真波くんと自転車ダイエット

□08 イヤって本当?
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最近ちょっと制服のスカートがゆるくなった。本当に痩せてきているのかもしれない。七海はおなかの方に回ってきていたホックの位置を直しながら近頃の出来事について考えていた。

七海は小学校の頃から太めでよく周りからからかわれることがあった。そのせいで自分に自信を持つことができなかった七海は、できるだけ自分が目立たないよう行動する習慣が身に付いている。

だから、有名人の真波が七海に構ってくるのは正直言って迷惑……なハズだった。



───真波くんに無理矢理誘われて自転車に乗ってた結果、2ヶ月で知らず知らずのうちにダイエット出来てきている!

お父さんは細いけどお母さんはヤッパリ太めで、自分が太っているのは遺伝なんだって思っていたのだけれど。真波くんはダイエットの神様からの御使いなんだろうか?

でもね、もうそろそろ、夕方、日が暮れるのも早くなってきたし、夜道を走るのイヤなんだ。

真波くんはいつまでこんなこと続ける つもりなんだろう?なんて言ったら真波くんはもう来ないでくれるんだろ?───


***


「さんがく、授業終わったわよ。いい加減起きなさい。……もう放課後よ!起きなさい!」
「うわ、もうこんな時間だ!早く部活に行かなきゃ。委員長、起こしてくれてありがとう!」

幼なじみの声に飛び起きた真波は、教科書を乱暴に机の中に突っ込むとカバンをつかんで立ち上がった。

「待ちなさい!ちょっと話があるんだから!」
「えっ?ごめん、それ今じゃなきゃダメ?オレ、急いでて」

幼なじみの宮原が言いそうな小言に山ほど心当たりがある真波は、困った顔をしながら、廊下へ足を向けた。

「ダメよ!」

逃がさないとばかりに宮原は真波のカバンをつかんでいる。

「ん〜、わかった聞くから、離して?ねっ?」
「コホン、あんた、いい加減七海ちゃんをサイクリングに誘うのやめたら?」

真波のカバンを離した宮原が、少し言いづらそうに言った。

「えっ?」
「七海ちゃん、運動得意じゃないのに、なんで何回も誘うのよ?」
「なんでって……」

世話焼きの宮原は、普段から真波にあれこれ言ってくるのだが、これは答えにくい質問だと真波は困った顔で微笑った。

「七海ちゃん、イヤがってるわよ。真波くんと自転車乗るのはスパルタ式のトレーニングみたいで、やせるのは嬉しいけど疲れるって。家まで押し掛けてくるのもイヤなんだって!」
「イヤがってるって……ウソ」
「ウソじゃないわよ!七海ちゃん、困って私に相談してきたんだから」
「なんで委員長にそんなこと言うの?イヤならオレに直接言えばいいことでしょ?」

宮原が言ったことが信じられない真波は、急に険しい顔をして、珍しく声を荒げた。

「し、知らないわよ。言ったけどあんたがちゃんと聞いてあげなかったんじゃないの?」

真波の剣幕に、宮原は少し後ずさった。

「……今、倉林さんはどこにいるんだよ?」
「もう帰ったわ」
「わかった」

そう言って真波はカバンを肩にかけ直し、教室を飛び出して行った。

「ちょっと、さんがく!女の子がイヤがることはやめるのよ!」

宮原の声が背後から響く。

まだ彼女は近くにいるだろうか?すぐにでも会って話しをしなきゃ。

だけど、校門まで走っても、真波は七海に追い付くことが出来ず、代わりに部活の先輩に見つかって、そのまま放課後の部活に出るしかなかった。

その日、真波のタイムトライアルの成績は散々で、先輩達からキツーく叱られる羽目になった。


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