砂糖菓子の恋

□4 ある日の放課後
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箱根学園には、学食や購買がわりと充実しているが、花は大抵、母親が作ってくれる弁当を昼に食べることが多い。
それも、隼人の分もと言って、大きな重箱に詰めてくれるのだ。

それゆえ、花はお昼休みの時間は隼人と教室で過ごす。
隼人の友人や花自身の友達も大抵一緒だ。

「今日の唐揚げサイコー」
「靖友、それくらいにしといてくれ。オレの分がなくなる」
「ケチぃ」

重箱の中身は結構な量なので、周りのクラスメイトにも食べてもらうのだが、大食漢の隼人は独り占めをしたがる。








「新開!荒北!聞いてくれ!我が自転車競技部のテレビ出演が決まっ……」ガチャーン!!

騒々しく教室に駆け込んできた尽八の声と共にけたたましい音が響いた。
尽八が女子生徒にぶつかり、その子の筆箱を落としてしまったのだ。

「す、すまぬ。大丈夫か?」

尽八はひざまづいて筆箱を拾い、そのままの姿勢で彼女の両手を取って、筆箱を握らせた。

「ア〜ア。これでまた一人、東堂に堕ちたナ」

荒北が呟くと、隼人も頷いた。


自らを美形と称する尽八は、他人との距離が時に近い。
女子からの人気は、まあ、彼の顔の良さや、明るい性格にもよるのだろうが、
尽八に両手を握られて、間近で見つめられた女子は、まず間違いなく尽八に惚れてしまうのだ。


それも、尽八は無意識にしているのだから、周りの、特に男子から、タチが悪いと思われても無理からぬことだろう。

男子も女子も尽八に気がある人以外、呆れ顔で見ていることに、花は目を丸くした。


* * * * *


「ところで、新開!お前、今日寮に外泊届を出してたケド、デート?」

花の前でなんてこと言うんだとばかりに、隼人は机の下で荒北の足を踏みつけながら微笑んだ。

「いや、花んちの夕食に呼ばれてるんだ」
「ハア?テメェ、美味しいことしやがって。それでなんで外泊なんだヨ?」
「靖友くん。あのね、今日はウチで私のお誕生会をすることになっててね、家族だけでなんだけど」

「何故、この荒北が一条さんから名前で呼ばれているのだ!
それに、新開!一条さんの家族ってどういうことだ!オレもお誕生会行きたいぞ!」

花が口を挟むと、後ろから素頓狂な声がした。

「東堂ウゼェ。耳痛ェ」
「ウザくはないな!なら、お前は行きたくないのか!」
「……行けるんなら、行きテェけど」
「それなら、私も行きたい!」

花は隼人と目を見合せた。

「えっと、来てくれるのは嬉しいけど、ウチちょっと遠いの。車に皆乗ってもらうのは無理かも」
「それに、お前らまで泊めてもらうのはできないぞ」

家に来てもらいたそうな素振りを見せる花を見て、隼人はやんわりと拒絶の言葉を吐いた。

「熱海だったよネェ?家。だったら自力で行けるケド」

荒北は隼人の気持ちを知りながらも、彼女の家に行けばさぞかし旨いメシにありつけるだろうと、イタズラっぽくそう言った。


「うーん。じぁあ、こうしましょう。まず、ママに聞いてみて、皆の分のお食事用意してくれるって言ったら、ご招待するわ。でも、車に乗れるのは、私と隼人くんの他にあと二人。それに帰りが遅くなるから……」
「花、悪い。二人載っけたら、オレのチャリ載れねえから。それに女の子招待するなら昼間じゃねえと、帰り危険だろ」

はっきりとは言わないが、邪魔者に来てほしくない隼人が小さな声で言った。

「ごめんなさい。女の子には帰り危険よね。また、別の機会に昼間遊びに来てね」
「うん。残念だけど、また今度誘ってね」

「うむ。それでは決まりだな!オレはブルベでも使える強力なライトを持っているので、荒北と共に自分のバイクで行くとする。もちろん、帰りも自走で帰れるので問題ないぞ!」

場の空気を読めない尽八が、力強く言った。

「ということで、オレらお邪魔してもイイ?」

荒北は一応、隼人を気にして聞いてきた。

「ああ。オレは別に、花さえ良ければ……」

『花は別に野郎を招待したかった訳じゃねえんだけどな』と思いながらも、隼人は、同意の言葉を口にして、荒北と尽八から目をそらした。
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