真波くんと自転車ダイエット
□18 自転車置き場
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いつもより家を出るのが遅い!
これからママチャリで駅まで向かって、はたして電車に間に合うんだろうか?どう頑張っても今からじゃ無理だろう。
七海が自転車の鍵を握りしめると、2台の自転車の鍵をつけたキーホルダーが小さな音をたてた。
そうだ、ママチャリの隣に立て掛けてあるロードバイクで学校に行ったら?
真波は電車よりも自転車の方がうんと早く学校に行けると言っていた。そう、学校からの帰り道なら走ったことがある。あの時は下りだったけど。
真波の自転車をいまだに借りているのは不本意だったが、遅刻して後藤先生から叱られるなんて恐ろしすぎる。
迷っている暇はない。とにかく早く学校に行かないと!七海は白いロードバイクにまたがると、無理矢理スクールバッグをリュックのように背負って無我夢中で道に飛び出した。
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「ハアハア、なんとか間に合ったぁ」
家を出てから30分たった頃、七海は箱根学園の門に到着した。まだ始業の時間には20分もある。自転車置き場にロードバイクをとめて、ゆっくり教室まで行ったって余裕だ。
それにしても、自転車を降りたとたん、汗が吹き出すように出てきて、七海は自転車置き場へと歩きながら、ハンカチでひたいの汗をぬぐった。
本当にこんなに早く家から学校まで来れるなんて、遅刻しないですんだことを真波に感謝しなければと思った矢先だった。
「オイ!そこのロードバイク引いてるヤツ!」
ぶっきらぼうな声が飛んできて、七海は飛び上がるほど驚いた。振り向くと目付きの怖そうな上級生がにらんでいる。
「そう、そこのオマエだョ。それ、その白いロードバイク、まぁさか、自転車置き場に停めようと思ってんじゃネェだろうな?」
なんで?自転車なんだもの、自転車置き場に停めるに決まってるじゃない。そう心の中でつぶやくも、言葉にできず七海は恐怖で固まってしまった。
「ハァン?ロード初心者かぁ?ってかそれ見たことのあるよなルックじゃナァイ」
なんだろ?因縁?柄が悪い不良が盛り場なんかで因縁つけてくるから気を付けるようにって、前に先生が言ってたけど、ハコガクにも不良っていたの?!盛り場ってどこのこと?
七海は涙目になりながら、どうやって逃げるか必死に考えた。
「チェッ、おびえてんじゃネェよ。なぁ、そのチャリ、自転車置き場じゃ盗まれっかラァ」
すると上級生が優しい言い方で話しながら、七海のもとへ近づいてきた。
「……あのさ、そこ停めちゃダメだかんね。ロードバイクはアブナイの。オマエ1年?チャリ預かってやっから放課後取りに来いヨ?自転車競技部、知ってんダロ?」
上級生がハンドルに手をかけたので、七海はコクコクうなづいた。なんだか怖い、けど優しい人なんだろうか?あれよという間にロードバイクは上級生の肩にかつがれてしまった。
「ほら、もう予鈴鳴るから、行けよ、行け」
ポンポンと頭をなでられて、七海は金縛りがとけたように力が抜けた。
よく分からない。けど、この人きっと優しい人だ。
「すいません、お願いします!」
自転車を停めるために持ってきたワイヤーチェーンを差し出せば、上級生は笑って「いらネェ」と言った。
キンコンと予鈴が鳴り響いた。もう行かなくちゃまずい。七海は上級生に頭を下げると教室へ向かって歩きだした。
「あ、なぁ、オレ荒北。部室に来たら荒北呼んでくれって言って!それと……制服のスカートでロードバイク乗ると、パンツ見えっかラァ。帰り、下にハクもんなかったら言え、貸したげる」
投げ掛けられた言葉に、七海は真っ赤になった。パ、パンツ見られていたんだろうか?いや、でも今は考えてる時間がない。教室までダッシュだ。遅刻はまずい!
七海はスカートがめくれてないか後ろ手でなでると、ペコリと頭を下げてから駆け出した。
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