真波くんと自転車ダイエット

□19 真波からの手紙
1ページ/1ページ

全速力で走って教室にやっとの思いでたどり着いた七海だったが、なんとか先生が来るまえに席につくことができ、座ると同時に荒い呼吸を繰り返した。

心拍数が限界まで上がっているのは走ってきたせいばかりじゃない。あの上級生は自転車部の人なんだろう。本当にとって喰われるんじゃないかと思うくらい怖かったのだが、放課後にまた会わないといけないと思うと、ドキドキがなかなか収まらない。

「七海ちゃん大丈夫?すごい汗だくだけど」

隣の席の友人が小声で話しかけてくる。ああ、もう先生が来たんだ。

「……あとで話す」

と口パクで返して、起立の声に皆と共に立ち上がる。なんかもう、散々な朝だ。


アラキタ先輩と言ったっけ、なにかに書いておかないと放課後まで覚えておけないとノートを広げようとした七海だったが、あいにく1時間目は小テスト。机の上の紙といったら、今配られたテスト用紙だけで、仕方なく七海は手のひらにボールペンで「アラキタ」と書いて見えないように手を握った。


自転車部の人だということは、真波の先輩なのだろう。彼から預かった自転車を先輩に持っていかれたと知ったら、なんと思うだろうか?真波と顔を合わせたらどうしたらいいか数日七海は悩んでいたのに、今朝も真波は教室に来ていない。また遅刻なんだろう。



1時間目が無事に終わり休憩時間、友人たちに今朝の大変な出来事を話していると、

「山岳ったら今日も遅刻?今日の1時間目はテストだから休まないよう言ったじゃない!」

いつもの宮原の叱責が聞こえてきた。真波が登校してきたのだ。

「ごめ〜ん、忘れてた。あ、鈴木くんお早う!」

今日はまたひと際さわやかな登校のようだ。真波へ向けられる女子たちの声が浮き立つように明るい。工藤先生の小テストサボったくせに。

キラキラの笑顔を振りまく真波を見たくない七海は、顔をそむけて気が付かないふりをした。


宮原には、真波と七海との間で起こったことを話さないといけない。黙っている方がいいのかもしれないが、七海の性格的に、裏切っているようでずっと黙ったままでいられるはずがないからだ。でも、できれば真波が言ったことはウソだと思いたい。

今は何も見たくない、聞きたくない。机に伏せて次の授業が始まるのを待っていようと七海が思ったそのとき、風がほほをかすめた。見なくても分かる真波の気配だ。

真波は、七海に声を掛けようとしたのか、寝たふりをしている七海が顔をあげないため、しばらくそこに立っていたが、机と腕のすき間になにか紙を差し込むと去っていく気配がした。


こんなんヤダ。好意を持ってくれる人にちゃんと返事できない自分なんて……。七海は腕の中でうつむいたまま、自分の内向的でネガティブな性格を呪った。


────────────────────


倉林さん オハヨ

安心して 今日からサイクリング誘わないから
オレから話しかけないから
ロードバイクはそのうち返してもらいにいくよ
それまでどうか乗っていて オレの昔の相棒に

真波山岳



Next《20 誰がくる?

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ