レグルス 〜わたしの1等星〜
□9 カタルシス
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自室のベッドで目覚めたなまえは、裸のまま正座した尽八を見て、顔を引きつらせた。
「名字さん……、あの、これはその……」
昨夜は久しぶりに散々飲んで、尽八と帰宅したのだが、ベロンベロンに酔った尽八は部屋の鍵がないと騒ぎだし、仕方がなくなまえは尽八を自室に入れた。
酔っぱらった尽八は、普段の礼儀正しさはどこへやら。高校時代に自分がいかにモテたかを語りだし、果ては元カノについて話し出したかと思ったら酷く落ち込みだしたので、なぐさめていたのだが……。
「東堂くん、ちょっと、取り合えず服を着ようか。反対向いててくれる?」
なまえが言うと、尽八はチラッと見てから真っ赤な顔をそらして、手で顔をおおった。
──私、何やってんだろ…。
付き合ってもいない男と寝たことなんて、今までなかったのに。
異国の地にいる淋しさや、落ち込んでる相手をなぐさめてあげたいという感情や、普段の尽八の女性に対するこなれた態度から、つい、自ら尽八と唇を重ねてしまった。
マズイ、どうしよう?こんなの恥ずかしすぎる。
「あの……昨夜はやっぱり」
服を着た尽八は、おずおず話しかけてくる。
「えっと、なんて言ったらいいか」
「いや、あの……」
よりによって、だいぶ年下の男の子と。見かけによらず一途に元カノを想ってるピュア・ボーイとなんて。
若くてイケメンの選手を応援する気持ちはあったけど、あくまで取材対象としてだったのに。
「いや、こうなったからには責任をとらなければ。名字さん、オレと、け、けっこん……」
責任って、結婚って、昭和の時代か?
真剣な表情でそう告げた尽八に、なまえは大きなため息をつかずにいられなかった。
「はぁぁ〜。あのねぇ、東堂くん。たしかに昨夜は私達寝たよ。だけど、東堂くんは私に対して恋愛感情あるの?ないでしょ。それなのに『結婚』なんて口にして!『責任』ってなんの責任よ!」
モテると常日頃自慢しているクセに、なんでこんなにウブなんだ、この男は。
「……仕方ないじゃない。お互いにすごく酔ってたし。理性が負けちゃったのね。ごめん、私も人恋しかったのかも」
罪悪感がチクリと胸を刺すようだ。
なまえは、年下の尽八に何でもないことなんだと思わせるよう笑った。
「別に、お互いフリーなんだから、軽い付き合いをする時があってもいいよね?」
──分かってる。彼にとって、昨夜が初めての体験だったって。でも、何でもないように振る舞うしかないじゃない。
こんなこと彼にだったら、これから先、何回でもあるだろう。
不意に自覚してしまった恋心に、やるせなさを感じたなまえは、もう一度キスをしようと、尽八に手を伸ばした。