レグルス 〜わたしの1等星〜

□1 旅立ちのとき
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がんばれジンパチくん 1
(世界で頑張る東堂尽八のブログ)
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いつも応援ありがとう!
箱根の山神改め、世界の山神(予定)東堂尽八だ!

ファンのみんな!オレが高校卒業後、日本でオレの活躍が見られなくなって、悲しがっていないか?

だが、心配はいらんよ!これからは、このブログで東堂尽八の世界への挑戦を、報告していくからな!

オレは今、日本から飛び立った飛行機の中にいる。これからヨーロッパのいくつかのチームでプロテストを受けて、所属先を決めるつもりだ。

まず、今向かっているのはオランダだ。オランダは自転車先進国だし、現地を見られるのがとても楽しみなのだ。

おもしろいことがあったら、このブログで報告するからな!



今日アップした画像は、箱根学園の仲間たちと最後に撮った写真だ!

箱根学園では4日後に卒業式なんだ。
ハコガク3年生のみんな!卒業おめでとう!

お互いに頑張ろうな!


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尽八は仲間4人で撮った写真がブログ上に貼れたのを確認すると、満足そうにノートパソコンを閉じ、窓から飛行機の外を眺めた。



もう、日本は遥か彼方。尽八が持ってきたのは、わずかな着替えと身の回りの品、現金、そして愛車だけだ。

これからの数年は、極ストイックに生活し、クライマーの頂点を目指すと決めている。

必ず夢を叶えると約束した人もいる。尽八はその人のことを考えると、いつも自分が強くなれるような気がした。

………もう、手の届かない人だけれど。




人前ではいつも自信にあふれた様子の尽八だが、その実、悩んだり不安だったり、まあ年齢相応に揺れることもある。ただそれを他人に見せないだけだ。

プロになると日本を飛び出してきたものの、確実なあてなどなく、内心、プロテストに落ちたらどうしたらよいか考えると胸が詰まりそうで、尽八はギュツとこぶしを握ると胸に押し当てた。


出掛けに姉から渡された巾着袋を取り出し、中身を出す。緑茶の入った水筒と、姉お手製のぼた餅だった。

家族とはありがたいもので、こうしていつも、あれこれと無償の愛を注いでくれる。両親も、挑戦できるのは若い内だけだからと、尽八のこの無謀とも言えるチャレンジを応援してくれた。

ぼた餅を口に入れると、あんこの甘さが口イッパイに広がり、思わず笑顔になる。



ふと、視線を感じて横を向けば、隣の席の青年が、食べ掛けのぼた餅を刺した爪楊枝を持つ尽八の手を凝視していた。

もう一口と、口元にそれを寄せると、視線も追いかけてくる。

オレの所作の美しさに見惚れたか?いや、この食べ物が気になるのだな。はて、どこの国の人だろう?

尽八はそんなことを思う。


「食べてみますか?」

習い覚えた英語で話し掛けてみた。実践英会話だ。竹の皮の包みと緑茶をお隣に差し入れる。

「オー、サンキュー」

ぼた餅を食べた青年は、余程旨かったのか、頬を押さえて感動していた。




旅は道ずれ世は情け、こんなおもてなしもいいだろう。これから尽八はロードレース界の頂点を目指すと共に、日本の素晴らしい文化を世界に発信していくのだ。


きっとオレは頑張れる!


老舗温泉旅館の跡取り息子は、自分のもてなしに満足げにうなづいた。
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