真波くんと自転車ダイエット

□10 ペペロンチーノ
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真波のわかりづらい想いなど全然理解できない七海は、真波の家に上がったものの、早く帰りたい気持ちでいっぱいだった。

「さあ、ここ座って。ねぇ、せっかく来たんだし、食べてくでしょ。オレ、すぐ作るから。倉林さん、ペペロンチーノとか大丈夫だよね?」
「えっ?いやあの……」

真波が七海の返事を待たずにキッチンの蛇口をひねると、勢いよく水の音が響き渡り、七海は仕方なくダイニングのイスに腰掛けた。

「ほら、オレ、倉林さん家で結構ごちそうになってるしさ、倉林さんのお母さん料理上手だよね」
「あのぅ、おウチの人は……?」
「うん、ウチは両親共働きで、今日も遅い時間になんないと帰ってこないから、気兼ねしないでいいよ」

今日の真波は口数が多いようで、七海の話をさえぎるように言葉をかぶせてくる。

「でも一応、倉林さん家には連絡入れた方がいいよね、女の子だし。……あ、もしもし、真波です。はい今、倉林さん、ウチに来てまして、ゴハン食べてってもらおうかなって……、あ、いや全然。はい。……あ、はい。ありがとうございます。じゃ、また」
「ええっ?真波くん、真波くん、今、どこに電話した?」

あわてて七海はキッチンに立つ真波の元に駆け寄ると、

「どこって、倉林さんのお母さんにだよ?あんまり帰りが遅くならないようにね!だって」

そう言って真波は笑った。



真波といると七海は調子が狂う。

なんでアンタがウチの電話番号知ってる(登録してる)の?とか、なんでアンタが直でお母さんに電話するの?とか、自分の家で弟に言うように喋ってしまいそうになる。

だけどやっぱり内弁慶の七海は、ただ目を丸くして真波を見つめることしか出来ないのだ。


そうこうする内、手際よく出来上がったペペロンチーノが食卓に並べられ、はす向かいに座った真波が、にこやかな笑顔と共にフォークが差し出した。

「どうぞ、食べてみてよ!美味しいか分かんないけど」

ふんわり香るガーリックの美味しそうなにおい。別に食べたくなんかないんだけどね!と心の中で思いながら不機嫌にフォークを受け取った瞬間、

ぐぅ〜

七海の腹の虫が派手に鳴った。


「プッ、フハハハ。ごめん、笑うつもりじゃなかったんだけどさ。倉林さん、さっきから仏頂面してるから、食べるのイヤなのかと思ったら、お腹空いてたんだね〜」
「……もう、ヤダ!真波くん笑わないでよ!フフ、アハハ、私恥ずかしい!」
「えー?恥ずかしくなんかないよ!オレなんかマジ腹へってて、さっきからグゥグゥ腹鳴ってるもん。ハハハハ、さぁ、食べよ!」

お互いに顔を見合わせて笑った。

「真波くんが料理するなんて意外だったな」
「そう?コンビニ弁当ばっかじゃ良くないって先輩に言われるし、よく作るよ。って言ってもペペロンチーノじゃ説得力ないか。こっちのサラダも食べてね」
「ありがと。他にはどういう料理作るの?」
「パスタの他だと、肉じゃがとか?どれも部活の先輩に教わったものだけどね。良かったら、また今度食べに来てよ」


真波といると、いつのまにか真波のペースに乗せられて、七海のペースが崩れてしまう。でも、なぜかそれは心地よくて、肩肘張らずに自然体でいられる気がする。



『真波くんが友達の好きな人じゃなかったら、学校の人気者じゃなかったら、真波くんと過ごす時間をうしろめたく感じなくて済むのかな?』

七海はそう想いながら胸がチリリと痛むのを感じた。

『どうして真波くんは自分に優しくするんだろう?』


本当は、男の子とか女の子とか関係なく、真波とは好い友達になれそうな気がしていた。だけど、もう一方では、周囲の目が気になって、真波と距離を置きたいとも思う。

笑顔の真波を前に、七海はこれからなんと言ったら良いか、思案に暮れていた。

……真波が同じように、悩んでいるのも知らず。
Next《11 立ち向かうんだ

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