レグルス 〜わたしの1等星〜
□3 転んでも
1ページ/2ページ
────────────────────
がんばれジンパチくん 3
(世界で頑張る東堂尽八のブログ)
────────────────────
みんな、応援ありがとう!
世界の山神(現在なり途中)、東堂尽八だ!
昨日のレースの結果を観てくれただろうか?観てくれていたとしたら、心配をかけてしまったかもしれないな。
昨日は一年契約で所属していたチームの今期最終戦のワンデイレースだったのだが、残念ながらオレは集団落車に巻き込まれてしまい、レースを完走することができず、途中でリタイアしてしまった。
だが、みんな心配しないでくれ!オレは大丈夫だ!
それに、みんなに報告なのだが、来期からは新しくイギリスのチームに所属することが決まった!
イギリスといえば、オレの高校時代のライバルがロンドンで暮らしている。会う機会が増えるかもしれんな。
ただし、奴は今ではロードに趣味程度でしか乗っていないという話だが。
それから、オフの間は久しぶりに日本に帰る予定だ。ファンクラブのみんなとの再会も楽しみだ!
待っていてくれ!
────────────────────
尽八は深いため息をついた。落車で負傷した肋骨と左の小指が痛む。
チームの最終戦でのリタイアに、尽八は痛みよりも悔しくて、一晩中眠れなかった。
今日、尽八は大変調子が良く、監督からチャンスがあればアタックをかけてもいいと言われていた。
ロードレースはチームプレイ。監督の命令が絶対だ。チームはエース一人を勝たせるために走る。勝手は許されない。
だが、まれにこうしたオーダーが出ることもある。そのときは、運と実力と頑張り次第で自分が1位でゴールすることも夢ではない。それに、トップでゴール出来なくても、レースの先頭で走れれば、己の実力をアピール出来る。
チームのエースではない尽八にとって、絶好のチャンスだったのだ。
尽八は窓の外が白みはじめたのに気付いた。さすがに少しだけ眠いがそろそろ起きねばまずい時間だ。
洗面台で顔を洗うと、水の冷たさで目をパッチリと開けることができた。鏡の中の自分を見るが、今は髪の乱れを整える気分ではないと、先に出掛ける準備を始めた。
とはいえ、用意周到な尽八には、着替え以外たいしてやるべきこともないので、カバンの中味を再点検するくらいだ。
尽八には落ち込んだとき、自分を浮上させることができるおまじないがあった。いつも使っている革の長財布。そっと手に取って、内側の一番奥から財布の大きさに切った1枚の写真を取り出した。
高校時代、制服姿の尽八とその隣で微笑む一人の少女。尽八はそれを見ると、当時の幸せな気持ちを甦らせることができた。
「尽八くんが好き」
彼女の声が耳によみがえる。その言葉で尽八は自分が強くなれる気がした。ぎゅっとこぶしを握ると胸に押し当てる。
「うむ。では日本に帰るとするか」
尽八は一人きりの部屋でつぶやくと、乱れた髪を念入りに整えてから力強く立ち上がった。