦のごとく扱われ、巨大な洗濯物と雑用を当然のように押し付けられた女子マネの呪い』というのが有力(?)ではあるが、別の説では『多汗っぽい監督の横にいるのが嫌』というものもある。
どちらも説得力があるが、信憑性についてはいまいちである。
正直、マネ経験のない女子が来ても先輩女子マネが不存在なので、教える手間を考えれば負担が増えるばかりであるし、ましてやキセキの新入り目当てとなればマネ仕事をするとは思えない。
主将判断により『むしろ邪魔』として、女子マネの採用は控えてきた。
まあ、女子マネについてはある意味『いわくつき』だったので、あえてそこに手を挙げるモノ好きがいなかったのも大きな利用の一つではある。
「だけど笠松。これだけ可愛い娘がジンクスにも負けずに押し寄せてきているんだ。彼女たちが健気に運命に立ち向かおうという態度を支えてこそ男じゃないのか?」
自称フェミニスト(他者からみると『自分好み限定フェミニスト』)であるが故、女子の心意気を無下にしないほうが良いと森山が力説してくる。
「そんな運命はいらねぇよ。仕事のできねぇ奴ほど邪魔な存在はないだろ。ってか、サボってんじゃねぇよ森山。シバくぞ」
「そうだな」
とりあえず森山を黙らせることができた笠松だが、実は頑なに女子マネを置かない利用がもう一つあるのだ。
それは……彼が大変女性が苦手だということ。
別に女性恐怖症なわけでもないし、女性が嫌いで男性が好きということは全くない。(←ここは力拳を握りしめて力説する!)
……単にほんの少し、世間一般にいる同世代の男子よりも女性と接するのに慣れていないだけである。