真波くんと自転車ダイエット

□06 彼はそんなに天使じゃない
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「はぁはぁ、間に合ったぁ〜」


朝、教室に走り込んできた真波は、自分の席につくと、机に突っ伏した。

その様子に周囲の女子からクスクス笑いが漏れる。


「間に合ったじゃないわよ!さんがく、ぎりぎりじゃない!今日の宿題やってきたんでしょうね?」

「ごめーん、委員長。ちょっと休ませて」


なにこれと世話を焼く宮原と、それを聞いてるのか聞いてないのか分からない真波。いつもの教室での風景だ。


放蕩息子に手を焼くお母さんみたいと、七海は宮原の行動を若干呆れ顔で見ているが、真波は人気者。

女子の中には宮原の行動をうとましく思っている人達がいるのも事実。

「ほら、さんがく、先生が来る前にコレ食べちゃいなさい」
「わあぃ、おにぎりだぁ。委員長ありがとう」
「今朝、朝ごはん食べずに行ったってあんたのお母さんが言ってたから。べ、別にわざわざ作ったんじゃないのよ。ウチのごはんが余ってたから」

さりげなく差し出したつもりなのだろうが、宮原のしていることはいつも意外と目立っている。二人の関係を知らない人から見たら、バカップルかと思われてもおかしくない会話が日々交わされているのだから。



「真波くん、よかったらコレ食べて!昨日焼いたガトーショコラなの」

休み時間になると、どこからともなく女子が真波目掛けてやってくる。

だけど七海は気づいていた。真波が手作りの食べ物は決して受け取らないことを。宮原が作ったもの以外。

「ごめんね。オレ今、レース前で減量中だから、甘いもの食べられないんだぁ」

ほら、やっぱり。市販品なら持っていくのに。でも、差し入れを断られた子は真波の笑顔に悩殺されて、キャアキャア言っている。

真波の顔はカワイイ。中学のとき、初めて真波を見た七海は彼の顔に驚いたのを覚えている。

「ねぇ宮原ちゃん、宮原ちゃんはなんで真波くんと一緒に自転車で走ってあげないの?」

七海は素朴な疑問を友達の宮原にぶつけてみる。

小学生のとき、真波をサイクリングに誘ったのが真波が自転車にハマったきっかけだと、宮原からなんど聞いたことか。

初めてのサイクリングで宮原に追い付けなかった真波は、もう一度自転車で競争しようとことあるごとに誘ってくるんだと、嬉しそうに宮原は言う。

だったら一緒に走ってあげればいいのに。


「いやよ。私、自転車遅いもの。さんがくと一緒に走ったらすぐに置いてかれちゃうじゃない」
「えーっ、そんなことはないと思うけど」


真波が七海に一方的にロードバイクを貸しつけてきてから、ときどき七海の家へやって来てはサイクリングに駆り出されていることは、宮原も承知済みだ。

七海は宮原が真波の行動を止めてくれることを期待しているのだ。


「いいな〜真波くんとサイクリング。私も小田原に住んでればよかった」

レナちゃんが七海の二の腕をつかみながら言う。そんな愉しいものじゃない。真波は話が通じないのだ。

それに……。

「ねぇ、七海ちゃん、最近ちょっと痩せた?二の腕のぽよぽよが減った気がしない?」

すると亜美ちゃんも同じニクをさわってうなずいた。

「ほんとだ!しろぶたちゃん、ダイエットしてるの?」
「別に、なんにもしてないけど……」

そこで宮原が思い付いたとばかりに手を叩いた。

「そうよ、サイクリング!さんがくと走ってるからじゃない?たまにはアイツも良いことするじゃない。自転車ってダイエット効果が高いって言うもの。きっとそれよ」
「ホントに?あたし細くなった?」

七海は半信半疑で腰に手をやった。だが、残念ながら実感がない。

するとピョッコリあらわれた真波が話に混ざってきた。


「委員長、倉林さん、なに?オレの話してた?」
「七海ちゃんが痩せてきたんじゃないかってハナシ」
「えーっ?なにそれ?」
「真波くん、七海とサイクリングしてるんだって?私達も誘ってよ」

みんなの言葉に真波は少し困ったような顔をして見せる。

「う〜ん。倉林さん家や委員長ん家はご近所さんだから誘えるけど、オレ、部活であんまり時間ないしな〜」
「あっ!だったら私のことも誘ってくれなくていいよ」

ここぞとばかりに真波に断りの言葉を言ったつもりの七海の声は、真波の笑顔に無視された。

「じゃあ、オレ部活に行かなくちゃ!みんなさよなら!倉林さん、あとでね!」
「ま、待って真波くん!」
「さんがく!明日も遅刻しないでよ!」
「はぁ〜い」

宮原の声を背に、真波は放課後の廊下を駆けていった。


「アイツのきまぐれに付き合わせちゃってごめんね。でも、七海ちゃんにはいい運動になってるのかもしれないわね」

宮原はそれでいいんだろうか?

宮原のため息混じりの言葉に、七海は真波の「あとでね」発言の方がため息が出るよと、心の中で思った。


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