真波くんと自転車ダイエット

□17 寝坊
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──真波くん、待って!もう少しゆっくり走って!

七海が叫んでも、真波は振り向かず、どんどん先に行ってしまう。

──なんで?!待って!千切られたら追いつけなくなる!待って!待って!真波くん!

ペダルを踏んでも踏んでも、なぜかスピードは上がらず、置いてきぼりを喰らった七海と自転車は、見えなくなっていく真波をぼうぜんと見つめていた。

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「七海、起きなさい!学校遅れるわよ!」

お母さんのどなり声が聞こえる。朝だ!

夢の中から急に起こされたせいで、七海は寝たまましばらくボンヤリ天井を見ていた。

何度もどなっているから、そろそろ起き上がらなくてはお母さんが階段を上がってきてしまうだろう。横目で時計を見ればなるほど、さすがにもう起きなくてはヤバい時間だ。



金曜日に真波に好きだと告白されたあと、どうやって自宅まで帰ってきたのか七海は覚えていなかった。でも、白いロードバイクは家のいつもの場所にあって、七海が自分で乗って帰ってきたのは間違いない。

まったく思ってもみなかった事態に頭がフリーズし、一言も、なんにも言えずに逃げるように帰ってしまった。あとから考えれば非常にマズイ行動だった。

でも、どうしたらいいんだろう?


男の子から告白されたなんて、ましてその相手が人気者の真波だなんて、口の軽いクラスの友達には相談しづらい。かといって仲良しの宮原委員長には言えない話なのではないか?

お母さんに相談?無理だろう。真波を気に入っているお母さんに言ったら、大喜びしてしまうに違いない。じゃあ、お父さん?無理無理。絶対無理だ。

今まで誰かに好きだと想われたことなんてない七海は、土曜、日曜とどうしたらいいのか悩んでもなんの答えも出ず、月曜の朝である今、
「学校行きたくな〜い」
と布団を頭からかぶった。

「頭が痛いって学校を休んだらどうだろう?」

ずる休みしたい気持ちでいっぱいだ。真波に会いたくないし、真波を好きな宮原に会ったら何て言えばいいのか分からない!


「ダメだ〜!今日の一時間目は後藤先生の小テストだった!」

時計の時刻に現実を思い出し、あわてて飛び起きたせいで、布団に足を取られて転ぶも七海はバタバタと階段を下った。

数学の後藤先生は怖い先生で、遅刻なんて絶対許されない。体調不良で休んだ場合にはあとで放課後のマンツーマン指導が待っている。熱心な先生なのだが、顔もしゃべり方も怖い中年教師の世話にはできるだけなりたくないものなのだ。


「遅刻するわよ!急ぎなさい!」
「分かってる!」

もう、朝ごはんを食べる時間なんてない!寝癖のついた髪にドライヤーをかけるのすら省略しないと電車に乗り遅れちゃう!

「朝ごはん早く食べなさい」
「いい。食べてたら遅刻しちゃう!」
「もう、もっと早く起きないから!」

家からママちゃりに乗って10分。そこから電車に乗って、途中で乗り換えて。学校までは小一時間かかり、電車の本数は多くない。

いつものスローペースが嘘のように、七海は猛スピードで顔を洗って制服に着替えると、最低限の身支度は済んだとばかりにカバンをつかみ玄関のローファーに足を突っ込んだ。


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