krkの籠球 2

□鏡開き 【誠凛 一年集合】
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本日は1月11日。
1月最初の連休の中日だが運動部の面々は例外なく部活に汗を流すために登校する。

「オハヨー。今朝も寒いなぁ」
「朝さ、こたつに制服の下だけいれておいて家出る直前にはいてきたらチョー暖かくてさー」
「なになに? それいいアイデアだねー。僕も明日やろうかな」

ちゃんと固有名詞があるというのに『モブ三人衆』とセット呼びされやすい誠凛高校1年の降旗、河原、福田が登校してきた。
三人は一年ということもあり、部活準備のため早目の登校となっている。

「おはよっす」
「おはようございます」

その後から妙に大きな赤毛と、……ときどき本人の意図とは関係なく視界から消えてしまう色素の薄い二人組が、前を歩く三人に声を掛ける。

「あっ、火神に黒子。おはよう。お正月も終わってるのにこの寒さはないよねー」
「おはようございます、降旗くん。でも一年で一番寒いのは二月ごろですから仕方ないですよ」

なんて談笑している。
この大きくて少々人相の悪い火神も一年なので先輩よりも先に登校する。


「え? 正月は今日までだろ?」

と、横から『日本古来の行事にもっとも遠いだろう』と思われる帰国子女・火神が口をはさむ。

キョトンとした降旗をそのままに、黒子が口を開いた。

「火神くんの口からそんな【日本的な】言葉を聞く日が来るとは思ってもみませんでした」

「って、どういう意味だよ、黒子!」
「そのままです」
「えっ、お正月って7日の七草がゆでおしまいじゃないの?」

「ちげぇよ」「違いますよ」

「ひぃいっ!!」

降旗は、黒子につかみかかってしまいそうな勢いの火神と、それに対して一歩も引かなさそうな黒子の勢いに圧されて傍観していたが、つい思ったことをポロリと口にしたことで二人が一斉に視線を向けられて瞬時に小動物化してしまった。

その姿は音に驚いたためケージの中を一目散に右往左往してぶつかってしまうハムスターのようだ。

「あ、ワリぃ」
「降旗くん、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫だよ。ごめん、知らなくて変なこと言っちゃって」

「大丈夫ですよ。全部火神くんが悪いんですから」
「黒子ぉ!」
「五月蠅いです、火神くん」

動きは小さく口調はおとなしいが、自分より20センチ以上も大きな火神を口だけで静止させることができる同級生は黒子だけだと降旗は思っていた。
ただ、間違ってもさっきみたいにうかつに口にしないように細心の注意だけは口元に払っていた。

「いいですか降旗くん。お正月の鏡餅はご存知ですよね」
「うん。あの大きなお飾りだよね」
「そうです。あれを割ってお汁粉やお雑煮にしていただきませんか?」
「えっと、僕のうちはあんまりお餅を消費しないから、鏡餅も飾りもので……」

だから鏡餅を食べたことはないって言うつもりだろうが、そんな濁した言葉を待ってくれるほど火神は悠長じゃない。

「!!! じゃあフリは餅を食わねぇのか!? そんなの日本人としてダメだぞ!」

火神の脳内で降旗の発言を咀嚼して理解する間などを与えることなく思ったままを口にした。

「一般的な日本人である降旗くんを完全規格外日本人の火神くんがとやかく言うのはやめてほしいです」

ビシッと指を指していう。
『黒子、人を指さしちゃいけないんだぞ』なんてことを口走りそうになっているのか、手で口を押えて耐えているのが見て取れる。

「いいですか、降旗君。鏡餅は『鏡』すなわち神具の一つであるものに見立てたお餅なんです。お正月中に年神様などに宿っていただいたものを家人で分け、食べることでそのご利益をいただくというのが習わしだそうです」

黒子が降旗に諭すように説明をした。

「へーっ。でも何で1月11日なの?」
「吉日だったのでしょうね。何せ、三代将軍家光の忌日が20日だったため、彼の統治下から11日に移行したそうです。ここから先は僕も良くわかりません」
「黒子って物知りだね」

目をキラキラさせながら黒子の話を聞いていた納得した、と言わんばかりに大きく息をはいた。

「もう少し詳細を希望される場合は図書室に行くか日向先輩にうかがってください」
「いやいや。先輩に確認するような話じゃないよぉ。でもサンキュ!」

笑いながら河原らの方へ走って行った。
おそらくは二人に自慢するのだろう。フレッシュ一年生はかわいらしい。


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「そんなに面倒な話だったのか」
「ウィキや他の情報サイトではそのように説明されていましたが」
「俺が言われてたのは『正月の餅はたんと食え。鏡餅は早く食べるとおせちが入らないから正月のうちは食えない。少し胃が落ち着いた頃の11日に食う。ここで最後の餅、鏡餅を食うからここまでが正月だ』ってアレックスが……」
「火神くんらしいです、と言いたいところですが、なぜ外人に日本の習慣を教えられているんですか」

大きくため息をつく。

「習慣として合ってれば問題ないだろ」
「詳細を知った経緯が間違っている部分を反省してください!」

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<ミニゲームが終了したころ>


「さて、今日は鏡開きだったから、特別にお汁粉をつくってきたわ! 練習明けの甘いものよ。全員分用意してきたわよ〜!!」


「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「全力で遠慮しときます」」」」」」」」」」」」」」」」






だって年頭から死にたくないです!!!
餅の塊の近くに『白っぽい錠剤』や『カラフルな錠剤』が見え隠れしてますからっ!!

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