krkの籠球 2
□初恋 【赤司】
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「ねえ征十郎。聞きたいことがあるんだけどいい?」
「もちろん。何が知りたいんだい?」
征十郎の瞳が私を愛おしそうに見つめている。
そんな瞳で見られたら、何か聞いて不機嫌にでもなられたらどうしようっても思っちゃうよ。
「えっと……あの、ね。ど、どうして私のことなんかを好きなの、かなって」
聞きたかったこと。何で私を好きなの?ってこと。
好きでいてくれるのはすごくうれしい。だけど征十郎みたいな人が私を好きだってことは逆にすごく不安なことでもある。
こんなすごい人が私を好きだなんて世の中の何かが間違っている気がするもの。
征十郎が返事をしない。
ちょっとした無言空間が広がった。
大丈夫かな。不機嫌にさせちゃったかな。
征十郎みたいな人が好きだって言ってくれてるんだから甘受しておけばいいのに馬鹿な女だと呆れられてるのかな。
……さっきまでの愛おしいと思われるような眼差しはもう向けてもらえないのか……な。
ネガティブな思考がどんどん押し寄せてくる。
だんだんと自分で自分の感情を抑えておけなくなってきた。
あ、また目頭が熱くなって…………涙が視界をゆがませそうになる瞬間、また征十郎の胸に引き込まれた。
「るう、僕は君が好きだよ。きっとこの世の中の誰よりも君を愛してる。それは決して嘘でもまやかしでもないんだ」
でもその理由が私にはわからないの。その理由は教えてくれないの?
「聞いてくれる?」
胸元から顔をあげられない私にそのまま征十郎は言葉をつづけた。
「確かに『入学式で一目ぼれをした』というのは厳密に言うと違うけど、僕が君を好きなことは変わらないし、『一目ぼれ』だったことは間違いじゃないんだよ」
じゃあなんで?
「僕は物心ついた時から『赤司財閥の跡取り』という立場で、誰もが僕をそのように扱ってきた。僕も自分の意志でそうなるための努力をしてきた。だから自分の利益につながらないものは誰であろうと切り捨ててきた」
それはわかる。人当りは良いのに不必要な人に対しての態度は凛として完全な拒絶をすることがあるもの。
「もう10年以上前だけど、母の墓参りに行ったときに僕は迷子になった」
征十郎のお母さんはずっと前に亡くなったって言ってたっけ。
「ちょっと好奇心で周囲を歩いていたら帰り道がわからなくなってしまったんだ。メイドについてこないよう言いつけていたのが裏目に出たというわけさ」
ちょっとだけ笑ってしまう。完璧な征十郎にもそんなエピソードがあるなんてね。