krkの籠球 2

□不在のわけ 【チーム陽泉】
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「Hello?」


福井が電話をかけると数回の呼び出し音の後、氷室が応答した。
やはり帰国子女。腹が立つほど良い発音である。

「もしもーし、氷室か?」
「あ、福井サン。お疲れ様です。今日はいい天気ですね」

電話の向こうから聞こえる返事はとてものんきなものだった。

「今どこだ? 今日は自主練だが練習があるってわかってるんだろうな」

氷室の返事にちょっとイラッときた福井は語尾を強めて言う。
だがそれに対してまったく怯むことない返事が返ってきた。

「Oh、Really? 今日は監督に用事を言いつけられていまして。練習があるなんて聞いてませんでした。すみません」
「監督からの言いつけか。練習には来れないのか?」

監督からの用を言いつけられているのであれば監督の了承を得ているということだ。
この場に居なくても致し方ない、ということだろう。

「うーん、そうですね。終了まであと二時間ぐらいかかるかと思います。もしかしたらもう少し長引くかもしれないので難しいですね」
「そうか。じゃあ氷室は仕方ないな。紫原はどうした」
「あ、アツシもここにいます。替わりましょうか?」
「替われ」
「はい。アツシ、福井サンだよ……「福ちん? どうしたの〜?」」

すぐ横にいたらしく、紫原に電話が替わった。

「紫原、お前も監督の用で出てるのか?」
「そーだよー。昨日、室ちんと監督に呼ばれて言われたんだぁ」
「そうか。今回はわかったが、今度からはちゃんと上級生に連絡してから休めよ」
「わかったー。でも何でみんなは今日来ないのー? これから楽しいのに」

いつものゆる〜い調子のまま、電話応対する紫原。
福井はいつもの状態だな、と一瞬聞き流してしまったが、ん?監督に言われた用事のはずなのに『楽しいのに』とはどういうことだ?? と引っかかるものを感じた。

「じゃ〜ね〜」
「ちょっと待て紫原!」
「え〜なにぃ? 福ちんの話面倒くさそうだから室ちんに代わる〜。はい、室ちん」
「てっめ、先輩舐めてんな!!」

いつも通りの対応ではあるが、自由人でもある紫色の子供巨人は保護者である氷室に面倒を丸投げした。

「何でしょうか福井サン」

おそらくはいつもの『爽やかなイケメンスマイル』で対応しているのだろう。福井のやや怒気を含んだ声などどこ吹く風である。

「聞くが、お前らど・こ・にいるんだ?」

強調するように一言ずつ区切って話す。

「東京です。アオヤマってご存知ですか?」
「はぁぁあ? 青山だぁ?」

まるで『近くのコンビニです』ぐらいの返事だった。
昨日の夕方までは確実に秋田にいた。……一緒に練習をしていたのでそこは間違いない。
それがなぜ、今日は東京にいるんだ? アイツが兄弟分の家に行くことが多々あるが、あくまでそれは試合で上京したり休暇のときだ。間違っても『監督の用事』ではない。

「ああすみません。そろそろCeremonyなので切りますね」
「え? ……お、おい! 氷室? 氷室!?」

福井が頭に大きな疑問符を100個ぐらい浮かべて茫然としていたら、氷室に切られてしまった。
耳に響くのは『プープープー』という不通音。
リダイアルしても留守番電話の音声が流れるのみ。

「何やってんだ、あいつら」

旧友でもある秀徳の宮地がよく言うが、『あいつ等轢く』という感情が芽生えた瞬間でもあった。
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