真波くんと自転車ダイエット

□21 自転車部の部室へ
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「宮原ちゃん、話したいことがあるんだけど、これから時間ある?」

七海は宮原にどう話せばいいか考え続けて、いまだに答えは出ないものの、放課後なると宮原に声をかけた。

「ごめん。今日は親戚のおばさんが家に来てるからすぐ帰らないといけないんだけど。話ってなに?」
「い、忙しいんだったら今日はいいや。また、こ、こんど話すから。じぁあまた明日ね、バイバイ」
「ええ、さようなら」

教室で話せるような内容ではない。七海はどこかほっとした気持ちになったが、また同時に肩を落として別れを告げた。

宮原は自転車部の部室に何度か行ったことがあると言っていた。無論、真波に逢いにだ。だから、七海はできれば宮原に自転車部までついてきて欲しいとも思ったのだ。今日の用事は真波と関係はないのだが。

まあ、それも今日七海が話したかった内容に対する宮原の反応しだいによっては、無理だったのだろうが。

今日は真波の顔が見られなかった。彼とも話をしないと、本当はダメなのに。

ともあれ、友情の危機は明日に持ち越しになってしまったし、自転車を返してもらって家に帰らないと。七海は手のひらに書いた文字を見た。

アラキタ

七海は今朝会った上級生の顔を思い返していた。自転車部の部室に行ったことはないが、どこにあるかは知っている。行きたくはないが行かないと帰れない。

……パンツ見られてたんだ。体操着はいていかなくちゃ。

七海は一人、顔を赤くしながら教室を出た。

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こちらは自転車部の中、引退した3年生がそろってやって来たことに少々緊張感が走ったものの、いつもと変わらぬ練習風景だ。

「で、どんな子なんだい?真波の……バイク取りに来る子って?」
「もう来るから見れんダロ?」

面倒くさそうに荒北は言うのを咎めた東堂は、よく響く声で真波を呼ぶ。

「真波〜!オイ、真波はどこだ?!」
「トレーニング室だろう。泉田の立てたメニューではクライマーは月曜日と木曜日が室内練習だ」
「よく覚えてるな寿一、っと尽八待てよ!真波を呼んでくんのは」

新開が、真波を迎えに行こうとする東堂を引き留めると、東堂は怪訝な顔をした。

「ナゼだ?真波も彼女に会いたいだろう?」
「いや、同じクラスなんだから、さっきまで教室で会ってただろう?ってか、真波のヤツ、その子のこと振り回しすぎて嫌われたかもって悩んでたからさ。イヤ、振り回したとは思ってないか」
「……それは初耳だな」


一緒に部室について来たのはいいが、話の流れが見えない福富は、新開と東堂の話を理解しようと、じっと話に耳をかたむけていたが、荒北はすでに飽きていた。

「んじゃ、オレ、帰っていい?」
「無責任だぞ荒北」
「だって福ちゃん、話が見えねぇダロ?その子、チャリ取りに来るだけだしぃ」
「オレには見えてきた。まず第一に、真波が好きだという女子がどんな子か、新開と東堂は興味を持っている」
「ヒュー、さすが寿一、分かってるね!」
「そして、後輩の恋を応援したいと思っている」
「そうなのだ。先輩たるもの、後輩からたよられれば応えてやらねばなるまい。……ってイッテ、オイ!荒北小突くな」

したり顔の東堂の頭を荒北は指で押した。

「なんだよそりゃ、どんだけ暇なんだヨ!どーでもいいダロ?そんなこと」
「それがそうでもないんだよな」
「は?なに言っちゃってんノ?新開テメェ」
「実はな、この山神 東堂さまは、このところ真波からずっと恋愛相談を受けていてな」
「それはご苦労なこって」
「それもこれも、後輩を思う親心ってヤツでな。真波の恋愛が成就すれば、部活にも身が入ると思ったから協力してやっていたのだよ」

したり顔をした東堂に対し、少し苦笑いをこぼしたのは新開だった。

「あ〜、それな尽八、実は真波のヤツ、尽八のアドバイスを真に受け過ぎて、その子にソッポむかれちまったみたいでさ……」

ヤレヤレと言った風の新開の言葉に、東堂が驚いて何かを言おうとした時、部室をノックする音がして、福富は周囲を制した。部員ならばノックはしない。一同に緊張感が走った。



一瞬の沈黙ののち、少しだけドアを開けて部室をのぞきこんだのは、東堂のいう『真波の想い人』、その人だった。

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