砂糖菓子の恋

□6 デート?
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女子高生の好きな話題と言ったら、いつの時代も恋愛話だろう。
今日も、女子生徒が数人集まって、自分の好きな人の話や友人の恋愛事情を、興味津々でお喋りを楽しんでいる。

「それで、一条さんはどうなの?いつも新開くんと仲良くしてるけど……」

恋愛話の苦手な花は、周りの友達の話しを黙って聞いていたのだが、話しを振られてフワリと笑顔を返した。良く聞かれる質問だ。

「隼人くんとは幼なじみで、親友なの」
「えー!男女間での友情ってどうなの?こないだ雑誌でも特集してたけど、男女間の友情はあり得ないって意見が多いって書いてあったよ!」
「私も同意見だな」

ああでもない、こうでもないと、女子同士のお喋りは止めどない。

「男子と女子が、二人で出掛けたらデートだよね?」
「そりゃそうでしょ。で、なにか進展あったの?」

最近、隣のクラスの男子となにやら良い雰囲気になってきたと話す鈴木さんは、そろそろ相手の気持ちを確かめたいと、彼と学外で会う約束をしたらしい。

「やったね!鈴木さん。初デートだね!」

この手の話に疎い花も、人の話を聞いているのは面白い。他の皆はそれぞれ好きな人がいるようだ。

『そういえば、明日、東堂くんと会う約束をしたけど、男女二人でお出掛けするって、デートなの?』

花は頭の中で考えるが、ちっともぴんとこない。

「東堂さまも、その内誰か女の子とデートするのかな?」

桜井さんのお目当ては尽八のようだ。
花は″東堂"、″デート"の言葉に少しドキッとした。隼人から東堂ファンクラブに気を付けるようにとの忠告が思い出される。

『でも別に私達はそういうのじゃないし、あえて皆に言うほどのことでもない……』

花は、なんとなくモヤモヤした気分になった。




* * * * *


尽八にとって、これが人生初のデートだ!カッコ悪いところは見せられないと、数日前から気合いが入っていた。

事前に福富と荒北に、どこへ食事に行ったら良いかと相談したところ、福富に財布の中身を真剣に心配されたので、少々シャクにさわり、今の自分の身の丈に合ったところへ連れていこうと決めた。

11時に箱根湯本駅の改札の前で待ち合わせをしていたが、時間になってもなかなか彼女は姿を見せない。
平日は毎日学校で会えるので、つい、ケータイの番号を聞くのを忘れてしまっており、連絡することもできなかった。

尽八は改札の向こうとケータイの画面を交互に見ながら、落ち着かない風情で花を待ち続けた。



「東堂くん!ごめんなさい!遅れちゃって」

約束の時間を30分過ぎた頃、やっと花は改札から出てきた。

「一条さん!来てくれてありがとう!!なかなか来ないので心配してしまった」

花を見つけた尽八は、ぱぁっと明るい表情で駆け寄った。

「あんまり一人で電車に乗ったことなくて、乗り換えの駅で迷っちゃったから……」
「それは大変だったな。小田原駅の乗り換えは分かりにくくはないのだが。慣れてない場所ではそんなこともあるだろう。これからはそんな時困らないよう、後で連絡先を交換しよう!そろそろ昼時だ!お腹の空き具合はどうだ?すぐ近くに美味しいお茶漬け専門店があるのだが、お茶漬けでも良いかね?」

尽八が弾丸トークでまくし立てると、花は小さく笑って「うん」と言った。




そのお店は、通りに面したこじんまりしたお店で、洋風のお洒落な内装だった。

「えっ?カウンター席しか空いてない?オレはいいが、一条さん、カウンター席でも大丈夫かね?」

花が頷くと、尽八は窓側の奥の席の椅子を引いて花を座らせた。

「私、カウンター席って初めて!並んで座るのね!面白い」
「喜んで貰えて嬉しい!で、お茶漬けだが何をたべるかね?この店のお茶漬けは種類がたくさんあるんだ」
「……お茶漬けって食べたことなくて、東堂くんのおすすめでお願いします」
「ええっ?お茶漬けも初体験なのか?では、この東堂尽八イチオシ、鯛茶漬けを食べてくれたまえ!」



『なんだ彼女のこの可愛さは?なぜ恥ずかしそうにしているのだ?キュンとくるではないか?すでに彼女の初体験を2つもゲットだと?』

尽八好みの美しいビジュアル、出会いのシュチュエーションに加え、控えめな可愛らしい笑顔と声に、尽八は花に恋をしたことをはっきりと自覚した。
なんだか、顔が熱くなっていくのを感じる。

「東堂くん、暑い?」

花に小首をかしげて覗き込まれると、尽八はますます顔が赤くなる。
だが、トークも切れる山神を自認する尽八としては、会話を途切らせるなどしてはならない。

「今日はとても暑いな!ハッハッハ。お!お茶漬けが来たな!それでは、食べる前に、改めて礼を言わせて欲しい!山で助けてくれて!本当に感謝している。それと、一条さんと出逢えたことにも!ありがとう!一条さん」

精一杯の感謝の気持ちを込め、尽八は笑顔で見つめた。
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