レグルス 〜わたしの1等星〜
□7 パブへ行こう
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がんばれジンパチくん 6
(世界で頑張る東堂尽八のブログ)
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みんな、元気か?
いつも応援ありがとう!世界に挑戦中のみんなの山神・東堂尽八だ!
今日は新しいオレのチームの話しをしよう。
プロ・ロードレース界のチームにはランクがあって、上からワールドチーム、プロコンチネンタルチーム、コンチネンタルチームとなっている。
オレが所属しているのはコンチネンタルチーム、つまり一番下のランクのチームだ。
オレが目指している世界最高峰のロードレース、ツール・ド・フランスにはワールドチームもしくは選ばれたプロコンチネンタルチームしか出ることが出来ぬ。
しかも必ずツール・ド・フランスに出場できるワールドチームに入っていても、たくさんいる選手の中から出られるのは1チーム9人だけなんだ。
こんな話はみんなには、よく分からなくて興味ないかもしれんな。
オレが言いたいことはだな、ヨーロッパで頑張ってきたが、オレはまだまだだということだ。
だが、頂上を目指す道程は苦しいが楽しいぞ!
みんなにも、それぞれ夢があるだろう。共に頂点を目指そうではないか!叶うか叶わないかは問題ではない、オレはそう思っている。
みんながオレを応援してくれるように、オレもみんなを応援しているぞ!
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尽八はブログを書き終えると、ノートパソコンの電源を落とした。
「東堂くん、今日の作業終わったの?」
なまえがドアの隙間から顔をのぞかせた。
自転車雑誌の記者であるなまえは、昼間、どこかへ取材に行くと言っていたが、せっかくイギリスにいるのだから夕飯になにかイギリスらしいモノでも食べに行こうと尽八が誘っていたのだ。
「ええ、オレはすぐにでも出掛けられますよ」
尽八は椅子から立ち上がり、ジャケットを肩にかけた。
この国の夏の夜は、なかなか暗くならず、いつまででも夜歩きできそうなくらい日が沈む時間が遅い。
かといって、日本のようには暑くならないので、イギリス人のように半袖で日がな一日過ごすのは無理だ。
彼らはさすがに現地の気候に順応した身体を持っていて、寒さには滅法強いのだ。
尽八はなまえにも上着を持っていったほうがいいと勧めるため、講釈がましくベラベラとしゃべった。
お姉ちゃん子だった尽八は、年上の女性と過ごすのがわりかし好きで、同じ下宿に住むことになったなまえとも打ち解けており、よく一緒に朝晩の食事を共にしている。
なんといっても、なまえは職業柄なのか聞き上手で、尽八の話を途中でさえぎったりはマズしない。尽八にとって、特にここイギリスでは得難い存在なのだ。
「へ〜、そうなんだ〜。じゃあ私も東堂くんを見習ってカーディガン持ってくね」
「あっ、名字さん、今日は友人も同行してもいいだろうか?」
「巻島くん?いいよ〜、モチロン」
なまえは快諾して、一旦自室に戻っていく。
今夜、尽八は夕飯にパブへ行ってみようと思っている。パブはいうなればイギリスの居酒屋。伝統的なイギリス料理や酒を楽しめる場所で、イギリス文化を知るためには是非訪れたい所だ。
まだ二十歳で飲酒経験のあまりない尽八にとって、パブはランチを食べに寄ったことはあっても、まだ、自ら飲酒するために行ったことはない未知の空間。
友人を案内役にして、未知の体験をしてみようというのが、今日の目論見だった。