真波くんと自転車ダイエット

□20 誰がくる?
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「荒北、今日はファミレスで勉強するんだったな」
「早く行こーぜ!ハラ減ったぁ」
「なんだ荒北!その薄っぺらいカバンは!参考書がなれけば勉強できんぞ、早く取ってこい!」

放課後、荒北靖友が隣のクラスを訪れると、すでに馴染みのメンツが集まっていた。目下絶賛受験生をやっている彼らは、自転車競技部の3年生だ。

「いや、すまねェ福ちゃん、ちょっと野暮用ができちまって部室に用があるんだワ。お前らだけで先に行っててくれ、って言いに来たんだ」
「なんだズルいな靖友、今日は一緒に勉強頑張るって言ってたじゃないか」
「ベンキョ―やらねえ訳じゃねえヨ。預かりものを取りにくる奴がいるんだワ」


朝、荒北は名前も知らない初対面の1年生のロードバイクを預かった。見るに見兼ねてのことだ。

高級な自転車、特に競技用のロードバイクは中古でも高値で取引されるため、盗難が多い。自宅にとめていても盗まれるご時世だ。学校とはいえ、だれでも行き来できる自転車置き場にロードバイクを置くなんて、ハイ、持って行ってくだいさいって言っているようなものだ。鍵をかけたかけないの問題じゃない。

まあ、荒北にしたって、普通だったら見知らぬ他人がとめた自転車が盗難に遭おうが口出したりはしないのだが、



「なんだ?誰が何をとりにくると言うんだ?」
「大したことじゃねえヨ。1年の女子が…」

そう言ってから荒北はしまったと思った。目の前の男3人が話に興味をそそられて食いついてしまったのだ。

「ほお、荒北が1年生の女子とな」
「詳しく教えろよ!」
「ダァ〜!大したことじゃねェって言ってんダロ!オレもう行くかラァ」
「待てよ」


荒北が自転車置き場で声を掛けたのは、その1年生があまりにもロードバイクに不釣り合いだったからだ。制服そのまんまの恰好で、足元はローファーはいて、ヘルメットもグローブも無し。一瞬、自転車を押してきただけかと思ったが、汗の出方をみると結構な距離を走ってきたんだと分かった。

制服姿で走って来たのだと分かるけど、そんな恰好で落車でもしていたら、パンツ丸見えどころではなく、足が血だらけになっていてもおかしくはない。


荒北にも妹がいるが、妹がこんなに無防備な乗り方をしてたら、ヤバ過ぎて怒鳴りつけているに違いないだろう。

放っておけずに声を掛けてみれば、その子は、荒北の声に驚いたのか涙目になってしまい、荒北は妹を泣かしたときのバツの悪さを思い出した。


あの子が来るまでに部室に行っておいてやらないといけない。早足で歩くもチギることができずに、付いてきてしまった福富・新開・東堂の3人は興味津々で、あれこれ質問してくるが、面倒くさがり屋の荒北は何も説明せず、部室につくなり1台のロードバイクを指さした。

「これェ、これを取りに来る奴が来るだけだからァ」
「ん?これ、真波のバイクじゃないのか?」
「ちげェよ」

箱根学園自転車競技部の部員ともなれば、選手であっても、ロードバイクのメンテナンスについて一通りの知識と技術を習得する。3年生ともなれば、ヘタなメカニックより技術があるくらいだ。

「そうだな、真波のバイクにソックリだがサイズがアイツのより小さい。サドルの高さも結構低いから、かなり身長が低い人物だろう、これの持ち主は」
「んだからァ、1年女子だっつってんだろうがァ」
「……寿一はどう見る?」
「そうだな、明らかに真波が今乗っているバイクではないな、だがしかし、コンポもパーツも、ペダル以外は同じ物を使ってある。しかもここ」
「そう!バーテープの巻き方まで一緒だ!ということは結論は、……残念ながら靖友にはチャンスはないってことだな」

推理小説好きな新開がことさら楽しそうに笑った。

「ハァ?バカ!デブ!バカなこと抜かしてんじゃねェヨ!そんなんじゃネエって言ってんダロが」
「うわ、その子もう来ちまうかな?どんな子だった?その子?」
「なんだ新開珍しいな、バイクより1年女子に興味があるのか?」
「尽八、気付かないか?真波のバイクのサイズ違い、1年生女子」
「え?……そうか、なるほど」

頭の回転が速い東堂も分かったのだ。ニヤリと口角を上げる。

「これから荒北の元にやってくるのは、真波の想い人だな」
「ハァ〜?なん、なんの話だ?」

事情を知らない荒北と福富は、新開と東堂の出した推理に、ハトが豆鉄砲を喰らったようにキョトンとした顔をした。


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