薄桜鬼_現代 主は小説家

□ご近所さん、よろしくお願いします 編集さん編
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「こんにちはー」

家から電車を乗り継いでたどりついた(?)のは、お世話になっている薄桜出版さん。見上げるほどに立派な30階建てのビルは創立時に建てた自社ビルだそうです。昨今のラノベ人気のためなのか、社長さんなのか会長さんのいずれかがとんでもないお金持ちなのかはわかりませんが、業績絶好調な会社です。

エントランスのお姉さんに名前と編集部に原稿を届けに来たことを告げると、「こちらのソファで少々お待ちいただけますか?」と待合コーナーに案内された。
ここは喫茶担当の人も常駐しているので好みの飲み物をいただける(もちろん無料。しかも最高級品がずらり!)。高級ホテルのラウンジみたいでいつもながらドキドキする。

今日はファースト・フラッシュのプレミアムダージリン(採算ラインで一杯5000円ぐらいもらわないといけないぐらいの超高級茶葉らしいです)が入っているので、絶対に飲んでいってくださいと勧められたものをいただいてます。相変わらずこの無料コーナーで出す意味がわからないチョイス。ただ原稿を届けに来ただけの私に出してもいいものなのかな、と疑問には思ってますよ。うん。

優雅なティータイムをしていると、エレベータから知り合いの姿が。
私の参加させていただいている雑誌『Sweety』の天霧編集長さんです。お話したことはあまりないけど、いつお見かけしてもナイスダンディ。
ついうっとりしてしまったから瞬間的に間が空いちゃって、慌てて立ち上がろうとしたら、気づいた編集長のほうからが足早に近づいてきてくれました。

「お久しぶりです。立浪先生」

編集長はとても大柄だし、分類すると『ゴツイ』系の方なので一瞬怖い人だと構えてしまいますが、いつも低姿勢で大変丁寧な口調でお話してくださるのでちっとも怖くないです。むしろ安定の安心感です。

癒し系とは小動物系の小柄なものだけのものではないということを、この方の存在を知って認識しました。

この方が声を荒げるようなことはあるのでしょうかと、千鶴ちゃんに聞いたら『まだ私は聞いたこと無いです』って言ってたっけ。

「すみません、全然ご挨拶にもうかがわなくて。新年パーティー以来でしょうか」
「お話をするのはそうでしょうか。ですが、毎月原稿もいただいておりますし、雪村君からお話も伺っていますからご健勝でいらっしゃるのは存じていますよ。そうそう。お引越しをなさったそうですね。いかがですか? 新しい環境は」

短編の作家でしかない私の動向まで知っているとは。さすが気配りの鬼。侮れません。
しかも、さりげなく『お飲物が冷めましたね。新しいものをいただきましょうか。私もご相伴にあずからせていただけますか?』なんて発言ですんなり座らせてくれる紳士的な態度が素敵。

何も言わないけど、お姉さんがさっきのと同じ紅茶を煎れてきてくれた。そしてなぜかお茶請けにアフタヌーンティーのタワー。

目を真ん丸にしてる私に『よろしければ』と勧めてくれたのでミニケーキをいただく。
知らない人がみたら、完全に優雅なアフタヌーンティーを楽しむティールームだと思う。

「いつうかがっても一流のティールームみたいですよね」

思わず言ってしまう。

「困ったことですが、社長の道楽の一つなのです。申し訳ないのですがお付き合いいただけますか」
「そんな、楽しませていただいてます。いつも紅茶が美味しいですが、今日のはまた超高級なお紅茶様でびっくりしました」

「今日のは社長が取り寄せた特選と聞いています」

ややため息交じりで教えてくれた。えっ!? それって下々の者が手を出しちゃいけない逸品なのでは?

「社長直々!? どうしよ。いただいちゃいました」

しかもお替りに加えてアフタヌーンティーまで。

「いえ、みなさんに楽しんでいただくためにお出ししているのですから」

にっこりとほほ笑んで、「お嫌いでなければ道楽に付き合ってやってください」の発言。あれ? 社長の行動を道楽扱いしちゃってるけど……ま、いいか。
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