真波くんと自転車ダイエット

□14 早朝の来訪者
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「ドンドン!ドドドンドン!」

休日の早朝だというのに、せわしなくドアを叩く音に起こされる。

「もうちょっと寝かせてくれよ。まだ朝メシの時間じゃねぇだろ?」

フトンを頭から引っかぶってみるが、ドアを叩く音は、ホンの少し小さくなっただけで消えてはくれない。

「チッ、うるせぇなぁ……誰だよ?乱暴だなぁ。靖友か?」
「ドンドン!ドンドン!新開さん、起きてください!新開さん!新開さん!」

あと30分は寝られるはずだったのにと、新開隼人は大きなため息をついてからフトンを跳ねのけた。



今日は3年間の部活の最期を飾る大事な『追い出しファンライド』の日。インターハイのあと、受験勉強で満足な練習をする時間がなかった3年生も、この日ばかりは1日中おもいきりロードバイクに乗れるのだ。当然気合いが入っている。

模試の成績が悪かったせいで、今週、自転車に3回しか乗れなかった新開も、せめて本番はベストパフォーマンスを出したいと、きっちり8時間睡眠を取るため安眠中……だったはずなのだが。



「えっ?真波?」

自室のドアを開けた新開が目にしたのは、情けない顔をした真波山岳だった。

「どうしたんだ真波?おめさん自宅通学だろ?今日の部活は10時集合なのに」
「し、新開さん、あなたに教えて欲しいことがあって……」
「ふぅ、ま、入れよ。他の部屋の奴等まだ寝てる奴多いし」

早朝から困った後輩にたたき起こされてうんざりしていても、そこは後輩たちから絶大な信頼を集める新開だ。嫌な顔ひとつ見せずに不思議ちゃん真波を迎い入れてやる。

「まぁ、その辺座れよ」

よく見ると、いつにもまして真波の髪はボサボサ、まったくひどい顔色をしている。インターハイ以来、真波が追い詰められたかのように、シャカリキになって部活の練習にのめり込んでいるらしいという話は聞いていた新開だったが、実際、この後輩のこんな姿を見てしまうと心配にならざるを得ない。

「んで、どうした?真波」

だが、次の瞬間、新開は布団にまたもぐろうかと思うくらい、脱力した。

「新開さん、オレ……フラれちゃったんです」
「は?」
「だから、好きな子にフラれたんですって」

自転車部の部員とて、お年頃の男子高校生だ。コイバナの一つや二つ、たまにはすることもある。だが、

「なんでオレにその話しに来たんだい?真波。オレより尽八の方が……」
「東堂さんの言うとおりやったんです。何ヵ月も。オレに任せろ!オレの言うことを聞いていれば間違いないって、東堂さんのアドバイス受けて。……なのに、なのに」

今日は大事な、高校生活最期の部活の日。クソつまんない受験勉強のさなか、ずっとこの日を楽しみにしてきたのに、この後輩ときたら。

「わかった、わかった、話、聞いてやるから落ち着け。っと、真波、ちょっと待ってろ!すぐ戻るから!ほら、顔洗ってこれで拭いてこい!」

部活の相談かと思ったら、予想外の件で訪ねてきた真波に、手近にあったタオルを放ると、新開は苦笑いを隠して部屋を出た。


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